Case23 お金持ちを夢見る男子中学生の話23
そうだ!500万円稼いだんだ!早くお母さんを返せ!
そう言ってやりたかったのに、僕の声は喉の辺りで詰まって上手く出てこなかった。
奥に座る「兄貴」と呼ばれる男は他の男達とは威圧感が違った。ただ暴力的なだけではない。この場の誰よりも静かで、まるで波風がない水面のようなのに誰よりも危険な感じがした。
「かっはっは、すっげ!どーやって稼いだの?」
右手のソファに寝そべった男が愉快そうに笑って僕に尋ねた。
「カイト、黙ってろ。」
奥の兄貴と呼ばれる男がすかさず制す。カイトと呼ばれた男はなおも愉快そうな顔をしながらも口を閉ざした。
兄貴と呼ばれる男が空のグラスを掲げると、部下とみられる脇に控えていた長身の男がテーブルに置かれたボトルの酒を注ぐ。
兄貴と呼ばれる男は注がれた酒を美味そうに飲み干す。それから静かに低い声で言った。
「いいじゃねぇか。」
その場の空気が凍りつくような気がした。部屋中の誰もが兄貴と呼ばれる男の次の言葉を待っている。
「お前は金を稼いだ。世の中は金だ。金がある奴は自由だ。坊主。500万は貰うぞ。それでお前は自由の身だ。」
兄貴と呼ばれた男は僕の方を真っ直ぐに見て言った。
やった。僕は自由だ。
心の底から歓喜の気持ちが沸き起こった。
「兄貴!いいんですかい?利子の分はどうするんですか?」
部屋の中にいた1人の男が言った。ガタイが良く、丸刈り頭の男だ。兄貴と呼ばれる男が立ち上がる。
次の瞬間、兄貴と呼ばれる男はテーブルの上に置かれたボトルを掴み、思い切り丸刈りの男の頭を殴りつけた。
「てめぇ、誰に向かって口答えしとんじゃ!」
ボトルは割れて部屋に散らばる。
兄貴と呼ばれる男はボトルを手放すと、丸刈りの男の顔が血まみれになり、意識を失うまで素手で殴った。
僕を含め、部屋の全ての男達はその様子を固唾を飲んで見ていた。
やがて兄貴と呼ばれる男は丸刈りの男を殴るのをやめると、再び僕の方を見て言った。
「お前は自由だ。」
僕はその時、その男の事を心の底から怖いとおもったがそれ以上に母の事を聞かずにはいられなかった。
「お母さんは、どこですか?お母さんも、解放してくれるんですか?」
僕は震える声で男に尋ねた。すると男は再び静かで冷たい口調に戻って言った。
「ああ、それはダメだ。こいつが言ったみたいにお前の父ちゃんの借金には利子がある。10日で3割利子だ。今日で金貸してから3ヶ月ぐらいになるからなぁ。ざっとあと一千万ぐらいは働いて稼いでもらわねぇとな。」
僕の心に絶望が湧いた。返せよ。お母さんを返せ。僕はその言葉の一つも、その兄貴と呼ばれた男に向かって言ってやる事ができなかった。
世の中金だ。金があるかどうかで人生決まるんだよ。
その言葉の重みが、どっと僕にのしかかってきた。
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