第20話 つながる縁
ようやく肩の荷が下りた俺たちは、ようやく王都を気兼ねなく散策できるようになった。国王陛下への挨拶が終われば、しばらくは王都で過ごしてもいいと両親からは言われていたので、そうさせてもらうことにした。
俺もイーリスも数えるほどしか王都を訪れたことがなかった。両親の監視の目もないことだし、ここはしばらくの間、王都観光を満喫させてもらうとしよう。
イーリスとミケを連れて王都へと繰り出した。もちろんこの辺りの流行りについては分からないことだらけなので、王都の使用人たちを何人か連れて来ている。さすがは王都在住の使用人だ。人気のスポットや流行りの食べ物にはめっぽう詳しかった。
使用人たちに若干振り回された感じはあったが、そのおかげでモンドリアーン子爵領では見たことがない食べ物や飲み物を口にすることができた。
食べ物の店だけでなく、洋服や宝石も見て回った。こんなこともあろうかとお小遣いを貯金していたのだ。そのお金を使うとき、それが今だ!
当然イーリスは恐縮したが、どうしても俺がイーリスに贈りたいからと言って受け取ってもらった。ちょっと強引だったかな? でもこれで、俺がイーリスのことを大事に思っていることをしっかりと伝えられたと思う。
もちろんミケにも購入した。首輪をつけるのは嫌がったので、高級菓子をいくつも購入した。俺が預かっておこうか? と言ったら、「収納魔法でしまっておけるから大丈夫」と言われた。収納魔法……色々と便利そうだな。あとで教えてもらおう。エロ同人本を隠すのにピッタリだ。
「テオ様、次はどこに行きましょうか?」
「そうだな、せっかくなんで王都の武器屋の品ぞろえとかも見てみたい……」
「何だかんだ言っても、テオは子供だね。って、どうしたの、テオ?」
俺の見間違いかな? 今、裏路地に皇太子のアルフレート殿下が入って行ったような気が……気のせいだよね?
「どうかなさいましたか?」
俺が見つめていた方向をイーリスが振り返った。しかしそこにはすでに殿下の姿は見えなかった。
嫌な予感がする。もしかして、殿下はだれかに追われているのかも知れない。もしそうならば、助けに行かなければならない。
「ちょっといいかな? 気になる人物を見かけてさ」
「気になる人物? って、テオ、ちょっと待ってよ!」
俺は先ほどの路地へと急いで踏み込んだ。後ろからは護衛たちがイーリスを守りながら慎重についてきている。ミケは俺と一緒だ。殿下はだれかから逃げてる? そのまま路地裏へと追い詰めた。
「ま、待ってくれ! これには深い事情が……」
「殿下?」
こちらに向かって両手をあげた殿下と目が合った。どう言うことなの? 俺は隣にいるミケと目を合わせた。すぐに俺たちの後ろからイーリスたちが追いついてくる。
「テオ様、一体どうなさ……」
殿下の姿を見てイーリスが固まった。護衛たちは何が起きているのか分からず、厳しい表情でイーリスと殿下の間に立ち塞がった。柄には手がかかっており、いつでも剣を抜ける体勢である。これはまずい。俺はすぐに柄から手を離すようにゼスチャーした。
「何だ、キミたちか。てっきり城からの追っ手かと思ったじゃないか」
「何やっているんですか殿下……」
思わずあきれてしまった。国王陛下がよろしく頼むと言ったのは、もしかしてこのことだったのだろうか。どら息子のフォローを頼むと。勘弁して下さいよ。こちらはどら猫だけで十分に足りていますから!
「テオ、今なんか、失礼なこと考えなかった?」
「考えてないよー」
ミケが疑い深い目でこちらを見ている。相変わらず鋭い! だが今はこちらの後始末が先だ。
「殿下、殿下が城下町に出ていることを国王陛下はご存じなのですか?」
俺のセリフに護衛たちがビクッとなった。王都に住んでいるとは言え、殿下の姿を見たことがある人は少ないのだろう。知らなかったとは言え、殿下の前に立ち塞がった挙げ句、剣を抜こうとしたことに対して顔色を悪くしていた。
「も、もちろんだよ!」
殿下はそう言ったが、これはウソだな。目が泳いでいる。連れて帰らねば。イーリスも止まったままだし、こんな場所に一人で放っておくわけには行かない。大体、殿下の護衛はどこに行ったんだ?
「殿下、護衛がいなくてはさすがに危険です。城までお送りいたしましょう」
「待った、もう少しだけ……そうだ! 私に良い考えがある。テオドールが私の護衛につけばいいんだよ。そうだ、そうだ、それがいい」
いや、こっちはイーリスとのデートが邪魔されて、全然良くないんですけど……だが殿下に恩を売るにはまたとないチャンスであることも確かだ。ここで恩を売っておけば、後々何かの役に立つかも知れない。イーリスには悪いが、少しだけ殿下に付き合うことにした。
もちろんその間に、城に通報に行かせることも忘れない。悪く思うなよ、殿下。「謀ったな、テオドール! お前もか!」とかあとで言うなよ。
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