Case19 お金持ちを夢見る男子中学生の話19
少年は病院の受付をしていた長澤から教えてもらった3階の病室へと向かった。
そこには松岡ヨシアキと松岡トオルが眠っているはずだ。母親だけは別室なのだと言う。
廊下で看護師とすれ違うたび、少年はカバンをぎゅっと抱え込んだ。中のものが見れるはずはないのだが、それでも不安になる。もし万一カバンの中のものを見られたら一貫の終わりだ。
やがて少年は病室にたどり着いた。胸の鼓動が高鳴っている。病室の中を覗いてみると、やはり2人の意識は戻っていないようだった。
少年はカバンの中に手を入れて、中のものを取り出す。タオルに巻かれた、包丁。
自分はこれから、2人の息の根を止めなければならない。誰にも知られる事なく、それを実行しなければならないのだ。
少年の心に昨日の夜、警察官に言われた言葉が蘇ってくる。
心を強く持つんだ。君の幸せのために。それはお金持ちになるよりずっと大事な事だ。
そうだ。心を強く持たなきゃダメなんだ。少年は自分に言い聞かせる。自分の幸せのために。自分の幸せとはなんだ。お金だ。今持っているお金を失うわけにはいかないんだ。決死の覚悟で集めた自分のお金。そうだ。こいつらは、殺さなければならない。
「やめておけ純太。」
病室の中から聞き覚えのある声が聞こえて、心臓がはねたように大きな音を立てる。
「やめとけ。」
ベッドの影から立ち上がり、現れたのは昨日言葉を交わした警察だった。
「京太郎さん、どうしてここに?」
京太郎は黙ったまま純太に近づく。純太は動く事が出来なかった。京太郎は純太のすぐ近くまで来ると、彼が持っていた包丁を取り去った。
「か、返して!」
純太は京太郎に訴えかけたが、彼の目は厳しく、冷たかった。数時間前、家の前で話をしていた警察とはまるで別人のようだ。
「返せよ!」
純太はもう一度そう叫ぶと、京太郎に向かって体当たりしようとしたが、頬に一発平手打ちを食らった。
「返してよ。」
純太は床にうずくまり、涙を流してか細い声で言った。
「強くなれってのは、そう言う事じゃない。」
京太郎は静かに言った。
「でも、オレはもうやるしかないんだよ。そうしないとオレの幸せは守れねぇんだよ。」
純太は涙声で言った。
「それは嘘だ。誰に吹き込まれたのか知らないが、そんな事でお前が幸せになれるはずがない。純太、何があったのか全て話してみろ。その上で一緒に考えよう。お前が本当に幸せになれる方法を。」
京太郎の声は優しかった。純太は顔を上げて、こくりと頷いた。
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