30.独角党の最期
地下室は血の匂いが充満していた。
独角党は軒並み切り伏せられ、残っているのはバンガーただ1人だ。
そのバンガーは血の海の中にへたり込んでいた。
「ひ…ひぃ…」
逃げようとしても足が言うことを聞かないのかひっくり返った虫のように無様に手足をバタバタさせるだけだった。
「た…助けてくれ…!この通りだ!」
血に塗れた戦斧を抱えて近づいてくるドルゴを見てバンガーの顔が恐怖にひきつる。
「そうやって命乞いをしてきた町の人間をどれだけ見殺しにしてきたと思ってるんだ?てめえはよ」
「ひぃっ!」
バンガーは引きつった顔でエヴァンに振り向いた。
「た…頼む!私は自首する!法による公平な裁きを受ける!だから助けてくれ!」
鼻水を垂らし、涙を流しながらエヴァンに哀願する。
「欲しいものなら何でもやろう!財産全てを出してもいい!そ…そうだ!魔族の登録証が欲しいと言っていたな!そんなもの何枚でも発行しよう!登録証の発行権は町長が持っているのだ!私だったら正式なものを発行できるぞ!」
「そうは言っても必要なものはもう手に入っちゃったからなあ」
エヴァンはリディウスの亡骸から登録証を取り出して肩をすくめた。
「な、ならば金はどうだ!トロル討伐の報酬だってまだ受け取っていないのだろう?私が死ねば報酬はうやむやになるぞ!ギルドの存続だってどうなるかわかったものではないぞ!
「ふむ…それは確かにそうだな」
エヴァンは腕を組んで首をかしげるとドルゴを見た。
「ドルゴ、あんたはどう思う?」
「どうもこうもねえ。こいつはここで裁く。それだけは譲れねえよ。あんたへの報酬は俺がなんとしてでも払うと約束する。だからこの場は俺の好きにさせてくれねえか」
「じゃあそれで」
エヴァンは即答した。
「そ、そんなあ!」
バンガーの顔が真っ青を通り越して青黒くなった。
「見苦しい真似するんじゃねえよ。てめえらに殺されていった家族や町民の敵、ここで晴らさせてもらうぞ!」
バンガーの絶叫が地下室に響き渡った。
「済んだみたいだな」
バンガーの骸の前でじっと動かないドルゴの肩をエヴァンが軽く叩く。
「あ、ああ…」
ようやく我に返ったドルゴが振り向いた。
「しかしまあ見事にやったもんだよな」
振り向くその先には累々と横たわる独角党一味の死骸が広がっている。
「全滅させちゃったけど良かったのか?こいつの敵を討ちたがってる奴は他にもいたんじゃないのか?」
「いいんだよ」
ドルゴが呟いた。
「かたき討ちだなんだと言っても結局は人殺しの汚れ仕事だ。そんなのは俺一人で充分だよ。それにあいつらはなんだかんだで甘いところがあるからな。法の裁きを受けさせようなんて話になるかもしれねえ。だが冗談じゃねえよ。こいつらをのうのうと生かしておくほど俺は甘くないんでな」
ドルゴが歯をむき出す。
それは笑うというよりは獣が宿敵を前にしてみせる威嚇にも似ていた。
「それによ…こいつらが生きてたらあんたにとっても都合が悪いんじゃないのか?」
「なんだ、そこまで考えてくれたのか」
ドルゴの言葉にエヴァンは片眉を吊り上げる。
「俺だって多少は頭を巡らすことができらあな」
ドルゴがにやりと笑った。
「ま、後始末の方は俺に任せてくれ。なんとか言いくるめてみせるさ。それよりもさっさと出ようぜ」
◆
「メフィストさん、とか言ったか?あんた隠し部屋なんかを開けるんだろ?屋敷の中にまだそういう場所はないか?」
再び屋敷に戻ると突然ドルゴがそんなことを聞いてきた。
「…あると言えばあるよ。その突き当りの部屋とか」
そこはだだっ広い部屋の真ん中に豪華なベッドが鎮座しているバンガーの寝室だった。
メフィストが壁にかかっている絵を横に倒すと何かが動く音がした。
「こ…れ…で…いい…は…ず…!」
メフィストがキングサイズのベッドを押すがびくとも動かない。
「ぜぇ…ぜぇ…ちょっと!見てないで手伝ってよ!」
エヴァンとドルゴがベッドを押すと音もなく動き、下から地下に降りる階段が現れた。
「あの野郎、やっぱり持っていやがったが」
そこはバンガーの隠し財産を納めた地下室になっていた。
木箱に詰まった金貨銀貨、煌びやかな宝飾品に珍奇な魔法アイテムが壁と床を埋め尽くしている。
「やはりあったな」
ドルゴが羊皮紙で出来た帳面を見つけてにやりとほくそ笑む。
「隠し帳簿と独角党への資金援助、他の有力者への献金リストだ。こいつがあれば問題ねえ」
そう言うと金貨の詰まった小さな木箱をエヴァンに投げてよこした。
「そいつは今回の件とトロル討伐の報酬だ。あんたはさっさとずらかった方がいいぜ。俺はこれから衛兵を呼ばなきゃいけねえ。そうなるとあんたにとって面倒なことになるはずだ」
「…確かにその通りだな。じゃあこいつはありがたくもらっておくよ」
エヴァンが木箱を受け取るとドルゴが右手を差し出した。
「あんたがいなかったら独角党を全滅させることはできなかっただろう。一生ものの借りを作っちまったな」
「別に気にしなくていいって。こっちにも目的があってやったことなんだ。俺もあんたには借りができたしな」
エヴァンがメフィストの方に視線を移す。
それを見てドルゴがにやりと笑った。
「確かにそれもそうだな。だが恩は恩だ。またこの町に来たらいつでもギルドに寄ってくれ。歓迎するぜ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
エヴァンはドルゴの差し出した手を強く握り返した。
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