26.バンガーの屋敷
「なんだ、ドルゴくんじゃないか。こんな夜遅くにどうしたのだね」
真夜中にやってきたというのにバンガーは落ち着き払って3人を出迎えた。
「すいません、バンガーさん。ただどうしてもあなたに確認したいことがあって」
「…まあいい、立ち話もなんだからとりあえず入り給え」
恐縮するドルゴを見てバンガーは軽くため息をつくと3人を屋敷に迎え入れた。
「眠ろうと思っていたところなので手短に頼むよ」
「…実はですね…あなたが…その…いや、そんなことはあり得ないんですがね…」
言葉を濁しながら話そうとするドルゴをエヴァンが手で制した。
「独角党を匿ってるのはあんたなんだろ?」
「……」
「隠しても無駄だから今のうちに白状しといた方が良いと思うぞ。その方が多少は罪も軽くなるんじゃないのか?」
無言を貫くバンガーに構わずにエヴァンは話を続けた。
「…ドルゴくん、用というのはこのことなのかね」
バンガーはエヴァンを無視してドルゴに話しかけた。
あくまで落ち着いている、という口調だ。
「え…ええ…まあ…」
「はあ…」
煮え切らないドルゴにバンガーは困ったという風に頭を振る。
「ドルゴくん、君が独角党を憎んでいる気持ちはわかる。私もそれは同じだ。奴らはこの町に巣くう寄生虫だ。必ず報いを受けさせねばならない。しかしだよ、最近はその気持ちが先走り過ぎているのではないかね?はやる気持ちはわかるがこういうことは静かに確実に進めていかねばならないのだ。それだというのに…」
そう言ってちらりとエヴァンを見て、失望したというように息を吐いた。
「町に来てまだ間もない素性も知れない者の意見を鵜呑みにするとは…」
「い、いえ、そんなわけじゃ…」
慌てるドルゴに対してバンガーは話は終わったとでも言うように立ち上がった。
「君はもう少し冷静な男だと思ったんだが…」
「なあ、一つ賭けをしないか?」
エヴァンが口を開いた。
「なんだね、いきなり」
エヴァンの不躾な言葉に半ば憮然としながらバンガーが答える。
「今から言う部屋を俺たちにチェックさせてほしいんだ。そこで何も出なかったら大人しく引き下がるよ。それでどうだい?」
「くだらん」
バンガーはエヴァンの提案を一蹴した。
「それをして私になんの利があるというのだね。君のようなどこの馬の骨ともわからぬ輩にそんなことをさせられるものか」
「俺が昼間にトロルを討伐したことは知っているんだろ?」
構わずエヴァンは話し続けた。
「あんたはギルドの大スポンサーなんだろ?トロルの討伐報酬ならおそらく大金貨10枚はくだらないはずだ。チェックさせてくれるならそれをチャラにするよ」
「ぬ…」
流石に今度ばかりはバンガーも口ごもらざるを得なかった。
「どうする?断るってんならそれでも構わないさ。明日大金貨10枚を頂いておさらばするだけだからな」
「ぬぬぬ…」
バンガーが顔をしかめる。
おそらく頭の中で利害を高速計算しているのだろう。
「…ふんっ、一度だけだぞ!ついでに言っておくが時間は5分だ。それ以上は断る!いい加減眠らんと明日に差し支えるのだ」
遂にバンガーが折れた。
「そう来なくちゃ!これで契約成立だな!」
エヴァンは笑みを浮かべて立ち上がるとメフィストの方を向いた。
「メフィスト、よろしく頼んだぞ」
「はいはいっと」
メフィストはそういうとこめかみに指を当てた。
「
言葉と共に屋敷中のドアというドア、窓という窓が一斉に開いた。
「なっなんなのだ!これは!?」
バンガーが驚いて辺りを見渡す。
「どうだ?どこかわかったか?」
「うーんとね、この屋敷の一番奥、廊下の右側にある部屋だね。地下に降りる隠し通路があるよ」
その言葉に満足げに頷くとエヴァンはバンガーの方を振り向いた。
「というわけだ。今からその部屋に案内してくれないか?」
「むぐぐぐ…」
バンガーの顔が憎しみに歪む。
「バンガーさん、どうか言うことを聞いちゃくれないですか?チェックさせてくれるだけでいいですよ」
ドルゴが後押しをする。
「…わかった。着いてきたまえ」
バンガーはそう言うとドアへと向かっていった。
そして開けるや否や部屋の外に飛び出し、再び閉めた。
「あっこのっ!」
エヴァンが飛び出そうとするとドアと窓に鉄格子が降ってきた。
「ははは、馬鹿め!その応接間は侵入者を捉える仕掛けがあるのだ!そこで大人しくしていろ!」
バンガーの高笑いの声が足音と共に次第に小さくなっていく。
「クソ!あの野郎!やっぱり黒だったのか!」
鉄格子を握りしめてドルゴが吠えた。
「ちょっと離れてくれ」
エヴァンはそう言うと背中の剣を抜いた。
一閃、鉄格子が扉ごと音もなく両断される。
「す、凄えな…」
「早いところ追いかけよう。おそらく隠し通路に向かったんだろう」
エヴァンは真っ二つになった扉を開いて外に出た。
「ちょ…ちょっと待て、あんた…その尻尾は…」
その時、ドルゴが驚いたような声をあげた。
その眼がメフィストの腰から伸びる尻尾に注がれている。
「あちゃ、ばれちゃったか」
エヴァンはため息をついた。
「あんたの想像通りだよ。このメフィストは悪魔なんだ。で、俺はこいつと契約している。悪いけどこの事は黙っててくれないか?」
「…独角党を追っていたのもこの悪魔と関係があるのか?」
長い沈黙の後でドルゴが口を開いた。
「…まあそういうことになるかな。独角党というかそこにいる魔族が目当てなんだけどね」
「…構わねえ」
さらに長い沈黙の後でドルゴは大きく息を吐くと右手を差し出した。
「町長が犯罪に手を染めてる時代なんだ。悪魔が力を貸してくれることだってあらあな。それに独角党を倒せるんだったら俺だって悪魔と契約でもなんでもするさ」
「そう言ってくれて助かるよ」
エヴァンはにこりと笑うとその手を握り返した。
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