25.黒幕の正体

 地面に額をこすりつけながら祈りを続けるクブカを見てメフィストが惜しむように声をかけた。


「え~、もったいない。もう少しで地獄行きなんだからもうちょっと続けなよ」


「じ…地獄行き?この私がですか?」


 クブカの顔が蒼白を通り越して真っ白になった。


「うん、この調子で悪事を重ねていけば死後地獄に行けるよ」


「ひいいいいっ!」


 メフィストの言葉にクブカが〆られる鶏のような悲鳴を上げる。


「そんなことまでわかるのか」


「まあね。悪魔ならその人間の魂の汚れ具合がわかるからね」


 感心するエヴァンに得意そうに言うとメフィストはテーブルの上にあるコップとワインの瓶を取り上げた。


「このコップがあんたの魂でワインが重ねてきた罪の量だとすると、今のあんたの罪はこの位かな」


 そう言いながらワインをコップの口近くまで注ぐ。


「このワインが溢れたらめでたく地獄行き、そんであたしたち悪魔がそれを美味しくいただくってわけ」


 メフィストはコップを取り上げるとワインを飲み干した。


「いやあああああああっ!」


 クブカが涙と鼻水をまき散らしながら叫んだ。


「もう辞める!奴隷商なんか絶対に辞める!地獄行きは嫌ああああああっ!!」


「その方が良いだろうな」


 エヴァンが泣きじゃくるクブカの肩に手を置いた。


「世話になったから忠告しておくけどこの町からも出た方が良いぞ。それもなるべく早くな」


「へ?それはどういう…」


 エヴァンは親指で床に転がっている男たちを指した。


「あいつらから必要な情報は手に入れたからさ、おそらくこいつら独角党は今夜消滅することになる。ぼやぼやしてると関わっていたあんたにもとばっちりが行くぞ。だから町を出るんなら早い方がいい」



 エヴァンの言葉にクブカは無言でブンブンと首を振った。


「さて、それじゃ俺たちは次の準備に取り掛かるとするか」


 エヴァンはそう言ってメフィストの方を振り返った。





    ◆





「なんだ、あんたらまた来たのか」


 ろれつの回っていない言葉でドルゴが答えた。


 エヴァンたちが今いるのは【ネースタ・ネスト&ギルド】だ。


 流石に酒宴も終わりに差し掛かっているようであちこちで冒険者たちが正体なく眠り込んでいる。



「あんたには話をつけておこうと思ってね。真面目な話になるんだが大丈夫か?」


「あ~、ちょっと待っててくれ。お~い、ヒックス!ちょっと治癒魔法をかけてくれ」


「うぃ~、なんすかドルゴさん。まだ飲み足りないんすか」


 テーブルに突っ伏していた若い治癒士の男がおぼつかない足取りで近寄ってきてドルゴに治癒魔法をかけた。


 ドルゴの顔から酔いが消えていく。


「これでよしと。で、なんなんだ、改まって話ってのは?」


「ここじゃ不味いな。3人になれるところはないか?」


「それならギルドの2階に応接室がある。メリダ、鍵をくれ!」


「あーい。あら~エヴァンさん。私に会いに来たの~?部屋ならまだ空いてるわよ~」


 半分位胸をはだけてうつらうつらしていたメリダがエヴァンに流し目を投げながら鍵を投げてよこしてきた。




「ここなら大丈夫だ。今は他の職員も帰っちまったからな」


 応接間の椅子に腰を下ろすとドルゴが切り出した。


「それで、こんな時間に話ってのは独角党のことなんだろ?」


「ああ」


 エヴァンが頷く。


「結論から言うと独角党の本拠地が分かった」


「本当かよ!?」


 ドルゴが目を見開いた。


「俺たちでさえ3年かかっても掴めなかったんだぜ!」


「まあそこは蛇の道は蛇というかね、ともかくそれを言いに来たんだ」


「そ、それで、どこなんだ、奴らの本拠地ってのは!」


 ドルゴが目をギラギラ輝かせながら身を乗り出す。


「それは…バンガーの屋敷だ」


「はあ?」


 エヴァンの言葉にドルゴが素っ頓狂な声をあげた。


「バンガーって…町長のバンガーさんのことか?あり得ねえ!」


「そう思うのもわかるけどな。事実なんだよ」


 エヴァンはクブカの屋敷で起こったことをメフィストが悪魔だということは伏せて説明した。


「馬鹿な…」


 エヴァンの話を聞いたドルゴは頭を抱えるとソファに身を投げ出した。


「あの人はギルドの大スポンサーだぞ…それだけじゃねえ、俺たち自警団を支援してくれてもいる。そんな人が…」


「信じられないのはわかる。ただしこっちにも事情があるからどちらにせよ俺はバンガーのところに行くつもりだけどね。。ただあんた方は独角党を憎んでいるだろうから事情だけは話しておいた方が良いと思ったんだ。来るかどうかはあんたの判断に任せるよ」


 エヴァンはそう言うと立ち上がり、メフィストを連れて出口へと向かった。


「待ってくれ!」


 背後でドラゴが立ち上がった。


「俺も行く。まだ完全に信じ切れたわけじゃねえ。だったら自分の目で確かめるまでだ」

「あんたならそう言うと思ったよ。他の自警団は連れていかなくていいのか?」


 エヴァンの言葉にドルゴが頷く。


「まだ事実かどうか決まったわけじゃねえからな。誤解だった時に自警団への心証を悪くしたくはねえ」


「そこはご自由に。じゃあバンガーの屋敷に案内してくれないか?」


「もちろんだ!」


 3人は連れ立ってギルドを飛び出した。


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