14.【幕間】その後の荒野の狩人団

 目を覚ましたザックロンの視界に青々と茂った木々が飛び込んできた。


「…ここは…どこなんだ?」


 霞のかかったような頭を振りながら上体を起こす。


 近くに流れる小川のせせらぎと鳥のさえずりが聞こえる。


 辺りを見渡すと見知らぬ男女が同じように地面から身を起そうとしていた。


(誰なんだ、こいつらは?)


 警戒して剣を抜こうと身構えたところで何も武器を持っていないことに気付く。


(何故だ?村を出た時に持ちだした剣を肌身離さずもっていたはずなのに!いや、それよりもここはどこなんだ?)


 ザックロンは恐怖のあまり頭を抱えた。


 何も思い出せない。


 家族からも絶対に無理と言われて、それでも冒険者の夢を諦めきれずに村を飛び出してきた、それは覚えている。


 それから旅を続けてクロゼストの町に着いて、冒険者になろうとギルドのドアを開けた…はずなのにそれから先が思い出せない。


(なんでだ?なんで僕はこんなところにいるんだ?ここはどこなんだ?あいつらは誰なんだ?)


 ザックロンは改めて周りにいる3人を用心深く観察した。


(1人は…うわ、なんとも凶暴そうな大男じゃないか。こいつが暴れ出したら手に負えないぞ。まずは下手したてに出ておいた方がいいか。ポケットの中にナイフがあったからいざという時はこいつで…あとの2人は…2人とも女でいいんだよな?1人は結構な美人でスタイルもいいな。なんでここにいるのかは知らないけどちょっと声をかけてみようかな。もう1人はなんか根暗そうなチビか。でも魔導士っぽい恰好をしてるし用心に越したことはないか。話しかけるにしてもまずは自分の立場をはっきりさせないと。しかしどうやって切り出す?)


 今の状況に戸惑いながらもザックロンは次の行動に移るために考えを巡らせていた。






(ここはどこなんだよ!なんで俺はこんなところにいるんだ!?)


 ジッカは頭を抱えた。


 目を覚ましたらいきなり見知らぬ森の中にいたのだ。


(確か町道場の一人娘に告って振られて、いたたまれなくなって飛び出してきたはずだよな。うん、それは覚えてる。それから金がなくなってしょうがなく冒険者になろうと思ってクロゼストのギルドに行って…それがなんでこんな所にいるんだ?)


 ジッカは用心深く辺りを見渡した。


(周りにいるのは…男1人…チッ、いけすかねえ色男じゃねえか。見てるだけでむかついてくるぜ。あとは女が2人…あれ片方は女だよな?もう1人の方はとんでもない美人じゃねえか!なんで俺はこんな美人と一緒にいるんだ?これも運命なのか?)


 自分の身に起こった不可解な出来事に混乱しつつもジッカはリンサから目を離せないでいた。





(なにここ?なんで私は森の中なんかで寝てんの?ひょっとして拉致られた?)


 見知らぬ場所で目を覚ましたリンサは恐怖で身を慄かせた。


 素早く自分の身体をチェックし、何も被害がないことを確認して安堵のため息をついた。


 それから改めて自分の身に何が起きたのか思い出そうとしたところで目を覚ます前の記憶が全くないことに気付いた。


(ええと、確か神聖職学校を卒業してギルド直属の神聖職になったのは良いけど給料が安かったのと男関係でこじれちゃったから辞めて冒険者になることにしたんだっけ。うん、そこまでは覚えてる。それからクロゼストの町のギルドに登録しようとして…駄目、そこから先が記憶にない)



 リンサは頭を振りながら周囲を見渡し、近くに2人の男がいることに気付いて身を固くした。


(やば、何あの禿の大男、こっちの方をずっと見てる。キモッ。でもあっちの黒髪は結構良いかも。ちょっと頼りなさそうだけど顔が良いし痩せてるもんね。いざとなったら助けてもらおうかな。あ、もう1人いるんだ。あれは女の子…だよね?どうでもいいけど身の安全を考えたら話しかけておいた方がいいかな?)


 リンサは用心深く身構えながら周りの人間とコンタクトをとろうと思案していた。





 タイニーは目を覚ましてからずっと地面を見ていた。


 なぜ自分がここにいるのか全く覚えていない。


 しかし幾つかはっきりしていることがある。


 それは自分がタイニーであること、魔導士学校に馴染めなくて飛び出し、冒険者になるためにクロゼストの町にあるギルドを訪ねたこと、そして目の前の地面に隠すように書かれた文字は自分が書いたものであるということだ。


 書いた記憶はない、それでもその癖のある筆跡が自分の字であることははっきりしている。


 エヴァン?なんのことだろう。人名だとは思うけどエヴァンという名の知り合いはいない。


 ひょっとしてこの人物が今のこの状況に関係しているのかもしれない。


 しかしどれだけ頭を振り絞っても思い出せなかった。


(…駄目、どうしても思い出せない。一旦これは置いておいて今の状況を整理しないと)


 タイニーはそこで用心深く周囲にいる3人を観察した。


(男は2人か…あのどちらかがエヴァンなんだろうか?1人は筋肉だるまでもう1人は軽薄そうな優男…でも両方ともかなり強そう。力じゃ絶対に勝てないからすぐに魔法を使えるようにしておかないと。もう1人は…絶対に好きになれそうにないタイプだけど、今は協力するのが得策なんだろうな…まずはこの状況を知ってる人がいないか確認しないと。でもどうやって話しかけよう?)



 時間だけが森の中を過ぎていく。


 かつてパーティーを組んでいた4人は今や赤の他人となり果て、四者四様にどう話しかけたらいいのか考えあぐねていた。




「「「「…あ、あの!」」」」



 長い沈黙の果てに4人の声が森に響き渡った。

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