Case4 お金持ちを夢見る男子中学生の話4

「まぁ、心配せずともこの星野が詐欺集団など一網打尽にしてやるわ。なんてったって私は検挙率ナンバーワンなんだからな。」


そう言うと星野ははっはっはと笑ってから、


「では幸田さん。私はこれで失礼します。」


と言って交番を出て行った。お疲れ様です、と幸田は星野に声を掛ける。


「詐欺ですか。」


星野が出て行ってから、京太郎は呟くように言った。


「ひどいよね。人を騙してお金を奪うなんて。そんなにお金が欲しいのかなぁ。」


幸田は頬杖をついて考えるように言った。


「お金があれば幸せになれると考える人も世の中にはいるのかもしれませんね。」


京太郎は言った。試すような気持ちがあった。

昨日、フードコートで男が言っていた言葉。

それに対して幸福を追い求めるお嬢様はどんな答えを返すのだろうか。

意外にも幸田は腕を組んでじっと押し黙り、すぐに口を開くことはしなかった。しばらく考えた後に幸田は言った。


「うーん、私はそうは思わないけどな。少なくとも、人を騙して手に入れたお金で幸せになれる気がしないなぁ。」


京太郎はその言葉を聞いて幸田先輩らしいな、と感じた。

幸田凛花はいつも一般論で物事を考えない。自分自身が幸せかどうか、を物事の基準に考えている。しかし、だからこそ人の幸せを感じとることが出来るのかもしれない。その逆もまた然り、人の不幸も人一倍深く感じとる、そんな気がするのだ。


「京ちゃん?私変なこと言った?」


「いえ、たしかに、幸田先輩の言う通りだなーと思って。」


「なにそれ。そういう京ちゃんはお金欲しいと思うの?」


「そりゃお金は欲しいですよ。もちろん自分で働いてですけど。」


「そっかぁ。」


幸田は再び少し何か考えるように頬杖を付いた。幸田の反応に京太郎は違和感を覚えた。

どこか微妙な表情をしている、ような気がする。


「もうこんな時間ですね。僕、パトロール行ってきます。」


京太郎は腕時計にちらりと目をやると幸田に言った。


「ほんとだ!分かった!気をつけてねー。」


幸田は顔を上げて言った。


 京太郎は自転車を漕ぎながら先ほどの幸田について考えていた。幸田はああ見えても警視総監の愛娘である。それ故にお金に苦労したりとか、そういった経験は少ないのかもしれない。

だから自分がお金が欲しいと言った時にあんなに微妙な表情をしていたのかもしれない。

まぁ、アイスでも買っていってあげれば気持ちも持ち直すかなぁ。

京太郎はそんな事を考えながら、自転車を漕いだ。

日差しが強く、自転車を漕いでいると汗が吹き出てくるが、そのぶん吹き付ける風は涼しく気持ちが良かった。

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