その日は、雨が降っていました。


カーテンの隙間からは、鉛色の雲とじっとり濡れた住宅街と点滅を繰り返す街灯がみえました。僕はそれがモールス信号に思えて、誰かが助けを求めているのかな。

頭の隅で どうでもいい物語を展開し始めました。

もし、そうだとしたら 知らないふりをしておこう。

僕には、君と君の船をどうすることもできない。それに 沈みかけている船は僕のほうだから。君が、僕をどうにかしてくれよ。結果はどう転んでも良いから。


僕は傲慢極まりない態度で 存在しない相手に理不尽な要求と憤りをぶつけました。

そうすると、彼か彼女かわかりませんが、僕のありもしない空想を肯定させるかのように また必死に点滅を繰り返していました。


しつこいなあ。僕はモールス信号なんてわからないし、この距離じゃあ大きな声を出したとしても伝わらないし、そもそも僕はカナヅチだ。どうして、僕が 君を 助けなきゃいけないんですか。


お互い 助けを求める身なのに

お前は辛辣な言葉だけしか、口にできないのか。相手を思いやる気持ちはどこにあるんだ。いつか 学校の先生に罵られたことを思い出しながら同じ言葉で自分を呪った。


つまりは、このままいけば 僕も相手も共倒れ。可哀想に。気の毒なことだ。

海の底に沈んで 魚の腹に収まる運命。あはは。他人事のように 笑えば。

冷たい 水の感覚が 喉奥に とろり 流れ込んでいた。僕はこれから迎えるであろう

死 という概念を ぼんやりとしか捉えられずにいました。

母さん、どうやら僕はここまでのようです。

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