Case22 お金持ちを夢見る男子中学生の話22

 信じられなかった。僕は平穏な生活が崩れる前からお金持ちになりたいとは願っていた。

 しかし、僕が本当にお金持ちになれるだなんて思ってもみなかった。

母の身分を使って購入した仮想通貨はみるみるうちに価値を上げていった。


 ネットで得た情報など、最初は信じられなかった。そもそも仮想通貨がなんなのかも僕はよく分かっていなかった。しかし、そもそも僕には何もなかった。だから僕は自分の持っているものを何かに賭ける事など怖くはなかった。


 僕は金持ちになりたいと望みながら10000円の仮想通貨を買った。


 母がいなくなってからと言うもの僕の家のポストには毎週月曜日には決まって5000円札が入っていた。はじめは不思議に思ったが、すぐに母が毎週入れてくれているのだと気がついた。


 時折僕の様子を見に来るヤクザの男から、母は文字通り自分の身を捧げてお金を稼いでいるのだと聞かされた。そうして稼いだお金はそのほとんどをヤクザに取られてしまうのだが、手元に残ったなけなしのお金を自分に届けてくれていたのだ。


 僕が買った仮想通貨はみるみる価値を上げていった。僕はネットの隅から隅までを探し回って仮想通貨の情報を手に入れた。本当に偶然だけれど、世間よりも少しだけ早く情報をキャッチできたのだ。しかし、そのほんのちょっとが僕の命運を分けた。一か月が経った頃、僕の買った仮想通貨はついに500万円まで到達したのだった。


 僕は500万円の口座をヤクザの男に突きつけて言ってやった。


「500万だ!くれてやる!早くお母さんを解放しろ!」


 無精髭が生えたいかつい顔をした男は目を見開くと、僕から通帳を取り上げて言った。


「兄貴のところに行くぞ!」


 男はそう言うと僕に無理やり目隠をして、僕の身体を縛り上げた。そうして車で連れて行かれたのは、どこか薄暗い事務所のような場所だった。

 目隠しを取ると複数人の男たちがいた。奥のソファには例の黒のスーツに赤いシャツ、鯉の刺繍の入った金のネクタイをした男が座っていた。高そうな酒をグラスで飲んでいる。

 僕は部屋を見渡したが、母の姿はそこにはなかった。部屋に居たのは初めに母を襲ったガタイのでかい男達と、金髪にサングラスをした男、それから黒い長髪で緩いパーマがかかった若い男が入口から見て右手のソファで寝そべっていた。その男だけは他の男と比べてどこか変わった雰囲気で、肘をつく形で頭を上げ、ニヤニヤ笑いを浮かべながらこっちを見ていた。かなり整った顔をしている。


「坊主、500万稼いだんだって?」


奥の男が言う。

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