夜にあてられて
身内が死んだ。
良い人では無かったが、幼子の頃世話を焼いてもらったのは確かだった。欲が無いだか可愛くないだかとさんざっぱらだったが、コーヒーを淹れるのは上手だったし、出来たての餅は柔らかくて美味しかった。
墓参りに行った。母と叔父、従兄、それから姉家族と共に。車でも登ろうとするとエンジンが唸る程の坂をどうにか登り切って。眺めの良い場所だった、私は高い所が苦手だから、景色を近くで見ることはできないけれど。端的に、良い場所だ、と思った。
砂利が靴の裏を擦る音が妙に頭に響いていた。甥は周りの言うことをあまり聞かない子で、今日もまた全員に怒られていた。人が人を怒るのも、それを反省しないでいるのも嫌いな人間だから、早く終わらないかとしか思っていなかった。ほんの少し申し訳なかった。
墓の目前に来た。私は謝罪をした。直接顔を見られなかったこと。さしたる感傷も持ち合わせていないこと。これからも、悼む心は恐らく薄いことを。
本当は、顔を、見たくはなかった。母に見せられた、なんの前触れもなく。携帯で撮った写真で。私が知っているその人とは、ずいぶんかけ離れていて。やっぱり見たくなかったなと、考えてしまったのは、恐らく悪いことなのだろう。
私が今居たその場所に、あの人が眠っているのだと。そう思うと、私のような不孝者が踏み入ることは、あの人にとっては灰を被るようなものなのだろうか。既に灰なのに。なんて考える程度には、特別心が落ち込んでいるわけではないのだけれど。
また、居なくなってしまったなぁ。そんな事を少しだけ、沁み入るように瞼に乗せた。
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