Case18 お金持ちを夢見る男子中学生の話18

京太郎は一軒家の前にパトカーを止めた。それから助手席に座る純太に尋ねる。


「ここで間違いないか?」


純太は頷く。


「お父さんとお母さんは家にいるのか?」


純太は今度は首を横に振ると言った。


「母さんは仕事で帰って来ない。父さんはもともと家にいない。」


「そうか。お母さんの職場の電話番号とか、分かるか?」


再び純太は首を横に振る。京太郎はそうかと言うとパトカーから降りて助手席側に周り、扉を開けた。


「明日の朝、事情聴取に来るから今夜はゆっくり休みなさい。」


純太は分かった、と言った。しかし、彼は助手席から降りようとはしなかった。


「どうした?」


純太は俯き、震えていた。


「何か、話したい事があるのか?」


京太郎は尋ねる。


「怖いんだ。」


純太は言う。


「怖いか。それは、そうだな。あれだけの事が起こったんだ。怖く無い方がおかしい。」


「なぁ。京太郎さん。オレはどうしたらこの不安から逃げられるんだ?」


純太は自分の身体を抱きしめるようにして言った。京太郎はそんな彼の方を真っ直ぐに見て言う。


「純太。お前はもっと強くならないといけない。別にケンカで強くなりなさいって言ってるんじゃない。心を強く持つんだ。君の幸せのために。それはお金持ちになるよりずっと大事な事だ。」


純太は京太郎の方を見ると、うん、と頷く。


「じゃあ、明日も必ず来るから家で待ってるんだぞ?約束だ。」


純太は再び頷いた。京太郎はそんな純太の肩をポンと叩く。純太はパトカーを降りると、


「嘘つくなよ。絶対来いよ。」


と少し元気を取り戻して言った。京太郎はああ、と言って右手を上げた。


 それから京太郎は純太が家の中に入っていくのを見届けてからパトカーに乗り込んだ。背もたれに体を預けて深く呼吸をする。ひどく身体が疲れていた。気を抜くと眠りこんでしまいそうだった。しかし、ここでおしまいにするわけにはいかない。最後までしっかり見届けなければ。


 翌朝、町の大学病院に1人の男子中学生が訪れた。少年は小さなカバンを抱えながら、周りをキョロキョロと見回し、受付へと辿り着く。それから受付をしていた、長澤という女性に向かって尋ねた。


「ここに松岡ヨシアキ君と松岡トオル君って入院してませんか?僕は友達で、お見舞いに来ました。」


少年は三日月のように細い目で長澤を見つめて尋ねた。


「ああ、昨日運ばれてきた患者さん。まだ2人とも目を覚ましていないそうよ。」


「そうなんですか。」


少年は残念そうに俯く。


「大切な友達なの?」


長澤が尋ねると、


「はい、とても。」


と少年は言った。


「いいわ。ここに名前を書いて。」


長澤は面会人の受付表とボールペンを少年に向かって差し出す。それから、顔の前で人差し指を立てて、


「今は事務長がいないから、特別にね。」


と言った。


「ありがとうございます!」


少年はそう言い、少し考えるようにして名前を書くと、ぺこりと頭を下げてから階段に向かって足速に歩いていった。

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