昔の話



 此の前に語った夢の話を、少し掘り下げてみようかと思う。特に大した理由は無い。

 今でこそ夢見が少なくなったが、幼い頃はよく悪夢に飛び起きた。金縛りも屡。特に覚えているのは二つほど。

 一つは暗闇。逆向きのエスカレーターに掴まって、宙ぶらりんで上がっていくのだけれど、途中で手が滑る。地面なんてものは無くて、でも天井も無くて。同じ体形のまま、ただ只管に落ちていく。上を見ればいつの間にかエスカレーターは消えていて、大穴が空いている。その先は白くてよく見えない。けれど、誰かが居るのだけはよく見える。それが誰なのだろうかなと、見ていたその次には白は消えて。恐怖に苛まれた瞬間に、背中に衝撃が走って目が覚める。死ぬ瞬間に目が覚めるのだ。

 此の夢で目が覚めた時の時刻はいつも、午前四時前後だった。理由は分からない。

 二つ目は早朝。家族と旅行に来て、自分は少し早く目覚めて、景色を写真に収めている。叢にカメラを向けた所で、刃物を持った男が飛び出してきて、何か喚きながらこちらに向かってくる。慌てて逃げるのだけれど、まぁ大の男に元より鈍間な走りで勝てる訳は無く。呆気なく捕まって、必死に抵抗はしても意味も無く、そのまま腹部に刃が、刺さったが早いか目が覚める。此方もやっぱり死ぬ瞬間に。

 此の夢で目が覚めた時の時刻は、大概疎ら。朝である事に間違いない時刻ではあるのだが。理由はどちらにせよ分からない。

 何れも、自分が死ぬ夢。主観で進む夢。というか、客観視で進む夢を見たことが今までにただの一度も無い。意味は分からない。そりゃそうではある。研究者じゃあ無いのだから。


 ちなみに、今日は夢を見た記憶は無い。夢というものが自分の心内の不安やなんやに作用されて見るものなら、少なくとも現在の自分に眠ってまで侵される程の苦痛は無いようだ。


 別にそんなことは無いのだが。本日とて頭痛と目眩、後は鳴る鼓膜に翻弄され続ける此の始末である。

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