34.王都アイラット
それから一週間後、3人は巨大な城壁に囲まれた都市に到着した。
大きな門からはひっきりなしに人や荷馬車が出入りしている。
「ここはアズラスタンの王都アイラットだ。ここに拠点を作ろうと思ってるんだ」
エヴァンは2人を連れて門へと向かった。
メフィストが首から下げた登録証は全く問題なく門兵のチェックを通り抜けることができた。
「流石はニンベン、いい仕事をしてるよ」
街の中は門の外以上に賑わっていた。
広い通りの両脇には大きな店が建ち並び、あちこちで呼び込みが声を張り上げて客の関心を引こうとしている。
通りには屋台が列をなし、道行く人々が興味深そうにのぞき込んでいた。
「すご、地上界ってのはこんなに栄えていたのか」
メフィストが驚いたように目をキョロキョロさせている。
「ここは大陸の中でも1、2を争う大都市だからな」
「ふ、ふん、確かに少しは栄えているようですけど、白竜国ブランドールの聖都ハクキョウの方が立派ですね」
サリアは面白くなさそうな顔をしている。
しかし態度は嘘をつけないようでにぎやかな街並みを横目でそわそわと見ていた。
「ブランドールの聖都ハクキョウと言ったら天遍教の聖地だったっけ。何年か前に行ったことがあるが確かに大したところだったな」
「でしょう!?ここよりも整然としていて騒々しくないですからね!あの街こそ地上に再現した天界ですよ!」
エヴァンの言葉にサリアが嬉しそうに頷く。
「でも俺はこっちの方が性に合ってるかなあ。ハクキョウはなんかきっちりしすぎてて息が詰まるんだよ」
「それはあなたが不真面目だからです!そういう人だから悪魔なんかに魅入られるんです」
「そういや門兵にメフィストのことを言わなくて良かったのか?いや言わないでいてくれたのはありがたいけど」
「言ったところで」
サリアは自嘲するように息を吐いた。
「この街は天遍教の影響力が少ないんです。私が訴えたところで徒に裁判で長引くだけです。ならば天遍教の手によって祓った方が早いというものです」
「おいおい、物騒なことは止めてくれよ」
3人はそんなことを言い合いながら街を歩いていった。
◆
「それで、これからどうするつもりなんですか?」
休憩のために立ち寄ったカフェでサリアがそう切り出してきた。
「そうだな…とりあえず宿を見つけて、それから家探しだな。とりあえず5年間ちまちま貯めてた分とクロゼストとネースタで手に入れた分を合わせたら安い家なら借りれるはずだ。まずは落ち着ける場所を見つけないとな」
「果たしてそんなに上手くいきますかね」
サリアはそう言って怪しい笑みを浮かべた。
「なんだよ、こう見えて結構貯めてるんだぞ。いざとなったら剣を質に入れても」
「そういうことではありません」
ハーブティーをすすりながらサリアがすました顔で答えた。
「何の保証もない冒険者に家を貸す家主がいると思いますか?」
「うっ」
サリアの指摘にエヴァンは言葉を詰まらせる。
「知らないんですか?冒険者は家主が家を貸したくない相手トップ3に入るんですよ?ちなみに後の2つは無職と傭兵です」
「…や、やってみないとわからないだろ!なんならギルドと提携してる貸家だってあるはずだ!」
「そうだと良いんですけどね」
サリアはにやにやと笑みを浮かべた。
◆
「駄目かあ~」
エヴァンはため息と共に宿のベッドに倒れ込んだ。
結局あれから1日中貸家を探していたのだがサリアの言う通り貸してくれるという人は1人も見つからなかったのだ。
しまいには城壁の外の貧民街にも行ってみたのだけど結果は同じだった。
「冒険者?駄目駄目!きちんと家賃を払うのかもわからない人には貸せないよ!」
「冒険者でしかも魔族が一緒?冗談じゃない!まだヤクザもんに貸した方がマシだよ!」
「悪いけど冒険者には貸さないって決めてるんだ。即金で買うってんなら話は別だけどね。どう?今なら大まけにまけて大金貨20枚でいいよ!」
「兄ちゃん、もういい年なんだからそろそろ真っ当な職に就いたらどうだい?定職に就いたんなら喜んで貸すぞ?」
家主はみな一様にそう言って交渉する余地すらなかったのだ。
「…まさか冒険者がここまで社会的信用がなかったとはな」
「だから言ったでしょう」
サリアは椅子に座ってふくらはぎを揉みながらそれ見たことかというようにため息をついた。
「諦めた方がいいですよ。大人しく冒険者を辞めて普通の仕事を探すのですね。半年もすれば家を貸してくれる人も現れますよ」
「冗談じゃない!定職に就くなんてまっぴらごめんだ!俺は好きな時に好きなことができる生活がしたいから冒険者を選んだんだぞ!」
「うわ~、ダメ人間だこの人」
断固として拒否するエヴァンをサリアは引いた顔で見つめた。
「ふう~いい湯だった」
そこへ隣のバスルームで湯浴みをしていたメフィストが入ってきた。
「次はどっちが入るんだ?少しぬるくなってるから湯を足してもらった方がいいぞ」
その姿は肩からタオルをぶら下げているだけで他にはなにも来ていない。
「なななっなんて恰好をしてるんですか!」
火が出そうなくらい顔を赤くしながらサリアが叫んだ。
「なにって、湯浴みをしてたんだから服を脱ぐのは当たり前だろ?」
「そうじゃなくって!ここにはエヴァンさんもいるんですよ!男性の前で…は…はしたない!」
「いや、他の男に見せるならまだしも、エヴァンとは魂を契約してる間柄だから今更裸くらい」
憤るサリアにメフィストはきょとんとしている。
「ははは…裸くらいっててて…そそそそういうのは将来を誓い合った間でのみ許されることです!」
「そういう意味じゃあ将来を誓い合ってはいるな。なんせ俺が死んだら魂はこいつのものになるんだし」
「うんうん」
エヴァンの言葉にメフィストが頷く。
「だだだ、だからって…そそそういうことは…」
「なに?ひょっとして妬いてんの?別にあたしとエヴァンはそういう仲じゃないから安心しなって。たまにつまみ食いするくらいだから別にあんたのものにしたきゃしてもいいんだぞ?」
「違います!…っああもういいです!私は別の部屋で寝ますから!考えてみたら悪魔と一緒の部屋なんか神が許すわけがありませんでした!」
叫ぶなり荒々しく部屋を出ていくサリア。
「なんだったんだ?」
「さあ?」
エヴァンとメフィストは顔を見合わせると肩をすくめた。
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