Case8 お金持ちを夢見る男子中学生の話8

アイスを食べ終えると、純太は京太郎の体の影から切れそうに細い目を富永と幸田に向けた。


「なんか猫みたいなやつっすね〜」


富永は本物の猫を見るような感じで少し体をかがめて純太を覗いた。


「お前、さっきから何をそんなに怯えてるんだ。」


京太郎は純太に向かって言った。


「さっきまでケンカしてたんでしょ?そりゃ怯えるよー。」


幸田がそう言って近寄ろうとすると、純太はそれ以上近寄るな、と言うように京太郎の影から幸田を睨んでから言った。


「‥‥怯えてなんかない。」


「お、ちゃんと口は聞けるんすね〜」


「当たり前だろ。お前、怯えてないなら後ろから出てこいよ。」


京太郎がそう言うと純太はおそるおそる京太郎の影から姿を出す。

ほんとに猫みたいなやつだな、と京太郎は感じた。


「ぼく、名前は?」


幸田が少し屈んで純太に尋ねるが、純太は答えようとしなかった。


「自分で答えろ。」


京太郎がそう言うと純太は渋々と言った感じで、


「‥‥‥純太。」


と言った。


「純太くんだね!上の名前はなんて言うの?」


幸田が優しく尋ねる。


「‥‥‥‥伊藤‥。」


「伊藤純太くんだね!私は幸田凛花って言うんだ。よろしくね。ここは幸福追及課って言うんだ。みんなの幸せを追い求めるところだよ。」


幸田は純太の目を見て言った。


「‥‥‥幸せ‥‥?」


純太も幸田の目を見て言う。その無気力な目に少しだけ光が戻ったような気がした。


「そう!幸せだよ!」


幸田が笑顔で言う。富永は興味深そうに京太郎の椅子の上にあぐらをかいた状態で2人の会話を見ていた。


「‥‥‥じゃあさじゃあさ!」


純太がさっきより大きめな声を出す。


「うん?」


幸田が聞き返す。


「お姉ちゃん、お金ちょうだい!ヒャク万円欲しいな!」


純太少年が目を輝かせて言った。

その場が凍りついたような気がした。京太郎は心配して幸田の様子を伺う。幸田はあちゃーと言うよな顔をしながら、


「お金かぁ、お金はあげられないんだぁ。」


と言った。すると純太はまた濁ったような目に戻って、


「ちぇっ、なんだよ。嘘っぱちじゃないかよ。」


と吐き捨てるように言った。


「ん〜、純太くんはお金に困ってるの?」


幸田が態度を変える事なく純太に尋ねる。さすが幸田先輩だなぁ、オレだったらあんな風に言われたら少しぐらいイラついた態度が表に出てしまうだろうに、と京太郎は思った。


「お姉ちゃん、何にも分かってないなぁ。」


純太ははぁと大袈裟にため息ををつく。それから再び目を輝かせて言った。


「お金があれば幸せになれるんだよ。」


京太郎は心臓が凍りつくような心地がした。



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