Case11 お金持ちを夢見る男子中学生の話11

 トオルという男の家はどこにでもありそうなマンションの一室だった。特に高級というわけでもなさそうな、築年数が経っていそうな5階建てのマンションだ。


「たしか203号室だ。」


純太はそう言いながら階段を上がる。

203号室の扉の前で、インターホンを鳴らしてみる。

‥反応はない。


「おっかしぃなー。」


「部屋番号違ってないだろうな?」


「あ?間違ってねぇよ。」


京太郎が再びインターホンを鳴らしても特に反応はない。


「今の時間ならヨシアキも帰ってるはずなんだけどな。」


「ヨシアキ?」


「言ったろ?トオルさんの弟だよ。オレの同級生。」


純太は言う。たしかに妙だ。純太君の弟ならばすでに帰宅していてもおかしくない。どこかに遊びに行っているという可能性もあるが。平日の昼間に両親のどちらも反応しないというのも珍しい。共働きなのだろうか。


京太郎はドアノブに手をかけて回してみる。


‥ドアが開いた。


「なんだよ。いるじゃん。」


純太はなんの遠慮もせずに中へ入ろうとする。


「待て。」


京太郎は純太を制する。


「なんだよ?」


「勝手に入るな。オレが先に入る。」


 京太郎は嫌な予感がしていた。こんな平日にインターホンを鳴らしても返事がない家。開いたままの鍵。トオルというロン毛の男。京太郎は自分の悪い予感が的中していない事を願いながら、足音を立てないように慎重に部屋へと入っていった。純太もその緊張が伝わったのか、静かについてくる。


 京太郎は廊下を通り、リビングへと足を進める。


 リビングを見て、京太郎は不快な気持ちが込み上げてきた。散らかった部屋、引き出しという引き出しは開けられ、中の物は全て出され、荒らされていた。1人の中年女性が床に倒れている。


「何だこりゃ‥‥」


 驚く純太をよそ目に京太郎は中年女性に駆け寄り脈を取る。トクン、トクン、という正常な脈を感じ、ひとまず安心する。


「純太くん、離れるなよ。」


 京太郎はそう言うとリビングを後にして、さらに家の奥へと進んでいく。

そこには、トイレとバスルームと思われる部屋が一つずつ、それから他に部屋が二つあった。


 京太郎は手前の部屋の扉を開け、中へと入る。リビングと同じように、引き出しの中のものは全て出され、本棚の本は全て床に散らばっていた。床には1人の男。あのロン毛の男だった。


「トオルさん!」


純太は叫んでトオルという男に駆け寄る。


「トオルさん!おい!どうしちゃったんすか!

トオルさん!」


純太がどれだけ叫んでもトオルは意識を取り戻さなかった。


「ヤベぇって!マッポの兄ちゃん!トオルさん死んでねぇか!?」


京太郎はトオルの近くまで行ってしゃがみ込むと右腕の脈を取る。


「大丈夫だ。死んでない。」


そう言うと純太はヘナヘナと床にしゃがみ込み、


「よかったー」


と言った。

 

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