48.対峙
「そこで何をしている!」
エヴァンとマクシミリアンが一触即発となっているところへアイラットの衛兵がやってきた。
「私はマクシミリアン・アイスバーグ。ブランドール王立聖騎士団所属だ。悪魔が棲むと言われている屋敷の調査が目的でこちらへ赴いた。貴国アズラスタンの許可も得ている」
「く…国のですか…?」
マクシミリアンの言葉に衛兵がたじろぐ。
「俺はエヴァン。この屋敷の住人だよ。いきなりこいつらが現れて困ってるんだ」
エヴァンが肩をすくめた。
「早いところこいつらを追っ払ってくれないか?迷惑してるんだ」
「それはできない。我々の目的はこの屋敷の調査だ。邪魔立てする者は容赦しない」
マクシミリアンも一切引く様子がない。
「し、しかし…」
衛兵が困ったように両者を見比べる。
「なあ、頼むよ。俺はこう見えてリニヤッド騎士隊長様と一緒に仕事をしていてさ、こうも余計なことが起こると隊長も迷惑すると思うんだよ」
「リ、リニヤッド隊長?それは本当か?」
衛兵が驚いたような声をあげる。
エヴァンの言葉にマクシミリアンの眉がぴくりと持ち上がった。
「ああ本当だとも。嘘だと思うならリニヤッド隊長様に聞いてみてくれよ。そこの老け顔のあんた、あんたもこの屋敷に用があるんならまずはその辺の話を通してからにするんだな」
エヴァンが話しかけるとマクシミリアンはふんと鼻を鳴らすと踵を返した。
「行くぞ」
「よ、よろしいのですか?」
「くどい。この場は一旦引くことにする」
マクシミリアンはそう言うと背中越しにエヴァンを睨みつけた。
「エヴァンとやら、貴様の顔は覚えたぞ」
「俺の方は忘れそうだけどな。この年になるとなかなか人の顔を覚えてらんなくってさ。そういえば名前なんていうんだっけ?」
「…マクシミリアン、マクシミリアン・アイスバーグだ。いずれ貴様とは相まみえることもあるだろう。それまでせいぜい用心しておくことだ」
マクシミリアンはそう言うと騎士隊を率いて去っていった。
「まったくなんなんだよあいつは」
エヴァンはサリアを助け起こしながらぶつぶつとぼやく。
「す、すみません…」
サリアはエヴァンに謝ると力なく倒れ込んだ。
「お、おい、大丈夫かよ?」
エヴァンはサリアを抱えると慌てて屋敷へ戻っていった。
◆
「なるほど、事情は分かったよ。俺たちがこの屋敷の封印を解いたから天遍教聖騎士のあいつが調査に来たという訳か」
サリアから事情を聞いたエヴァンは顎をさすりながら答えた。
「調査などと言う生易しいものではないはずです。あの人の目的はこの屋敷ごとあなた方を滅殺することだと思います」
「だろうな。天遍教聖騎士と言えばこの世に残った悪魔を滅ぼすために組織されたようなもんだし」
エヴァンはソファに背をもたせるとサリアを見た。
「しっかしお前さんも天遍教なんだろ?なんでわざわざあいつを怒らせるような真似なんかしたんだ?」
「そ…それは…」
サリアが頬を赤くしながら口ごもる。
「そ、そう、それはあなた方を倒すのはこの私だからです!マクシミリアン様と言えどそれは譲れない、だからです!」
「まあそれならいいんだけどさ。別にあいつらの好きにやらせてやれば良かったのに。殴られても痛いだけだぞ?」
「し…しかしそれではこの屋敷が…」
「あいつら程度じゃこの屋敷にはどうこうできないって。悪魔の作る結界はそんじょそこらの人間に対処できるもんじゃないからな。だろ?」
エヴァンの言葉にフォラスがうんうんと首を縦に振る。
「さ…さっきも結界を張り直してたから…大丈夫。わ…私の結界を破りたかったら…て…天使か悪魔を連れてこないと無理」
「だろ?」
エヴァンは得意げな顔をしたがやがて困ったように天を見上げた。
「しっかしこれでイヴェットに借りを作っちまったな。やっぱりやらないと駄目か」
「イヴェット?」
「ああ、さっきギルドで会ったんだ。この女がまた顔とスタイルは良いのに性格が…って、サリア…さん?なんでこっちを睨んでるんですか?」
「あ…あなたという人は…私が本気で悩んでいた時に…女と出会っていたんですか!」
「いや待て、それは誤解だ」
「何が誤解ですか!こっちの気も知らないで!私がどれだけ…どれだけ悩んでいたと…!」
「待て、まず話を聞け、いや聞いてください。ちょっと、その瓶をどうするつもり…いや、投げないで!」
◆
「よろしいのですか、アイスバーグ卿。このまま引き下がっても」
「構わぬ」
副隊長のナサエルの問いにマクシミリアンは静かな声で答えた。
既に落ち着きは取り戻している。
「我らならいつでも打って出られますが」
「止めておけ。貴様らでは何人かかっても敵わぬであろう」
「そ、そうなのですか?とてもそれほどの力があるようには見えなかったのですが」
ナサエルが驚いた声をあげる。
(貴様らにはわからぬであろうな)
マクシミリアンは心の中で呟いた。
奴の、エヴァンの技量は部下たち程度では気付くことすらできないだろう。
マクシミリアンは知らず知らずのうちに先ほど剣を当てられた手首をさすっていた。
今でも全身を貫く寒気が抜けていない。
あのまま闘っていたらどうなっていたか…いや、神の祝福を得た己が負けるわけがないが、一分でもその可能性があるならばそれは取り除かねばならない。
ならばあそこで討ちかかるのは得策ではないだろう。
それにあの屋敷、張られていた結界は今回連れてきた退魔司祭たちでは容易に突破できないだろう。
エヴァンがやったとも考えらえるが、あれほどのレベルであれば別の仲間がいるという可能性も無視できない。
もっと準備が必要だ。
そしてそれについては当てがある。
マクシミリアンはにやりと笑った。
「なに、時間はまだある。それに正面からかかるだけが手でもあるまい」
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