死を嫌う幸せを



エピローグレターというものを書いた。なんでも、自身が死亡した際、保険金を受け取る人間にメッセージを遺せるらしい。現状の受取人は母なので、つまるところ母に向けて書く法的効力の無い遺言書のようなものと認識して相違はないようだ。

頼める客が居ないから、簡単な文章でいいからと書かされたわけだけれども、そこまで薄情なわけでもないので普通に書いた。つもりなのだが。まぁなんとも、なんとも物悲しいことを書いてしまったので。少々心持ち穏やかではないところである。

手紙でまで親に素直になれないとは、筋金入りと呼ばれても仕方ない。否、素直には書いてあるのだけれど。本音の底の本音を死んでまで書けないなどと、いやまさか思いもしなかった。弱すぎると自分でも思う。いっそ簡単な文章より薄情かもしれないな、と笑うことすら虚しいのでちょっといかつめの曲を聴いて紛らわせている。自分で書いたこの寂しい言葉たちを読んで、あぁまだ死にたくないなと思えることだけは幸いだ。

まだ、まだ死ねない。せめて酒が合法的に飲めるようになって、しばらくを楽しく過ごして、これまでをいい思い出だったと笑い合えるようになるまでは、死ねない。

変わったものだ。2年前では似ても似つかない。心の浮つき方は随分単純なのだな、と。賑やかで寂しがりな誰かに感謝しながら、甘いミルクティーを口に含む暗い夕刻である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る