第7話 エナジードレイン
俺たちの前に現れたブラックドラゴンはすでに戦闘態勢だった。対してこちらは、突如現れたブラックドラゴンによって浮き足立っており、士気が下がったままである。ガーンだな、出鼻をくじかれた。
もしかしたら、それを狙ってここまで急いで駆けつけたのかも知れない。ちょっと息があがってハアハア言ってる。
ブラックドラゴンは息を整えると、一気にこちらを片付けるべく、必殺のブレスの態勢に入った。上体を起こし、大きく鼻から息を吸い込み始める。これはまずい。そうはさせじと、ブラックドラゴンに向かってこやし玉を投げつけた。
炸裂した鼻が曲がりそうな臭さに耐えきれず、ブラックドラゴンの顔が苦痛でゆがんだ。フッフッフ、臭かろう! これでしばらくは必殺のブレスを吐く気にはなるまい。
「テオってさ、えげつないことするよね。あ、その手でボクを触らないでよね」
ミケが俺から距離を取った。ひどい。みんなのピンチを救ったヒーローなのに。持っても匂いが付かないような対策くらいしてあるのに……。
俺の作り出した時間を好機と見るや否や、一斉に攻撃を開始した。
「アイシクル・ランス!」
父上の魔法が炸裂したが、堅い鱗を貫くことはできなかった。ここは森の中。火力の高さに定評がある炎系の魔法は、延焼する危険性があるため使いにくい。使うとしても最後の手段だろう。
父上の魔法と同時に魔法騎士団も攻撃を仕掛けたが、やはり堅い鱗に跳ね返されていた。
タートルなどの装甲が堅く魔法が通りにくい魔物は、落とし穴にはめて蒸し焼きにするのが一般的な対処方法だが、空を飛べるドラゴンにはそれができない。たとえドラゴンの体を拘束できたとしても、その強力な力ですぐに拘束を破ることだろう。
「くっ、まさかこれほどまで堅いとは! やはりここは最大火力を出さねばならないか……いや、だが、それでも倒せるかどうか……」
父上の顔色が悪い。どうやら相当分が悪いように感じているみたいだ。
「テオがダイヤモンドスピアーで串刺しにしたら? あれならドラゴンの鱗くらいへっちゃらだよ」
ミケが事もなげに言った。ダイヤモンドスピアーねぇ。確かに貫通力はあるから、あの堅い鱗でも貫けそうな気はするけど……。
「それをやったらダイヤモンドの価値が無くなっちゃうよ。きっと宝石商人たちやダイヤモンド鉱山を持ってる領地とかが予想外の大誤算になるはずだよ。恨みを買うのはごめんだね」
「……」
あれ? 父上がものすごく微妙な顔をしている。それを聞いていたであろう周りの人たちも俺から目をそらしている。まさに、見ざる聞かざる言わざるの構えである。
「そうだ! ブラックドラゴンも魔物の一種なんだよね? それならブラックドラゴンの体内の魔力が無くなれば死ぬんじゃないの?」
「理論上はそうだけど、テオはまたえげつないこと考えるよね」
ミケが首を左右に振った。どうやら俺は、ミケの中で極悪非道の人物になりつつあるようだ。でもそんなの関係ねぇ。勝つためには手段を選ばないのだよ、ミケ君。
「よーしよしよし、それじゃあさ、そんな素敵な魔法を教えてよ。俺のプリティーなミケ先生?」
いつミケをヨイショするのか? 今でしょ!
「え~? もう、しょうがないにゃあ」
満更でもなさそうな様子のミケが、相手の魔力を吸収する魔法を教えてくれた。
「……ミケさんや、この魔法、大丈夫なの? 俺、あのドラゴンの魔力を吸収しても大丈夫なの? 爆発四散したりしない? アイェェエってならない?」
「大丈夫だよ、テオ。テオならまだまだ余裕だよ。だってテオは準……」
「おおっと!」
俺は慌ててミケの口を塞いだ。ミケが守護精霊であることは公表してるが、俺が人間をやめて準神になったことは秘中の秘なのだ。危ないところだった。
一方のミケは「もう、テオは大胆なんだから」と盛大に勘違いしていた。
「……テオドール、行けるか?」
静かに俺たちの話を聞いていた父上から声がかかった。どうやら待っていてくれたようである。ブラックドラゴンの注意を引きつけていた騎士たちからも、熱い視線を感じる。
「大丈夫です。それでは行きますね。エナジードレイン!」
魔法を使うと、俺とブラックドラゴンの間が七色のロープのようなものでつながった。すぐにそこから大量の魔力が俺に向かって流れ込んでくる。それはブラックドラゴンの生命エネルギーをチューチューと吸っている感覚に近かった。
ブラックドラゴンもそれに気がついたのだろう。明らかに目の色が変わった。そして必殺のブレスを吐く体勢に移行した。どんなに臭かろうが俺はブレスを吐くぞ、そんな意気込みが感じられる力強い吸い込みだった。
だが、今となっては遅かった。
ドラゴンなどの魔物が吐くブレスは大量の魔力を放出することで、その強力な威力を生み出している。だが、今はそのエネルギー源となる魔力がどんどん無くなっている状態なのだ。つまりそれは、必殺のブレスの弱体化を意味する。
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