27.独角党

「それじゃあのおっさんをさっさと捕まえるか」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺たちだけで行こうってのかよ!」


 散歩にでも行くようなエヴァンを見てドルゴは慌てたように声をあげた。


「ん?そのつもりだけど?」


「そりゃ無茶ってもんだぜ!独角党は何人いるのかもわかってないんだぞ!せめて自警団の仲間だけでも呼ばねえと…!」


「いや~、この屋敷に隠れる程度の規模だったら大丈夫でしょ。それよりも時間をかけて逃げられる方が厄介だと思うぞ?大丈夫だって、俺が何とかするから」


 あっけらかんとしたエヴァンを見てドルゴは毒気を抜かれたように肩を落とした。


「ま、まあ確かにあんたが言うならそうなのかもな…」


「それじゃ話もまとまったところで行くとするか!」


 3人は屋敷の奥へと走っていった。




 屋敷の一番奥にあったのは薄暗い部屋の中にいくつも本棚が並ぶ書架だった。


 バンガーの姿はとうになかったが部屋の奥に地下へと降りる階段が続いていた。


「こりゃあ…明らかに罠だぜ」


 ドルゴが唾を飲み込む。


「だろうな」


 エヴァンは平然と言いのけると階段を下りて行った。


 メフィストもその後に続く。


「ったく、あんたらの度胸には恐れ入るぜ」


 ドルゴは苦笑まじりにそう呟くと後をついていった。





    ◆





 地下に降りるとそこは石造りの地下道だった。


 壁には3人を待ち受けるように松明が灯っている。


 エヴァン一行は地下道を奥へと歩いていった。



「クソ、バンガーの野郎、こんなところに独角党を匿ってやがったのか。どおりで見つからなかったわけだぜ」


 辺りを警戒しながらドルゴが憎々しげに呟く。


「おそらく町のあちこちに隠し通路があって屋敷と行き来できるようになっているんだろうな」


「しかしあの野郎、町長のくせになんでこんな真似を…」


「それは本人に直接聞けばいいさ」


 エヴァンはそう言って剣先で前を指した。


 そこはドーム状の広場になっていて、剣の先にバンガーが立っていた。


 バンガーだけではない、周囲には武装した数十人の男たちが控えている。


 みな武器を構えて臨戦態勢だ。


 エヴァンたちの背後で扉が音もなく閉まった。



「バンガー!」


 ドルゴが吠えた。


「てめえ!町長のくせになにしてやがんだ!」



「ふん、冒険者風情がこの私に意見する気か」


 バンガーが顔を歪めてせせら笑う。


「誰のおかげで貴様らが食っていけてると思っているのだ。私がいなければ貴様らなど今日食うものにも事欠く有様なのだぞ。感謝されこそすれ誹りを受ける謂れなどないわ!」


「てめえっ」


 怒りに任せて飛びかかろうとしたバンガーの足下に矢が突き立った。


 見上げるとドームの上部に設えたバルコニーで数人の男が弓を構えている。


「くっ…」


「落ち着けって」


 エヴァンは歯噛みして悔しがるドルゴの肩に手を置いて前に出た。


「一つ聞きたいんだけど、こうしてつるんでる所を見るとやっぱりあんたが独角党を取り仕切っているってことでいいんだよな?」


「なんだ、今更そんなことを確認したいのか。いかにもこの独角党のスポンサーは私だ」


 バンガーが余裕たっぷりで答える。


「なんでそんなことをしやがる!」


「金になるからに決まっておろう」


 怒号を上げるドルゴにバンガーが涼しい顔で答えた。


「犯罪は金になるのだ。ならば他の者にやらせておく道理はないだろう?町長として町を守って報酬と名声をもらい、それを利用して犯罪組織を運営して金を得る、これがビジネスというものだよ。ギルドや自警団への資金援助はそのための隠れ蓑、言ってみれば必要経費だな」


「ふざけんじゃねえ!名士のふりをして陰でみんなを食い物にしやがって!どの面下げてそんなことを言いやがる!俺たちの家族はてめえの欲のために殺されたんだぞ!」


「弱者は常に強者の餌になる、それが世の理だよドルゴくん。それを知らないから食い物にされるのだ。言うなれば自己責任だな。君たち冒険者のポリシーだってそうだろう?だったら甘んじてそれを受け入れたまえ」


「…てめえ…殺してやる」


 ドルゴが歯の奥から殺気の塊のような声を絞り出した。


 口の端が切れて血を流していることにも気づいていない。


「…ひょっとして、北の街道に魔物を放ったのもあんたの差し金だったりするのか?」


「よくわかったな。確かにあれも私の策略だよ」


 ドルゴに構わず話を続けるエヴァンにバンガーが得意げに頷いた。


「北の街道は私の商売敵が取引に使っていてね。そこを封鎖すれば商売敵を押さえて町の流通を全て私が握ることになる。町民も移動を制限されれば私の指示に従わざるを得なくなる。どうだ?一石二鳥どころか一石三鳥の手だと思わんかね?我ながらよく考えたものだよ!」


 バンガーはそう言うとさもおかしそうに哄笑した。


「なるほどね。じゃあこれが最後の質問だ」


 エヴァンは話を続けた。


「あんたは独角党のスポンサーであってボスではないはずだ。ボスってのは誰なんだ?」


「それは私だ」


 不意に上から声がした。


 見上げえると射手がいるバルコニーに一人の影が立っている。


 その影はバルコニーから飛び降りるとエヴァンたちの目の前にふわりと舞い降りた。


 それは額から角を一本生やした金髪の魔族だった。


 染み一つない真っ白なシャツに黒いスーツを着、腰には細剣を下げている。


「私が独角党を束ねるリディウスだ」


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