file8 跳ねる男

 藍色の闇の中から入り込んだ黒々しい塊。四肢がゆらめき、窓ガラスの破片を踏みしめる。

 ちぎれたカーテンを押しのけて、そいつはこちらに顔を向けた。

 心臓が強く鼓動する。そいつは紛れもなく――あの時の『ゴム男』だった。

 ――馬鹿な。護衛は。ここには大勢のセキュリティが居たはずだ。

 だが、事実……屋敷の庭園には、黒服たちが首元に赤い痣を作って昏倒し、散らばっている。数分前、闇夜に紛れて跳躍するそいつに気付けなかったことを責められるわけがない。

 フェスタはとっさにシャーロットの前に出て、腕を差し出してかばう。後ろから小さく息を呑むような悲鳴が聞こえる。身体が芯から冷えて、一気に緊迫する。


「……『驚いたな』」


 互いの沈黙を先に破ったのはゴム男のほうだった。バラクラバの奥から声が聞こえ。


「――っ!」


 次の瞬間、フェスタは弾かれたように行動に移っていた。

 勉強机の椅子をひっつかんで、投げる。それからその周囲の小物を乱雑に散らし、男の目の前に。彼が手で顔を覆った瞬間には、彼女の腕を掴んで、その場に背を向けて逃げ出していた。


 部屋を出る。後方から轟音――振り返る。

 入り口を粉砕して、四肢が蜘蛛のように伸び、怪物が姿を現す。そいつはこちらを見ると、四つん這いになって跳躍を開始した。

 走る、走る。目の前に階段――一瞬の躊躇も許されない。


「ちょっと失礼」

「えっ――」


 フェスタはシャーロットをその場で強引に抱きかかえると、勢いに任せて、螺旋状になっている二階から一階に向かう階段の手すりに身を乗り出し、スロープのようにして滑り降りた。腕の中でもぞもぞ動く彼女を気にする余裕はなかった。後方を振り返る。

 ゴム男が天井から階段を上下するように跳ね回りながら、こちらに向かってくる。天井のシャンデリアが大きくゆらぎ、踊り場の花瓶が粉々に粉砕される。色付きの影が襲ってくるようだった。フェスタは走り下りる。

 ……一階。ロビーの奥の部屋から、ひとり。母親だ。騒ぎを聞きつけてやってきた。そして目が合う――後ろの怪人と。彼女は口を大きく開き、ヒステリックな悲鳴を上げた。

 一階へ。シャーロットは身体を弾くようにしてフェスタから離れ、母親のもとへ駆け寄った。彼女はそのまま昏倒しそうだったが、娘にかろうじて支えられた。

 フェスタは彼女たちの前方へ。かばう形をとる。

 ……上階から階段。花瓶を砕き、シャンデリアを揺らし、木製の手すりと段を砕きながら、そいつは着地した。埃を巻き上げて、床を揺らしながら、黒い影が目の前に現れる。


「何、なんなの、こいつ……」

「……っ」


 答えられないでいると、そいつは口を開いた。


「てめぇを消しに来たぜ、刑事さんよ。間違いない、こうなった目でもよく見える……」


 ざらついた、喉奥からこみ上げた声。バラクラバ帽の奥で、確かにそいつは歯を剥いて笑ったように見えた。そして――こいつは今『刑事』と言った。


 そこまで気付いているのか。後方からシャーロットの視線。『潜入』という二文字が今この瞬間消え去ったのを感じる。だがそれよりも今は……この二人を、後ろにいる二人を守らねばならない。フェスタは彼女たちの前に立ち、両手を広げてジリジリと交代する。こうなっては通報だってままならないだろう。ならどうする、使用人達は。リヴィングを見る。何人かが狼狽してこちらに気づき、向かってくる。


「来るなっ、殺されるぞっ!」


 万事休すか。今、『ちから』を使えるとも思えない。どうする、どうする――。


 その時、吹き抜けの窓ガラスが砕けて、外から降下する者があった。


 着地する。後ろでまとめた黒い髪にボディスーツ……砕けたガラスのきらめきの中で、一瞬目が合って……。

 彼女――フェイは、巻きつけていた降下用のロープを投げ捨てると、左腕で構えた先太りの円筒から何か塊のようなものを射出した。

 それはゴム男の頭上に舞い放射され、大きなネットになって彼の身体に覆いかぶさった。

 くぐもった怒声とともに、黒い四肢が網の中でもがく。フェイはそれを確認すると円筒――ネットガンを投げ捨てて、フェスタの方を振り向いた。


「お前」

「スミマセン。道が混んでました」


 彼女は素早く状況を確認した――怯えている少女とその母親。端には、呆然と硬直している使用人たち。彼を見た。


「こいつはきっと。おれが狙いだ。だから――」


 フェイは頷いた。言わずとも分かっていた。

 ネットの拘束時間はそう長くない。みしみしと、柔らかな檻の中で黒蜘蛛が蠢き、徐々に弾けつつある。

 フェイが夫人のところに駆け寄って、使用人たちと共に、裏口から逃げるよう声をかける。夫人は人形のように青ざめていたが、電気的な反応のように頷く。フェイに背中を押されて、向こう側へ居なくなる。瞳が、フェスタの後ろで硬直する娘を追っている……。


「……私」

「何してる、早くフェイに従って逃げるんだ!」


 もはや演技をかなぐり捨ててフェスタは叫ぶ。後方と化け物、交互に見る。焦燥。


「私……怖いの。怖いのよ」


 彼女は……両肩をかき抱いて、震えていた。あまりにも弱々しかった。


「お父様が死んだのは……会社のゴタゴタに巻き込まれたのが苦しくなって、自殺したからだって。警察がそう言ってた。詳しいことは誰も教えてくれない」


 ――ずきり。そんな風に、教えられていたのか。残酷で、優しい嘘。しかし、そうでなくては、彼女の心は簡単に崩れてしまうだろう。


「でも、違う。きっと違う。父は、もっと大きな何かに殺された。今なら分かる。その時から私にとって、何もかもがこわい。だけどお兄様が守ってくれた。それも、もう居ない。こわい……私は、こわいっ……」


 フェスタは、震える少女をじっと見ていた。

 ……時間の感覚がくるって、彼の中に、過去が流れ込んでくる。これまでの全てが。

 警察に入ってから、今日まで。正義に燃えていた頃から長い時間が経って、すっかり擦り切れて。そんなものなど通じないと思い知った日。それから更に経って……今、ここに至る。

 それは何かを成し遂げるためなのか。だとしたら、おれはこわい。またあの頃のように戻ってしまうのではないかと。その恐怖がある限り、自分は絶対に先には……。

 ――貴方、生きようとしてたよ。体が動いて、無意識に……先へ進もうとしてた。

 その言葉が脳裏に蘇った時、フェスタは自分を叱責した。

 ――馬鹿野郎。そうじゃねぇだろ。いまのおれに、出来ることは。


「大丈夫だ」


 フェスタは、シャーロットの肩を掴んで、顔を真正面に向けて言った。


「今度はだいじょうぶだ。警察が、君を守る。必ず」

「守るってなによ。私を守ってくれたことなんか、いつだって……」

「大丈夫だ。今度の警察は、絶対に大丈夫だ。もう二度と、大事なものをこぼさない」


 ――震える声でそう言って、笑顔を作った。

 フェイと目が合った。頷き合うと、半ば強引に、彼女にシャーロットを預けた。

 もうまもなく拘束が切れる。怪物は怒声を上げながら、網を引きちぎろうとする……。


「あなた、あなたは一体、何者なの……」

「言ったろ。ストーカーだ。だから、また、学校で、会おう」


 その言葉の返事が返ってこないうちに、フェイは彼女をロビーの奥の廊下に押しやって、他の皆とともに屋敷の裏口へと向かった。

 後ろから見えなくなる直前、フェイの言葉が聞こえた。


「……気をつけて。『本質』を思い出して」


 フェスタは、親指を立てて、それに答えた――。



「ぬあああああああっ!」


 男が唸って、同時に四肢が弾け、網をバラバラに引き裂いた。

 自由になった彼は、大きく息を吐きながら、向かい側の少年を見た。

 少年は、汗をかいていた。じっとりと、緊張が空間を支配していき。

 

 玄関に踵を返して、走った。一対一なんかできるわけが……。

 ――防がれた。

 大きく跳ねた黒蜘蛛が、目の前に着地し……出口をふせいだ。


「話し合わないか」

「やなこった。死ね」

「……だよな」


 そしてすぐ、弾かれたように身体を廊下に向けて、そちらに向けて走り出した。

 後方で、大きくバウンドしながら追いかけてくる黒い影を感じる。そいつはジグザグに天井と壁と床を跳ね回りながら、長い路を駆け巡り始めた。思い切り地面に叩きつけたスーパーボールのようだ。みし、めき……フローリングの破砕音が聞こえる。大きくなる。

 走る、走る。奴はここで自分を仕留めるつもりだ。この建物の中で。

 焦燥のまま、通信を開く。


「おい、ドク! こちらアダ……フェスタ! 応援は来ないのか!」

『ええっ!? えっと……ああ把握。じきに行かせる。でもまだ。それまでもたせて!』

「骨が折れるぜ……」


 通信終了。後ろを振り返る――黒い四肢が踊り狂い、豪奢な廊下の四辺にヒビを入れながら迫ってくる。


 ――『もたせる』。それ以上のことはできない。ならば、できるだけ、できるだけ長くこの事態を引き伸ばすことだ。おれが駆け回れば駆け回るほど、建物は破壊されていく。喜べクソ野郎、余罪はたっぷりあるぞ。

 四角い光が先に見えた。彼はそこにダイブする。大きな空間が途端に広がる。見渡す――リビングの中だ。一時間ほどまえ、ここでマダムの菓子責めに遭っていた。


「この野郎、ストをやってやる」


 バタバタと急ぎながら、絨毯の上に綺麗に並んでいる椅子を廊下の入り口に重ねて、ソファを全身の力を込めて動かす。奴は追ってくるが、直線上じゃない。ジグザグだ。おそらくはゴムだからそうしなきゃ走れないのだろう。衝撃を吸収してしまう雪とは違う。ならスピードはこちらに有利だ。くそっ、絨毯が邪魔でソファが動かない。ならここまでだ。

 計画変更、リビングの奥からキッチンへ向かう――数秒は時間稼ぎになるはずだ。しかし。


「舐めるなよ、ガキがあッ!」


 男の叫び。廊下を見た。彼の腕は入り口に伸びて、その身体は大きく後方に、弓のように引き絞られ……まもなく、解放された。

 彼の黒い身体は弾丸のように勢いがついて前方に突貫。そのまま、バリケードになっていた椅子をぶっ飛ばし、リビングに入り込んできた。

 慌てて飛んでくる椅子を避ける。それは大きな庭に向いた窓に衝突して音を立てた。尻もちをついて、小さな自分の体が、結局広い空間に投げ出されるのを感じる。シワになった絨毯。

 奴が、廊下から、リビングに入り込んできた。ご対面だ。

 彼は、ちょうど壁にかけてあった絵画を掴むと、にいっとバラクラバ帽の奥で笑い。


「七面鳥撃ちだぜ、坊や」


 そう言って、自らの腕を引き絞り、ブーメランのように投擲した。

 もはやそれは狙撃だった。回転する切っ先となった絵画はフェスタの頭上をかすめて窓を突き破り、けたたましい音とともに透明な破片を撒き散らす。頭を押さえながらうずくまって、顔を上げる。男は既にリビングの中だ。彼は続いて椅子を掴んで。また後方に腕を引き絞り、投げた、投げた。

 ガシャン、ガシャン。

 もはや、広いリビングの中を逃げ惑うので精一杯だった。男はリビングにある様々なオブジェクト……椅子、観葉植物、その他諸々をひっつかみ、自分の腕を砲台にして、少年に向けて一直線の射撃を始めた。大きな質量の砲弾は少年の後方や頭上にぶち当たり、明るい、白い生活感漂う室内を、無茶苦茶に荒らし始めた。

 轟音。まず、液晶テレビが破壊された。続いて、暖炉だ。飛んできたものの軌跡が見えるほどの速度。逃げ惑う、頭をおさえて逃げる、逃げる。くそっ、遊んでやがる……。

 シャンデリアが、破壊された。根本から。それは床に落下して砕けた。

 途端に、室内がふっと薄暗くなる。

 ――途端に、明るさに焼けそうだった目が暗闇に入り込んで、冷静な自分を少し取り戻す。


 そこで、二文字が浮かんだ。『本質』の二文字。フェイの奴が言っていた言葉だ。


 次、どこから投擲が来るのか。その焦燥のはざまで考える。『本質』。力の本質。思い出せ、おれの本質。力の本質。あの時何を思った。どんな力を欲した。それを思い出せ、イメージしろ、あのときの状況を……。


 薄暗いなかで、また何かが破壊された音がした。背中に寒気を感じてそこから逃げる。

 逃げ込んだ先はキッチンだった。その先には小さな扉。ハウスメイドが出入りするのだろう。施錠されている……袋小路。あの日、あの時とは真逆……。

 ――何かが、足にぶつかった。恐らくは、テーブルに飾ってあったフルーツバスケットだったように思う。彼は転倒した。鋭い痛み。


「ぐ、う……」


 背中を見せている。急げ、立ち上がれ、ここから逃げろ。

 ぐいっと、自分の体が持ち上がる。呼吸が苦しい。首を掴まれている。そして襟首がまわって、正面に。黒い顔。目の前。今、奴が目の前に。自分を掴んで、持ち上げている。


「くそっ、離せ、離せっ……」


 子供がもがいて何になる――男はにっと笑って……要請通り、手を離した。

 どさりと地面に叩きつけられる、呻く。畜生、死ぬほど痛い。黒い影はそのまま自分の上にのしかかってくる。息苦しい。細い四肢、その一本。先端に握られている……包丁!

 喉元に、突き立てられる。


「嗅ぎ回りやがって。お前らが居なけりゃ、俺たちの計画はもっとスムーズだったんだ」

「うる、せぇ……おれは、刑事だ……お前を追うのが、仕事だ……」

「そんなナリでよく言う。だがなぁ、ちょっとばかし、楽しかったぜ」


 男は――この場にふさわしい二文字を発した。さも、愉快そうに。そう、愉快そうに。


「お前らが何も出来ない頃、俺たちは俺たちの力で殺し回ってた……目的のために。裏をかいて、翻弄して。最高だ。俺たちの恨みを、奴らの命ではらしてやった……ははは」

「て、めぇ……」


 鈍色の切っ先による戦慄よりも先に、湧き上がってくる。怒りが。どうしようもないほどに。


「何のために、こんなことを、続ける……」

「決まってるだろ。お前らの悲鳴を聞くためだ。お前らの苦しみをたっぷり味わうためだ。それは、相手が俺たちを苦しめた奴であるほどいい……


 そこで――完全に、胸の内側が空洞になった。こいつは。こいつは今、なんと言った。

 ふいに、自分の置かれた状況を思い出す。数分前、自分は誰に会っていた。誰の話を聞いていた。誰から菓子を薦められた――『誰から、この事件の糸口が、もたらされた』。


「まさか、お前……レナードだけじゃなくって……」

「ああ? レナード。ああ……あのジジイのことか。あいつは鬱陶しかったな。だけど消えた。今度はそいつの息子。あいつも鬱陶しかった……だが、もう、奴は来ない。やってこない。ここに戻ってこられたのは幸いだ――また、ここの連中を、恐怖に怯えさせることができるんだからなぁっ、ははははは!」


 ――頭が真っ白になる。余計な考えが入り込まなくなる。全身から力が抜けて、奴の下卑た笑い声が聞こえてくる。その中で視界が遠のいて思い出す――『本質』。おれの本質。

 思い出す。数分前自分は、誰を見た。誰が泣いているのを見た――。


 ――少女だ。高慢ちきでワガママで。だけど、誰よりも寂しがり屋で。ある一人のために泣ける奴だった。じゃあそいつは誰だ……。


 ――兄だ。ハリー・マカリスター。出会ったこともないのに、そいつを知ってるような気がする。あの子を泣かせるような奴。きっとどうしようもなく罪作りな、そして、そして――。


 どうしようもなく、誰かのためになれる少年。

 それを今、こいつは。こいつは……。


「ふざけるな……」

「ああ……?」

「ふざけるなよ、クズ野郎が……お前が何を思おうが知らないが……」


 ――そうだ。自分の本質。力がこもる。現実感が怒涛のように戻ってきて、四肢に血流と一緒に巡り始める。頭が冴えてくる。そう、本質。もっと若く、もっと早く。それがそうだと思ってた。何かをなすのに必要なもの。いや違う。それは手段だ。なら、本質は。おれが、何よりも大切にしているもの。それが本質だ。だったらそれはなんだ。それは……。


 カタカタ。カタカタ。彼の横で戸棚が震えだす。何かを吐き出す前触れのように――。


「お前のような奴を、おれは絶対に許さないっ!」


 そうだ。おれの本質は。おれが――刑事であること、そのものだ。



 次の瞬間、戸棚が爆発した。

 一斉にドアが開いて、意思を持ったように皿が飛び出して、のしかかっているゴム男に向けて降り掛かった。それは砕けて床に落ち、派手な音を鳴らす。突然のことに男は動揺し自分から離れる。自由になった身体が皿を浴びる前に後退し、落ちていた包丁を『見る』。それは手の延長になり、視線は彼に向いた。包丁は飛んでいき、そのゴムの身体をかすめた。血が出る――いける。彼は立ち上がり、男を指差した。そして、戸棚に入っている残りのあらゆるものを、ことごとく解放した。


 男は転げ回りながらキッチンから出て、リビングに着地した。顔を上げて、そこから出てくる少年を睨む。

 ゴムの腕は、観葉植物の鉢を投げた。少年は腕を前に掲げた。

 それは空中で静止して。少年が指をさすと、また、男に向かって飛来した。

 回避する。冷や汗をかく。何だ一体、急に奴は、何に目覚めた。

 少年はゆっくり歩いてくる。男は床に散らばった家財の破片を次々投擲するが、それらはすべて少年の手前で停止して、まるで支配権を奪われたかのように操られ、自分に向かってくる――主人を、裏切ったかのように。

 避ける。突き刺さる。後方へ。窓の全てが割れて、暗い外の闇が入り込んでくる。

 その中で、少年の銀髪が……明るく輝き、その小さな体を包んでいるように見える。

 彼は、庭を背にしたゴム男を前方に見ながら、耳に小さく指を当てて、囁いた。


「おれだ。応援な、巻き添えにしたくないから下げてくれ。ああ頼む。それから、手術はナシだ。やるべきことが、ようやくわかった」



 管区の署員は、街のはずれ、小高い丘に位置する高級住宅に駆けつけた。パトカーを出て、急いで現場に向かおうとした警官たちを出迎えたのは、その屋敷のあるじであるマカリスター夫人と娘だけではなく、黒いスーツの女ニンジャと、動揺した使用人とハウスメイド達だった。


「君たちは何者だ。一体、中で何が起きてるんだ」


 すると、女ニンジャは懐から警察手帳を見せた。


「このナリでも、一応こんななので。それから、来てもらって悪いっスけど。この人達を保護してやってくださいっス。うちも、あなた方も、当分ここには入れないっスから」


 彼女は屋敷の方を見て、言った。明かりが明滅している。


「もう一度聞く……中で、何が起きてるんだ」


「戦いっスよ。怪物同士の」

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