第19話 報告
案内された部屋は国外の有力貴族たちを迎えるために用意された一室だった。豪華絢爛な調度品が並んでおり、俺たちの動きも自然と慎重なものになった。万が一壊しでもしたら多額の賠償金を請求されることだろう。ミケを捕まえている手に思わず力が入る。
そんな緊張感を持って待っていると、国王陛下が皇太子を連れて部屋へと入ってきた。すでにガチガチに緊張していたイーリスはさらにガチガチになった。その様子はまるで石像のようである。
そんな緊張したイーリスのおかげで「ここは俺が何とかせねば」と気合いを入れることができた。もしそれがなかったら、俺がイーリスのようになっていたことだろう。
「あの場で呼び出してしまってすまんな。次の国務が立て込んでいてな」
「とんでもございません。国王陛下のお呼びとあれば、即参上いたします」
そうかそうか、とにこやかに国王陛下は笑ってくれた。ウソではない。空間移動の魔法を使えば間違いなく即参上することができる。王城の中に直接魔法で現れたら「不届き者」として斬り捨てられそうなのでやらないが。
「悪いがあまり時間が取れない。さっそく本題に入らせてもらう」
「かしこまりました」
俺はすぐにこれまでのことを国王陛下に報告した。そしてしげしげとミケを見つめると、自分のを納得させるかのように深くうなずいた。
この場でさらに国王陛下に心労をかけるのはどうかと思ったが、言わざるをえないだろう。
「国王陛下、実は先ほど謁見をした者の中に魔族が混じっております。お気づきでしょうか?」
「なにい?」
どうやら気がついていなかったようだ。すぐに扉の側で控えていた騎士を呼ぶと、慌ただしくその騎士は去って行った。
「よくやってくれた。だれも気がついておらんようだ。これから調査する」
厳しい顔つきになった国王陛下にだれが魔族なのかを密告しておいた。あとは国が何とかしてくれるだろう。これ以上は俺が出しゃばらない方がいいな。面倒事を任されるのは嫌だからな。
「有意義な時間だった。これからもテオドールの活躍を期待しているぞ。それと、アルフレートとの関係も密にしてもらいたい」
「かしこまりました」
アルフレートは皇太子の名前である。つまり今このときから、俺は皇太子ともつながりができたというわけだ。次期国王陛下が味方についたとも言えるだろう。これは心強いな。
「アルフレートだ。テオドールの話は色々と聞いているよ。良ければそのうち、時間を取って話を聞きたいものだよ。この場ではこれ以上、時間が取れないからね」
そう言って国王陛下を見た。国王陛下は残念そうに首を縦に振った。その後は二、三の会話してこの会合はお開きとなった。国王陛下と殿下は慌ただしく部屋を出て行った。本当に忙しいようだ。
まだ正式なお披露目がなされていないとは言え、殿下も忙しそうである。きっと色々な執務を勉強しないといけないんだろうな。子爵で良かった。殿下はすごいなあ。俺にはとてもできない。
無事に婚約の報告と個別の会合を終わらせてタウンハウスに戻ると、ドッと疲れが襲ってきた。緊張感の切れた俺は行儀悪くもソファーへと寝転がった。そう言えば一昔前はこんなことできなかったな。横幅がありすぎて。
そんな俺の前にイーリスが座った。
「申し訳ありませんわ。すべてテオ様にお任せしてしまって」
しゅんとイーリスがうなだれた。そんなイーリスの膝の上にいたミケが上を見上げた。
「イーリスが気にすることはないよ。このくらいしないと、テオの男として面子が立たないからね」
ミケがそう言った。確かにミケの言う通りなのだが、それは俺のセリフなのでは? 俺がそんな風に思っていることを気にすることもなく、ミケはイーリスにお菓子を要求していた。なるほど、それが狙いか。
「まさか次期国王陛下ともつながりができるとは思わなかったけど、結果としては良かったと思うよ。重要視されていることは間違いないみたいだからね」
「そうですわね……」
そう言うイーリスの顔色はあまり良くなかった。何か不安でもあるのだろうか? どうしたんだろうか。気になった俺はソファーに座り直してイーリスの方を見た。
「イーリス?」
俺の呼びかけでこちらを向いたが、口をモゴモゴとさせるだけで言い出せないようだった。
「鈍いねー、テオは。イーリスはね、テオがほかのだれかに取られるんじゃないかって、心配してるのよ。イーリス、心配はいらないよ。だってテオはイーリスのおっぱいに夢中だからね~」
「ミケ!?」
イーリスが真っ赤な顔をして胸を隠した。が、すぐにその手を恥ずかしそうにモジモジと取り下げた。イーリスの両腕に挟まれた胸がいつもより余計に自己主張している。ミケはいつもの様に目を三日月型に細めている。
「あー、えーっと、イーリスとの縁を切るつもりは絶対にないから。約束する。だから安心してよ」
クソ、これじゃ俺がイーリスのおっぱいに目がくらんでいるみたいじゃないか。ミケのヤツ、余計なことを言いやがって! だがあとでイーリスに内緒でほめてあげよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。