Case14 お金持ちを夢見る男子中学生の話14

 その時だった。


 京太郎は不意に真っ暗な道路に不協和音が響くのを聞き取った。キキィィというタイヤを無理な方向へ切った時の音。


 一瞬の出来事だった。しかし、その一瞬のうちに前方に車や人、その他の障害物がない事を確認し、車のアクセルを思いっきり踏み込んだ。急に速度を上げたため、エンジンがおかしな音を立てる。


「うお!?」


隣に座っていた純太は思わず声を上げたが、それ以上の言葉が出てこない様子だった。


次の瞬間、車の後方から金属同士がぶつかり合う凄まじい音がした。バックミラー越しに道路脇のガードレールに荷物を運ぶ大型トラックが追突しているのが見えた。もし京太郎が速度を上げずに走っていなければ、タダでは済まなかっただろう。

京太郎はバックミラーから運転手の様子が伺った。サングラスをした短い金髪の男。両の腕は丸太のように太く、刺青がびっしりと入っている。男はその腕でハンドルを動かし、車体を真っ直ぐにすると、速度を上げてパトカーを追跡してくる。


京太郎は心の底から危険を感じた。


パトカーに向かって突っ込んでくるようなやつがまともな神経を持ち合わせているはずがない。


「マッポのにいちゃん‥」


純太が隣で怯えた声を出す。


「大丈夫だ。」


京太郎は純太の顔を見て言った。しかしその言葉は自分に対しての励ましの言葉でもあった。


「こちら森山。こちら森山。〇〇町〇〇番地を走行中、危険走行をする大型トラックからの追跡を受けている。至急応援求む。」


京太郎はインカムに向かって大声で言った。

トラックはグングンとスピードを上げ、追ってくる。

京太郎もスピードをするめる事なく、走る。


「後ろのトラック!止まりなさい!」


スピーカーで怒鳴るがトラックはスピードを緩める様子はなかった。暴走車を追いかけた事はあるが逆は初めてだ。京太郎はパトカーのサイレンを鳴らす。闇夜に耳をつんざくような甲高い警報音が鳴り響いた。

大通りの赤信号をスピードをほんの少しだけ緩めて通り抜ける。

後ろのトラックは危うく乗用車と衝突しそうになりながら赤信号に侵入し、京太郎のパトカーを追ってきた。


「イカれてやがる。」


京太郎は毒づきながら夜の街を走る。

まもなくパトカーのサイレンの音が二つ、三つと聞こえてくる。


「そこのトラック、止まりなさい。」


パトカーから年配の男性の声が叫ぶ。しかし、それでもトラックはスピードを緩めなかった。

スピーカーから声を上げたパトカーはグングンとスピードを上げ、トラックを左から追い抜く。


京太郎はバックミラー越しにその様子を見ていたが、次の瞬間唖然とした。

パトカーがトラックの目の前でハンドルを切り、その進路を塞いだのだ。


鼓膜が破れんばかりの衝突音。

ぶつかったパトカーは吹っ飛び、京太郎の乗っているパトカーにぶつかる。後ろから凄まじい衝撃が駆け抜けた。

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