第5話 結果にコミット

 お互いに抱き合った状態の両親に、ミケとの出会いからこれまでのことを報告した。もちろん最初に「話すのをうっかり忘れていた」と平謝りした。両親は眉をハの字に曲げ、目を細め、複雑そうな顔をしていたが、守護精霊の前で俺を叱ることはできなかったみたいである。これはうれしい誤算だ。

 ナイスだぞ、ミケ。よくやった!


 俺とミケは対等な関係であり、ミケの意向もあって、特に気兼ねする必要はなかったのだが、守護精霊の存在はおとぎ話の存在、もしくは神話の時代の話である。神から授けられし守護精霊が俺と契約を結んでいるとなると、無下には扱えないらしい。

 そして俺が準神であることも、両親の頭を悩ませることになったようである。


「では、本当にテオドールが準神になったと言うのですね?」

「なあに? もしかしてボクの言葉を疑ってる?」

「め、滅相もございません!」


 父上が慌ててひれ伏した。気まずい。ものすごく、気まずい。どうかこれ以上、父上を追い詰めないでもらいたい。ここは俺がこの悪い空気を断ち切らねばならないな。


「ミケ、めっ、だぞ、めっ!」

「……」


 ペット扱いしたのが気に食わなかったのか、ミケが半眼でこちらをにらんでいる。いやでも、父上をいじめるのはちょっと……。一応、文武両道のかなりのやり手ですよ、彼?


「それでテオドールのことをダイエットと同時に鍛えていたのですね。何とお礼を申し上げたら良いか……」


 母上が頭を下げた。ダイエットだけかと思っていたのだが、どうやら知らぬ間に鍛えられていたらしい。まさに一石二鳥だな。ミケはなかなかの策士のようである。ちょっとイタズラが過ぎることもあるけどね。

 当の本人である俺は鍛えられていることに、まったく気がついてなかった。っていうか、気付よ、俺。


「父上も母上も顔をあげて下さい。これでもミケはとっても良い子ですから」


 両親が顔をあげた。良い子扱いされたミケは目を輝かせてこちらを見ている。……思った以上にチョロいぞ、この子。守護精霊として大丈夫かな?


 俺が準神であることは伏せられることになった。まあ、言ったところでだれも信じることはないだろうけどね。準神になっても人としては特に変わったところはないらしく、これまで通りに子供を作ることができるらしい。ちょっと安心した。


 こうして両親との誤解も解くことができて、俺のダイエット作戦は加速することになった。そして一月後にはスリムボディーを手に入れることに成功していた。


 もちろんそれだけではない。訓練の途中からは、筋トレや、騎士たちとの訓練など、体を使ったメニューも追加していた。そのおかげで、ただ痩せただけではなく、引き締まった細マッチョなボディーを手に入れていたのだ。

 ミケはなぜか「マッスル・テオドール」を目指していたようで、さらに強力な負荷を求めてきたが全力で拒否した。そんなにムキムキなのが好きなのか。


「見違えたわね」

「そうでしょう? 母上」


 母上がそう言うのも無理はない。これまで顔についた脂肪によって埋もれていた目も、痩せたことによって、母上譲りの涼しげな美しい青い瞳が露出するようになったのだ。

 最近では使用人たちの視線を感じることすらある。そのことをミケに言ったら「自意識過剰」と後ろからバッサリと一刀両断にされた。

 ひどい。夢見たって良いじゃない。準神だもの。


 スリムボディーを手に入れたあとも、ミケやモンドリアーン子爵家の魔法騎士団との訓練は続けていた。最近では無属性の魔法ではなく属性の魔法を使うようになっており、魔力を効率よく使う訓練を中心に行っている。


 そのかいあって、ミケいわく「それなりに魔力がたまってきている」そうである。俺が準神となったことで、魔力を蓄えている場所が体から別次元へと変わったらしい。俺はそれを確認することはできないが、ミケが言うならそうなのだろう。

 そのおかげで、俺は魔力を気にすることなく魔法を使えるようになっていた。


 魔力とは生命エネルギーそのもの。魔力を使い果たせば、その次は体力を消耗することになる。そして体力も使い果たせば、待っているのは、死、である。つまり、強力な魔法を使おうと思ったら、死を覚悟しなければならないと言うわけである。


 だが、俺の場合は少し事情が違った。今このときでも、魔力が別次元に着々と蓄えられつつあるのだ。今では使い果たすまでに、相当量の魔法を使わなければならないそうである。連続魔法弾を一日中撃ち続けても枯渇しないそうである。どんだけだよ。

 だからミケが急いで俺に魔法を使わせ続けたのか。あの魔力量が少なかった期間をのがせば、脂肪として身についた魔力を使い果たすことができずに、痩せることはできなかったかも知れない。危ないところだった。ミケに感謝だな。



 そしてその日も、いつものようにミケ監修の元、魔法の訓練を行っていた。ミケは守護精霊だけあって魔法には詳しかった。今では失われてしまった魔法も数多く知っており、内緒で俺にも色んな魔法を教えてくれていた。


「テオドール様、すぐに執務室にお越し下さい!」


 セバスチャンが慌てた様子で訓練場へやってきた。その顔には緊張感が張り付いている。間違いなく何かが起こったな。それもかなりの緊急事態なのだろう。俺は急いで父上が待つ執務室へと向かった。


 ノックもそこそこに執務室へと足を踏み入れた。そこには父上と魔法騎士団の隊長の姿があった。隊長がここにいると言うことは魔物絡みの厄介事だな。


「父上、何が起こったのですか?」

「緊急事態だ、テオドール。アウデン男爵領内にある魔境の森の一つから、魔物が外へとあふれだしているらしい」

「何ですって!?」

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