Case10 お金を持ちを夢見る男子中学生の話10
仮想通貨‥。
京太郎はその言葉を初めて聞いたわけではなかった。しかし、純太の口からそんな言葉が出てくるとは予想もしておらず、しばらく純太の方を驚いた顔で見ていた。
「仮想通貨って‥、一体あの男とどんな話をしてたんだ?」
京太郎がそう尋ねると、純太は得意げにニヤリとして言った。
「へ、知らねーのかよ。仮想通貨は今需要が爆上がりしてんだぜ。トオルさんの話じゃあ、少し金積むだけで簡単に稼げるんだ。」
トオルさん、と言うのはあのロン毛の男の名前だろう。しかし、なんたってこいつはそんな話を簡単に信じちゃうんだ。京太郎は喉元まで出そうになっていたため息をグッと飲み込むようにして純太の目をしっかりと見た。
「あのな純太くん。この世にそんなに簡単にお金を稼ぐ方法なんてないんだよ。そのトオルって人の言っている事を簡単に信じちゃあだめだ。」
京太郎がそう言うと純太はふんとそっぽを向いて答える。
「ふん、てめえみたいな無能な警官の言うことよりトオルさんの言うことの方が正しいね!」
京太郎は夏の暑さも相まって流石に頭に血が昇ったが、グッと堪える。
「じゃあ、そのトオルさんって人に会わせてくれないか?」
「は?なんでだよ?」
「もちろん、詳しく話を聞くためだ。別に何も悪い事をしてないんなら、会わせてくれても問題ないだろ?」
そう言うと純太は京太郎から目を逸らすようにした。
「なんだ?何か問題でもあるのか?」
「別になんもねぇよ。ただ、トオルさんまじ怖ええから後悔すんなよ。」
純太は威勢よく言う。
「ああ、臨むところだ。」
京太郎は純太から目を逸らさずに言った。
トオルという男の家は歩いて行くにはかなり遠い場所にあった。道中、純太は
「暑い」「疲れた」「アイス買ってー」
を繰り返していた。さっきまでこんな喋るやつじゃなかったのに。中学生は心を開くと急に馴れ馴れしくなる。
「アイスはさっき富永おねぇさんにもらっただろ。」
京太郎は言う。
「富永おねぇさんってあのブス?あいつ絶対ビッチじゃん。」
はぁぁ、と京太郎は心の中で大きなため息をつく。こんな事本人に言ったら殴られるぞ。
「ねぇマッポの兄ちゃん。」
「もう少しましな呼び方ないのかよ。」
「トイレ行きてぇ。」
「お前さっきまでアイス食べたいって言ってたろ。」
「いやなんかさ、あのブスにもらったアイスが腹の中で暴れてやがるんよ。」
純太はお腹をさすりながら言う。
「なんか気を抜くとシャビシャビのやつが出そうなんだ。」
「お前‥‥」
京太郎は急いで純太を公園に連れて行き、公衆トイレで用を足すように言った。
「こんな汚ねぇトイレやだよ!」
「文句言うな!」
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