仔猫との契約



「ん〜む…いちおう牛っぽいやつだったけど…食えるのかコレ?」


仔猫を頭に乗せ、先ほど倒した牛っぽい魔人?のドロップを【無限収納】の項目を確認しながら呟く。

最難関と言われる【シャドウケイブ】の魔物なんだからそれなりに貴重なものであることには変わりはないだろうけど、素人の俺としては見ただけではそんな価値があるのかどころかその用途も分からないんだよね。

今見てるのは《牛魔人のヒレ肉》という食材っぽいアイテムなんだけど、元が魔物の肉になるから普通に調理をして食べても大丈夫な物なのか、かなり判断に困っている。


それはさておき…


「みぃ…?みゃぁん」


頭に乗せていた仔猫を両手で抱き上げて見てみる。

まるでなぁに?と言わんばかりに首を傾げてキョトンとしているその様子はあざといと分かっていても俺の庇護欲的なものをコレでもかと刺激してくる。


「くっ…コイツが魔物だと分かってても、俺にコイツは倒せない…!」


俺は仔猫を地面に置き一人で葛藤していると、足元で仔猫が頭を擦り付けたり身体を擦り付けたりと明らかに懐いた様子で甘えてくる…


はい可愛いですね。

お持ち帰りしてもいいですかね?


「うっ…」


一人仔猫の可愛さに悶えていたら、戦闘の邪魔になると思って道の隅に横たわらせていたジョエルさんが呻いた。

ここまでの移動中、俺としては抑えた方だと思ってはいたが、担いで移動していたため、常人にとっては色々と激しく身体全体をシェイクされたようなもんである。

道中急に静かになったので若干の心配はしていたものの、傍で喚き散らされるよりは楽って事で放置してた。


「うみゃ?…みゃ!」


徐に拙い足取りで仔猫はジョエルさんの頭に登った。

そしてテシテシと小さな前脚でジョエルさんの後頭部をおっかなびっくり小突き、反応がないと見るとスクッと立ち上がりこちらを向いてキラキラした瞳を俺に向けてきた。


まごう事なき全力のドヤ顔だった。


どうですか!?やってやりました!と言わんばかりのドヤ顔だ。

可愛さが留まることを知らない。

もうお持ち帰りしてもいいよな?


おっといかんいかん…

仔猫の行動に心から癒されていたが、時間に余裕がある訳ではなかった。

本来の目的を思い出した俺は仔猫を抱き上げジョエルさんを起こす。


「うぅ…ここは…?」


「【シャドウケイブ】の真ん中よりも少し上の階層ですね。ちょっとトラブルというかハニトラというか…」


「ハニトラ…?む?その仔猫はどうしたのだね?」


「みゃっ!」


仔猫が小さな前脚をよろしくと言わんばかりに挙げ、小さな羽をぱたつかせて挨拶した。


「ぬ、ぬぅ…」


おぉ…ジョエルさんが悶えとる…

そりゃそうなるよなぁ

可愛いもん。

もうお持ち帰りしちゃうよ?


「なるほどハニートラップか…コレはたしかに抗えないナニかがあるな…」


「でしょう?戻ってる最中に魔物を轢いたんですけど、コイツがなんか襲われてたっぽくて結果的に助けてしまったって感じですね」


「轢いたって…ふむ…しかしその仔猫、魔物だろう?いくら小さいからと言ってもこのまま一緒にという訳には…」


「みゃ〜ん…」


とても悲しげな声で鳴く仔猫

ダメなんですか?といった表情を浮かべてジョエルさんを見つめた。


「くぅっ!?なんだこの感情は…このなんとも言えない愛でたくなるような気持ちは…!?」


ジョエルさんも何か葛藤し始めたので、俺はこの仔猫がどういった種族なのか【解析】してみた。



名前:無し

種族:魔物【悪魔猫イビルキャット幼体】

スキル:魔力吸引エナジードレイン

契約者:無し(契約可能)



【シャドウケイブ】に生息する希少な魔物。

個体数は限りなく少なく絶滅危惧種に指定されている。

性別は雌しかおらず、繁殖方法は胎内に溜め込んだ魔力を使って自分の分身とも言える仔を成す。

【悪魔猫】自体が魔力の塊という事もあり、【悪魔猫】を取り込んだ別の魔物が上位種に進化するために乱獲したため、極めて数は少ない。

そのため、見かける事もほとんどないため、冒険者達からは別名【幸運猫ラックキャット】とも呼ばれる。

主食は空気中の魔素や魔力。

そのため魔力の多い場所に住み着いたり、本能的なもので膨大な魔力を持つモノに惹かれる傾向がある。

魔力吸引エナジードレインで獲物の魔力を吸い尽くして糧とする。

個体差はあるが、最低でも1万以上の魔力を一度に吸引するため使役する場合には死を覚悟する必要がある。

あと可愛い。



最後の説明いるのかね?

大いに賛同はするけども。


しかし【悪魔猫】ねぇ?

コイツの主食は魔力らしい。

説明文を見る限り、コイツを使役するには最低でも魔力が1万以上必要らしい。


ここで軽く説明しておこう。


俺達人間にとって魔力とはもう一つの血液とも言えるものだ。

この魔力が枯渇すれば激しい倦怠感や吐気といった体調不良に襲われる。

完全に枯渇してしまえば最悪の場合死に至る事もある。

魔力の減少は魔法を使う時に減少する。

ステータスの中にあるMPが個人の魔力の総量と言い換えてもいいだろう。

では魔力=MPという事を踏まえて常人が普段どれ程の魔力総量を持っているのかという点についてだが、冒険者でもない普通の人の保有魔力はおよそ20ほど、少し多くても3〜40もあればかなり多い方とも言えるだろう。

高位の魔術師なんかでも少ない方でおよそ2000を超えるかどうか、多くても5000かそこらだろう。

以前話した冒険者のランク分けの目安で言えば、5000もあれば超級魔法が一発放てるかどうかと言ったところだな。

ちなみに下位の冒険者ランクの人達の魔力総量は約100〜300くらいと言われてる。

上位ランクと下位ランクの魔力総量の差が激しいという気もするが、コレについては《クラスアップ》というものが関係してるらしいんだが詳しくは知らん。


まぁそういう事を踏まえた上で話すと、どうやっても普通の魔力の持ち主じゃこの仔猫は飼えないって話だな。

仮に飼おうとしても一回の【魔力吸引】で軽く死に至るだろう。

ぶっちゃけると、こうしてただ抱き抱えているだけでも魔力吸われてるの分かるからね。

とは言っても、俺の自然魔力回復量の方が仔猫の【魔力吸引】する量よりも多いからなんて事ないんだけどさ。


そんなこんなで、【解析】結果を未だに悶々としているジョエルさんに説明すると、驚愕の表情を浮かべていた。


「あ、悪魔猫だと…まさか実在していたとはな…」


「知ってたんですか?」


「私が何をしているのか忘れたのか?これでも冒険者ギルドの支部長だぞ?まぁ存在自体は御伽噺のようなものであったから俄かには信じられないが、限りなく個体数が少ないらしく私も見るのは初めてなんだ。まさかこんなにも可愛らしい魔物だとは思わなかったがね」


「それで、いちおう契約可能って出たんですが…そもそも契約って何ですかね?」


「契約だと!?」


凄い形相で肩を掴まれた。

そんなに驚愕する事だったのだろうか?


「と、とりあえず落ち着いてもらえます?」


「あ、あぁすまない…取り乱してしまったな…」


ジョエルさんは居住まいを正すと咳払いを一つして契約について教えてくれた。


「契約というのはスキルの一種だ。【契約エンゲージ】と呼ばれる特殊なスキルで、公文書の作成や魔物を使役したりと幅広く利用されているスキルだな。しかしこの契約には媒介となる物が必要なのだが…」


つまり要約するとこういう事らしい。


俺はこの仔猫をお持ち帰りする事が出来るらしい。

素晴らしいな!

ただしコイツを連れて街を歩き回るには色々と手続きが必要になるらしいが、俺とコイツの【契約エンゲージ】自体は割と簡単らしい。


用意するのは媒介となるアイテムと契約する魔物の同意らしい。

アイテムは何でもいいというわけではないらしく、主に宝石や輝石と呼ばれる魔物の魔力を受け入れられる器に成り得る物しかダメらしい。

いくつか仔猫の前にここまでの道中で採集していた宝石や輝石を並べてみたが、仔猫の眼鏡に叶う代物は無かったらしい。

というかこんなのいらんって感じで返された。

どういう事?っとジョエルさんに視線を向ける。


「こんな例は見たことがないが、もしかすると媒介を必要としていないのかもしれんな。あるいはマクス君に対して強い何かを感じたとか…か?」


なんだかよく分からんけど、まぁ仔猫自身がそういう事ならいらんのかもね。

ともあれ、次に魔物の同意についてだが、コレは速攻で終わった。


何となくだけど、コイツは俺の言葉を理解しているように思えた。

だから俺は仔猫を自分の顔前まで抱き上げて聞いてみた。


「みゃ〜?」


「俺と一緒に来るか?」


「っ!?みゃみゃみゃ!!」


小さな羽を一生懸命ぱたつかせて仔猫が俺の肩に飛びついて来た。

そのまま仔猫はコレでもかと顔を舐めて来ては全身を擦り付けて甘えてきた。


めっちゃ可愛い


「じゃあ、これからよろしくな?ん〜と…ミア」


「みゃみゃ〜!」


こうして俺は悪魔猫のミアと無事?契約を済ませることに成功したようだった。



名前:ミア

種族:魔物【悪魔猫イビルキャット幼体】

スキル:魔力吸引エナジードレイン

契約者:マクスウェル

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チートスキルで下剋上!!〜誤変換されたスキルが正しく表記されたので手当たり次第試した結果〜 銀狐@にゃ〜さん @minelva

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