173話 父子敵対す
小田原城 北条氏政
1566年秋
「それで状況はどうなっている?」
小田原城の広間にて、私に従うと誓った者らが集まっている。そのほとんどが伊豆衆と小机衆で構成されていた。
「現在氏康様は武蔵の上杉勢力を纏めるべく広範囲に兵を展開しながら北上しております。先ほども申しましたとおり、最終目標は長野業盛殿の守る箕輪城でしょう。あの城を抑えれば、上野に城を持つ者らは抵抗をやめましょうからな」
「なるほどな。それで調略なども用いているのであろう?」
「上野の厩橋城城主である北条高広がこちらに寝返りたいと申しておりました。結果として寝返ったのは殿にでは無く、氏康様に対してとなりましたが」
やはり上杉に味方を作っておられたか。それも関東方面の上杉方をとりまとめていた北条高広とは・・・。
「実際どの程度父上に味方している?」
「そうですな・・・。小田原衆の一部と江戸衆ですかな。あとは旧上杉家臣と下総の一部領主ら」
「古河公方は?」
「私が知る限りでは日和見ですな。氏康様に同調しておるのは
なるほどな。しかしこれはちょうど良い具合に敵味方が分かれたものだな。尚更私の考えた方法がうまくいきそうである。
「長綱、風魔の忍びを使って上総・下総・常陸・安房に同盟の文を届けさせよ」
「・・・同盟といいますと」
みな黙って私の言葉を聞いている。氏照も険しい表情で私のことを見ていた。
「かつての敵と不可侵を結ぶ。さらにその盟と同時に関東に混乱をもたらそうとする父上を協力して討伐する約定を交わす」
「兄上、今ご自身で何を言われているのかわかっておいでなのですね?」
「当然分かっている。だがこうでもせねば父上を止めることは出来ぬ」
盟の内容としては、これより10年間続く盟を結ぶ。互いに己に近しい者を人質として送り、その同盟を確かなものとする。
また長年北条の介入によりその責を果たすことの出来ていなかった鎌倉公方の復活を北条は支援し、関東管領との協力関係も構築させるといったものを条件として考えている。
これで足利は乗ってくるであろうし、関東管領との関係が切れぬと安心すれば他の家も乗ってくる可能性はあろう。
問題は安房の里見であるが、あそこはどうにもならぬやもしれんな。
「北条の民は長年続いた戦で疲弊している。そして此度のこの御家騒動がとどめとなったであろう。故にこれ以上のむやみな拡張は行わず、国力を蓄えるという方針に切り替える。そのために起こす最後の戦と心得よ」
「そのために付近の領主や大名らと盟を成すのでございますな」
「そういうことだ」
長綱は頷き頭を下げた。まだ不安げにしておる者らも、長綱につられるように下げた。
「氏照、私の考えに賛同出来ぬか?」
「いえ、俺もこれ以上民達に無理を強いるのには反対です。ですが、果たしてあの者らのどれほどが兄上の案に乗ってくるのかを考えておりました。どの家も乗ってこなければ、この策は成り立ちませぬ」
「確かにそうだ。だから確実にこちら側に落とさねばならぬ者だけ予め決めておく。その者とは古河公方である足利義氏だ。あやつを鎌倉公方に復帰させるといってこちらにつかせよ。ならば古河公方を支持しておる者らが勝手についてくる」
氏照は頷き、そして他の者と同じく頭を下げる。すぐに上げると、
「早速文を送りましょう。それと未だ父上に城を落とされていない者らとも連絡を取らねばなりません」
「その役目は私がやりましょう」
長綱が手を挙げ、それに俺は頷いた。
「政景、義氏との交渉はお前に頼みたい」
「お任せください。必ずや説き伏せてみせましょう」
「頼りにしているぞ」
そして現状最大の問題である氏邦のことである。
「茅ヶ崎城に子の国王丸が囚われておる。茅ヶ崎城は小机城の目と鼻の先ではあるが、私にとっては大事な跡取りだ。迂闊なことをしたくは無い。故にしばらく茅ヶ崎に手出しは無用。機が来たと判断すれば、相模に待機させる者らに攻めさせる」
誰も反対意見を言う者はいない。おそらくだが国王丸のこと、すでにみな知っておったのであろう。
だがすでに敵方に渡っているために手出しが出来なんだ。
「味方が集まり次第我らも父上を追って武蔵へと進軍する。だが私はあくまで父上をお止めする。道中の敵方の城は全てお前達に任せる。私の首がかかっておるのだ。みな、頼んだぞ」
「「「ははっ!!」」」
正直に言えば、あまりに兵は少ない。見ておらぬからわからぬが、父上の率いている兵の方が数倍多いはず。
さらに旧上杉の家臣もそこに合流ときた。
たしかに今私の中では父上を止める道筋は出来ている。だがそれが果たして上手くいくのかどうか・・・。
「氏照、お前は子机城に兵を置き待機せよ。氏邦になんらかの動きがあればすぐさま茅ヶ崎城を攻撃するのだ」
「かしこまりました」
「これは今後の北条家を占う大事な一戦である。みな心してかかるのだ」
さて此度の作戦、最大の要所は北関東の者らがいったいどれほど私の話に乗ってくるかということ。
上手くいけばよいのだがな。
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