192話 大幅な水軍増強
三河国一色 一色政孝
1567年春
抱え大筒を大量に入手してから数週間が経った。
織田との同盟に関しても両家の間でしっかりと話が纏まり始めており、先日は織田領の鳴海城で泰朝殿が秀貞と会談をした。
同盟に際してどの程度の干渉をするかといったことが決められたらしい。
そして市姫を氏真様が迎えた際の待遇も伝えられた。早川殿が側室として、正室の立場を譲るということだ。
結果として氏真様と信長・市姫両家で顔合わせを行うことになったのだが、それが問題であった。
なんと信長の要望により、ここ一色で顔合せをすることとなったのだ。なんでも最初は大井川領でと言ったらしいが、流石に遠すぎると家中で大反対が起きたらしい。
だから、というのもよく意味が分からないが、先日泰朝殿よりそう伝えられた。まぁ仲介役になったのだから最後まで見届けようと思う。
「水軍の再編は順調のようだな」
「はい。先日は殿や、昌友殿に大変ご迷惑をおかけいたしました」
頭を下げているのは家房であった。昌友に命じたとおり身代金を支払うことで捕虜となった者らを解放させたのだが、あまりにも吹っ掛けられたものであり、水軍に復帰させた親元が怒り狂って大暴れしている。
今日も傘下の者らを連れて海賊狩りをしているのだが、もはやどちらが海賊なのかわからない有様なのだという。
しかし一応襲いかかってくる船だけ沈めているようだから、止めるつもりはない。
むしろもっと沈めてくれてもよい。
「気にするな。今回のことを糧にさらに強くなってくれれば文句は言わぬ」
「精進いたします」
「頼むぞ」
新兵の訓練があるといって家房が出ていき、入れ替わるように景里が入ってきた。
景里には抱え大筒を海上で操るための専門の部隊を訓練させている。しかし訓練といってもとんでもない量の火薬を消費している。
先日抱え大筒を置いて帰った吉次の配慮もあり、多少安く仕入れてはいるがそれでもなかなか痛い出費になっていた。だが海戦で有利に戦えるようになれば、もう少し商人らの利も増えるだろう。保護料も弾むやもしれん。
「失礼いたします」
「おぉ、訓練の方はどうだ?」
「はい。あのように大きな火縄銃、なかなか扱いに苦労しておりますがどうにか形にはなっておるかと」
「海上で使えそうか?」
「それはまだなんとも・・・。ある程度の距離なれば問題なく的に当てることが可能ですが、10町ともなると流石に当たったり当たらなかったりと確実性はなくなります」
「陸でそうなら海の上は些か厳しいか」
やはり鉄砲の上位互換として陸で運用するしかないのだろうか?だがサイズが大きいため、大筒よりマシではあるがあまり担いで動き回るというのは避けたい。
「使うならば間違いなく海上か、それか籠城・攻城戦なのだがな」
「攻城戦で使われないのですか?」
「攻城の機会があるのであれば持っていくことも考えているが、現状一番必要なのは護衛船であろう?」
色々考えてはみたが、やはり現状の抱え大筒に精度を求めるのは間違いかも知れない。当たる当たらないは二の次として、当たれば大打撃という部分に特化させるしかない。
「彦五郎、巨大な船を作りたい。関船よりも巨大なものだ」
「関船より巨大と申しますと、いったいどの程度のものを想定されているのですか?」
「櫓を増やせ。関船の倍ほどだ」
彦五郎は固まった。
それもそうか。
だが関船より巨大な船はすでに一部の海賊らが製造しているはずだ。何年か前に庄兵衛から聞いた。
瀬戸内を拠点にしている村上家や、三好の水軍筆頭安宅家などが所有しているのだと。
その名も安宅船。動きは鈍いものの、大きな船体には様々な軍備を整えることが出来る。
船上は総矢倉で囲まれていて、鉄砲や弓で攻撃するように小窓が作られている。
これならば運用の難しい抱え大筒でも多少なりとも安全に使えるのではないだろうか?精度を捨てるため、少数の安宅船に大量の抱え大筒を積み敵が見えたら一斉射撃させる。当たればラッキー、当たらずとも敵の戦意を削ぐことは出来るだろう。
「庄兵衛に命じて瀬戸内の海賊から船を買う。もしくは設計図だな。それを元にして新たな船を作り、水軍に配備する」
「前例のないものではないのですね?」
「あぁ、あちらは水軍がだいぶ進んでいるからな。知識を仕入れるのであれば、瀬戸内へ誰よりも行っている商人を頼るのが一番だ」
「・・・かしこまりました。水軍の発展のためにございます。その巨大な船が来次第、造船に移りましょう」
彦五郎の水軍好きが俺の計画をおし進めてくれる。
そして一色水軍でもついに安宅船を運用することが出来るとなると、ついにここまで来たと感慨深いものになる。
いずれは信長が毛利水軍を倒すために作ったという鉄甲船も作りたい。そこまでしてようやく水軍を極めたと言えるだろう。
まぁ一個ずつ進めていかねばならぬな。
いずれ出来るであろう安宅船の完成が待ち遠しく思えた。
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