荒野の復讐剣
水城洋臣
荒野の復讐剣
第一集 白昼の殺人
「人を
鮮血を滴らせた剣をその手に持ったまま、全身に返り血を浴びた若い娘は、表情ひとつ変える事なくそう言い放つと、彼女を茫然と見つめる役人たちを尻目に、生首を放り投げた……。
後漢末期、
黄河を西へと越えた先にある
西域とも呼ばれるその土地は、北には
二つの山脈の間には、山から流れ出す水源によってオアシスが各地に点在し、それに沿って大小の街が作られていた。
この後漢末の時代には既に漢人たちが入植していたのだが、都から非常に離れている事もあり、まだまだ荒野の開拓地といった様相であった。
事件の起こったのは、正にそうした西域での事。
都である
界隈でも黒い噂の絶えなかった
調べが終わるまでの処置として、娘は県庁敷地内の牢に入れられた。非常に毅然とした態度で、自ら進んで牢に向かうかのような足取りであったという。
事件の起きた禄福県の県庁の周りは住人たちの人だかりが出来ていた。以前から李寿には
その判断を担っていた
そこで
そんな取り調べを請け負った龐邑は、同じ酒泉郡の
この時代の牢獄は、
二月の酒泉は昼間でも気温が低く、身を切るような寒風が吹きすさぶ。夜になれば泉も凍りつく氷点下となる。陽の当たらない圜土牢の中は真昼であっても氷点に近いはずだ。牢の底には防寒用の毛皮が置かれていたが、服も顔も返り血に塗れたまま娘はそれを膝に掛けただけで、表情も変えることなく、ただ大人しく圜土牢の中に座っていた。
厚手の
「私は
茫然と牢の壁を見つめていた娘は、ゆっくりと上を見上げると、格子の先の龐邑に向けて、ほとんど感情を感じない喋りで静かに言う。
「私は人を殺した。それ以上何を話すというのです。ただ法に従って処罰してくれればいいと思いますが」
予想通りの娘の答えに、龐邑は冷静に返す。
「ところがそうも行かないんだ。事件を詳しく記録しておかなければならない。だから君が話をしてくれないと困るのさ。これも仕事という奴でね。しばらく付き合ってくれないかな」
その言葉を受けてしばらく考えた後に黙ってゆっくりと頷いた娘。その反応を確認し、龐邑は質問を続ける。
「名前は何て言うんだい。もちろん
「
そして趙娥と名乗った娘は、如何にして李寿を殺すに至ったか、ポツリポツリとその過去を語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます