約束と運命の鎖
第2話
イチゴジャム。
いれたてのコーヒーにこんがり焼けた食パン。
ハムエッグにヨーグルト……
われながら、今日も完璧だ。
一日が始まる!
「ああ、そういえば
「ん? なに、大助」
一口目を食べようとしたとき、向かいに座る親友が僕を呼ぶ。
それでしぶしぶ、手にとったパンを置いて彼の話に耳を傾けた。
「
「え、千菜様が? お前じゃなくて僕に?」
「うん。俺も一緒にとは言われているけど、メインの用事は民人くんにあるみたいで。今日の昼に来いってさ。いきなりだよな」
いつもの朝食、のはずが。
そいつに、突然そんなことを言われた。
「僕……なんか、したかな」
千菜様といえば、先々月に即位したこの星の王様だ。
顔の整った、僕とそんなに年齢も変わらない25、6歳ほどの青年。
王様とはいえ気さくで、……悪く言えば適当な人で少々いい加減なところもある。
ただ、ちゃんとリーダーとしての威圧感というか、そんなものが滲み出ている人だ。
なんで僕が知っているかと言うと、その前からこいつ……親友の大助経由で何度かお会いしたことがあるからだ。
大助は河闇家という、いわゆる「貴族」の長男。
もっとも、彼は長男でありながら家を継ぐことにあまり乗り気ではなく、来年には弟の圭介君が成人とともに当主になるそうだが。
僕はといえば、大助と出会ったのが四年前。
それからわけあって、彼の家にお世話になっており、今は保護者という肩書きで、中央の下宿先に居候させてもらっている。
王様と顔見知りとはいえそういう身分の人間なので、大助ならまだしも、僕単体に話が来るはずがなかった。
「大丈夫。すっかりあの人のお気に入りだから、民人君は」
きっと悪い話じゃないさ、心配するな。
大助はそう笑って、僕をなだめた。
「まあ……なるようになる、よね」
「そうそう。……あ、民人くん、朝ごはんの邪魔してごめんね。さ、食べよう」
妙に嫌な予感がするのは変わらないけれど、こいつがいるなら安心かな、なんて思ってしまった。
「……うん、そうだね」
それから急いで支度をして、向かう先は――
中央の、さらにど真ん中にそびえ立つ煌びやかな建物。
――いわゆる、城。
「大助……ほんとに変じゃないかな、これ」
"いざというとき"の為に用意しておいたスーツ。
馬子にも衣装みたいになってないかな。
慣れないものを着ているせいか、背中に嫌な汗をかく。
「大丈夫だって、似合ってる似合ってる。一着持っておいて正解だったね」
そういう大助は、普段から着慣れている背広をさらっと着こなしている。
「大助は慣れっこだな……」
「楽しい話でもないけどな」
けらけらと笑いながら、城の門へと歩いていった。
間近で見るそれは、装飾も本当に細かくて、前に立っているだけで自分が場違いなのではないかと不安になってしまう。
「うわあ……何度見てもすごいね」
「後で見ればいいから。さっさと行くよ民人君」
「あ……ちょっと!」
警備員など気にもせず正門から堂々と入っていく大助。
門ではどんなことをいわれるかと思いきや、
警備員は僕らに会釈をしていそいそと引き下がる。
「……これが顔パスか」
どうやら、本当にとんでもない親友をもってしまったみたいだ。
「ん? 民人君、何か言った?」
「あ、いや……なんでも」
大助と二人、応接間で黙って待機していると、ドアをノックする音が聞こえた。
てっきり応接間にお越しになったのだと思っていたら、入室してきた一人の側近らしき人が僕たちに一礼する。
細身でロマンスグレーのオールバック姿の上品な男性は、直接会ったことはないけど、テレビとかで見たことある気がする。
「本日は急なお呼び立てにもかかわらず、よくお越しくださいました。これより陛下のお部屋へご案内いたします」
そう言われるがままに側近の人についていき、城の奥の、奥の、そのまた奥まで城の中を練り歩くこと数分。
帰り、一人では外に出られないかもしれないという複雑な経路の向こうに、ひっそりと、その部屋はあった。
見た目はただの、会議室みたいだけど、「陛下のお部屋」といっていたから、私室なのかもしれない。
「陛下、お客様をお連れしました」
そう言って側近の人が扉を開けると、外側からは想像もつかない、広々とした部屋が広がった。
「失礼いいたします」
「朝倉、大助、よく来てくれたな」
目の前のソファ座る青年……池沢千菜陛下は、満足そうに笑いながらその低い声で仰る。
「あ……えっと」
僕がどうしたらいいかわからなくてあたふたしていると、
「陛下、再びお会いできて光栄です」
大助がそう返した。
「まあ、今日はそんなにかしこまらなくてもいいさ。今日は二人に……友人としてちょっとした頼み事があるんだ。そのために応接間じゃなく、こちらに呼んだ」
よかった……嫌な予感は外れたようだ。
でも、頼み事って。
「光栄です。……ところで、何をですか?」
僕が訊ねると、彼は一度目を閉じてから、僕に向かって言った。
「俺の妹を連れてきて欲しい、この地、中央に」
「……え?」
思わず、すっとんきょうな声をあげてしまった。
なにか、とても重要な何かを聞いてしまった気がする。
千菜様といえば、ご兄弟はいないはず。
「なにか言いたげな顔だな。まあ無理もないだろう。公表はしていないが、唯一の肉親だ」
返答を言いあぐねる僕たちに、千菜様は続ける。
「自分が次の王だと告げられ、一人、中央に連れてこられたのは俺が13歳の時。当時、彼女はまだ幼かったが、両親は俺が連れてこられてからすぐに事故で死んだ。以来、彼女……杏奈は、南西部にある施設にいるそうだ」
「南西部……」
そうだったのか、彼も随分、辛い人生を送ってきたんだ。
「何度か手紙で連絡を取っていたが、彼女も自立する年齢に近くなってきた。唯一の肉親として、俺には彼女に苦労をかけさせない義務があると思っている。だから、朝倉には杏奈を迎えに行ってほしい。大助には、連絡係を頼みたい。いいよな?」
「もちろんです」
大助は、まかせとけ、と言わんばかりに威勢の良い返事をする。
一方で僕は、やはり気になってしまう。
「千菜様、どうして僕に?」
「……お前になら、安心して杏奈を任せられるからだ」
その返事は、どういうことか、よく分からなかった。
僕なんかに頼らなくても、優秀な部下はたくさんいるはずなのに。
僕よりも仲のいい大助に頼めばいいのに。
でも、彼は真っ直ぐに僕を見つめていたんだ。
大助をちらり、と見ると、大丈夫、と目が語っている。
友人としての依頼を、引き受けないわけにはいかなかった。
「……喜んでお引き受けいたします、千菜様」
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