1章/0日目 王都からの脱出

1話

コルガナ地方に向かう1本の列車。

この列車はドーデン地方"キングスフォール"からいくつかの街を抜け、コルガナ地方北西部にあるクルツホルムという都市に向かっています。

本来なら終点はさらに先なのですが、2カ月前に魔神の大群があふれ出し、奈落の魔域が各地に出現してしまい、魔動列車の運行が危険な状態となってしまいました。


【奈落の大浸食】シャロウアビスです。


そのせいか、キングスフォールやヒスダリアといった巨大都市を経由したにもかかわらず、このクルツホルム行きの列車に乗っている一般市民はそこまで多くありません。

乗っているのはほとんどが冒険者、傭兵、騎士といったいわゆる一攫千金や強さを求める者ばかり。

例えば、そこの刺突剣、エストックを肩に担いでいるリルドラケン。

筋骨隆々というよりはややしなやかな筋肉で、青い鱗とそれに反して赤いルビーのような目をしています。

彼がリルドラケンのフェンサー、"ディレウス・アライベント"です。

ディレウスの目的は"傭兵"。

オクスシルダという街にたどり着き、攻防戦に参加することが目的です。


ディレウス:エストックを大事そうに抱えながら、外の景色を眺めている。

ディレウス:「オクスシルダって街は終点からさらに北か。受けるだけで10000ガメルだなんて、美味しい依頼だぜ」


と、独り言をつぶやくリルドラケンのそばに1人のエルフの女性が近づき、ディレウスの隣を指さします。

金色のロングヘアと穏やかそうな緑色の目をしており、荒くれ者の冒険者にしては育ちがよさそうな雰囲気を感じさせられます。

しかし、腰には2丁のサーペンタインガン。背中にはトラドールを背負っており、誰がどう見てもマギテックシューターと分かるでしょう。

彼女がエルフのマギテックシューター、"キルシュ・フリーゼン"です。

キルシュの目的は"研究"。

奈落にある遺物を研究することが目的です。


キルシュ:「リルドラケンさん、隣、よろしいでしょうか?」ディレウスの隣の席を差して丁寧に問いかける

ディレウス:「ああ、いいぜ」と言いつつもキルシュを探るような目で見る

ディレウス:「ふーん、エルフのいいとこの嬢ちゃんってところか。けど観光に来た、ってわけじゃなさそうだな」

キルシュ:「いいとこだなんてそんなことないですよ。あなたのような頼れる戦士を探していたんです」

ディレウス:「俺は安くないぜ、って言いたいところだが、俺もあんたのような魔法使いが旅の相方に欲しいと思っていたんだ」

キルシュ:それを聞くとディレウスに向かってお辞儀をする


キルシュ:「自己紹介しますね。私はキルシュ。キルシュ・フリーゼンKirsch=Frezenです」

キルシュ:「元はドーデン地方、フレジア共和国にいました。フレジアは過ごすだけならよい場所なのですが、面白いことはさほどなくてですね」やれやれと首を振る

ディレウス:面白いことがない、という言葉に思わず吹き出した。

ディレウス:「なんだ、面白そうだから来たってか?変わったエルフだなあんた。いやキルシュか」

キルシュ:「よく言われます」


キルシュ:「さて、私は名乗りましたよ。リルドラケンさん、貴方は?」

ディレウス「俺か、ディレウスだ。ディレウス・アライベントDireus=Arebent。見ての通りだが、リルドラケンの傭兵さ」エストックをバンバン叩く。

キルシュ:「それは一目で分かるのですが……」首を傾げる

キルシュ:「私の知っているリルドラケンの一般的なイメージではもう少し巨大な武器と防具を身に着けている感じが」

ディレウス「言われると思ったぜ。俺にはあんなの似合わないんだよ。鋭い剣で華麗にグサッと!これが俺のやり方よ」

キルシュ:「そ、そうですか……」魔法使いにはわからないのか困惑して苦笑い


すると、列車の別区画から子供のような人が走ってきます。

エルフとリルドラケンの会話というのが珍しく感じたのか、ずいぶんといろいろとインタビューをしたそうな顔をしています。

彼は深緑色の髪と青色の瞳、そして背中にはフルートと何やらよくわからない雑貨だらけのリュックを担いでいました。

"ルメス・クレディー"というグラスランナーのバードです。

ルメスの目的は"帰郷"

故郷であるエルヤビビという町にたどり着くことです。


ルメス「よう、なに話してんだ?オイラも混ぜてくれよ!」キルシュとディレウスを交互に見ながら

ディレウス:「おう、どうした」軽く手を上げる

キルシュ:「見た感じグラスランナーの方ですね。あなたは?」

ルメス:「オイラか?ルメスだ。ルメス・クレディーRumes=Credy

ルメス:「ちょっとキングスフォールの方で吟遊詩人やってたんだけどさ、元はこのクルツホルムから奥にあるエルヤビビって街の出身だ」

ルメス:リュックから地図を取り出してエルヤビビの街を指さす。


ルメスが取り出した地図にはエルヤビビの他、オクスシルダも書かれてありました。

列車で行けば数日ですが、歩いていけば数週間はかかりそうです。


ディレウス:「俺の目的の中間地点にあるじゃないか」

ルメス:「ならちょうどいいぜ!噂でエルヤビビってとこがヤベーことになってるって聞いて戻ってきたの!」やたらとオーバーリアクションで解説する

キルシュ:「クルツホルムからは今列車が通っていないそうですが……」

ルメス:「だよな。そこで提案なんだけどさ。オイラを護衛してくんない?」

ルメス:「報酬はアンタたちの旅の目的にも協力してやるってことで!どう?」

キルシュ:少し考えて「悪くはありませんね。ルメスさんは見たところバードの能力があります。長旅をするには一緒にいて損はないでしょう」

ルメス:「あと自分で言うのもなんだけどスパイもできるぜ」

ディレウス:「本当に自分で言いやがったな。まあ、ついでならちょうどいい。一緒に行こうぜ」

ルメス:「おっ、サンキュー!ところでエルフのおねーさんとリルドラケンの兄貴の名前は?」

キルシュ:「キルシュです」

ディレウス:「兄貴って俺か、悪い気はしないね。ディレウスだ。ディレウス・アライベント」

ルメス「キルシュちゃんにディレウス兄貴か!実は俺エルフはもちろんリルドラケンもイケるクチなんだけどさ」とさっそうとリュートを取り出す

キルシュ:「えっ、私たちは恋愛対象に入ってるんですか?」

ディレウス:「俺も入ってんの!?」


ルメスがリュートを弾き始め、キルシュとディレウスが反応に困っていると、また新たな冒険者がやってきました。

冒険者というよりは……騎士でしょうか。3人と比べると兜をかぶり、唯一金属鎧を着ています。

首にはイーヴの神官であることを表す聖印のネックレスを付けていました。

一見、種族が分かりにくいですが……彼女はメリア。

メリアの神官戦士、"パーチア・ベチュラ"です。

パーチアの目的は"依頼"。

鉄道の運行を再開させるため、奈落を攻略することが目的です。


パーチア:「なんだこの曲?」

ルメス:「おぉ!?今度は騎士様だぜ!アンタにも歌ってあげようか?」少し曲調を勇猛に変えつつパーチアに振り向く

パーチア:「結構だ」手を振る

キルシュ:「曲は上手なんですが反応には困りますね。貴女もクルツホルムに?」

パーチア:「ああ。アタシはパーチアだ。パーチア・ベチュラPirchia=Vetula。イーヴの神聖魔法が使えるぜ」

パーチア:「この辺奈落が出まくってどうしようもねえって呼ばれたんだ。ちょうど、アタシの腕の見せ所だよな」

ディレウス:「パーチアか。タフそうなやつだ。リルドラケンって言うには少し小さいから、人間か……兜してるからナイトメアってとこか?」

パーチア:「アタシはメリアだ。シラカバの長命種さ」兜を開ける

キルシュ:「メリアだったんですか!?メリアで神官戦士をやっているのは珍しいですね」

ルメス:「こりゃ吟遊のいいタネになりそうだ!メリアだけにな!」


※メリアは自分の種を地面に植えて子供を作るそう。


パーチア:「うまいこと言ったつもりかこのグラスランナー」指でルメスの頭をぐりぐり

ルメス:「いててててて」

キルシュ:「キルシュ・フリーゼンと申します。よろしければ、私たちと一緒に奈落を攻略しませんか?」

ディレウス:「アンタがいれば心強いね。ディレウスって言うんだ。俺がいても損はないと思うぜ」

ルメス:「ディレウスに同じく!オイラはルメスって言うぜ!」

パーチア:「キルシュにディレウスに、ルメスな。いいぜ、アタシも1人じゃ魔神は殴れないんだ。腕っぷしのある奴がいてくれると助かるぜ」

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