【悪魔猫】
【シャドウケイブ47層】
地上の魔物とは比較にならないほど凶悪な魔物が蔓延る【シャドウケイブ】
その中層部にあたる47層の回廊の一角に蝙蝠の様な翼を生やした黒猫が苦しそうに蹲っていた。
体長は全長でおよそ1mもないほどであろうか。
金色の瞳を携えたこの黒猫は【
生態は一般には確認されていないため知られていないが、かなり特殊な生態をしている。
この【悪魔猫】には雌しか存在しない。
というのも、この魔物の繁殖方法というのが他から取り込んだ魔力を胎内に蓄積させ仔を成すという方法だからだ。
しかし、一体の【悪魔猫】が生涯で産める仔の数は一体しかいない。
理由は親の胎内で蓄えられる魔力が仔一体分しか無いからだ。
【悪魔猫】が仔を産むまでは個体差があり、早い個体で約3年、遅くても5、6年ほどで出産をする。
『………』
この個体は産気づいている様で、頻りに周囲を警戒している。
【シャドウケイブ】の中でも稀少な魔物である【悪魔猫】は特に他の魔物から狙われることも多く、出産間近の個体は殊更標的にされる。
【悪魔猫】自体に内包されている莫大な魔力を捕食しようと狙っているのだ。
莫大な魔力を得た魔物は、その魔力に適応するための進化をするのだ。
弱肉強食の世界を生きる魔物達にとって【悪魔猫】は魔物達にとって捕食する事で容易に進化に至れる最高の食材なのだ。
そういった理由があり、【シャドウケイブ】内での【悪魔猫】の個体数は全マップを見てもわずか0.00001%ほどしか存在していない絶滅危惧種であった。
『ーーーッ!!』
母猫が苦痛に顔を顰める。
腹の痛みに耐えつつ周りにも気取られぬ様に声をあげぬよう歯をくいしばり我慢しながら必死に仔を産むため母猫は抗い続けた。
やがて…
『みぃ…みぃ…』
産まれた…
母猫は自分のことも省みずに産まれたばかりの我が仔を愛おしげに舐める。
出産という母猫にとって最初で最後の大仕事を終えて気を緩めてしまったのがいけなかった。
ズン…ズン…ズン…
魔物の足音だった。
曲がり角から現れたのはこの階層に存在する魔物の中で最も貪欲で満たされぬ食欲を持つ二足歩行の牛魔人【ギガンタウロス】だった。
魔力の匂いを嗅ぎつけたのか、【悪魔猫】を視界に収めた【ギガンタウロス】は喜色満面に涎を撒き散らしながら歓喜に震え雄叫びをあげた。
『ブモォォォォォォ!!』
母猫はすぐさま仔の首根っこを咥え逃走を図る。
だが、産後間もない母猫にとってほぼ全ての魔力を無くしてしまった身体は上手く動かすことが出来ず、覚束ない走りしか出来なかった。
その様子を見た【ギガンタウロス】は嬲るように母猫を追い詰める。
必死に逃走する母猫だったが【ギガンタウロス】が振るった斧から発生した風圧で吹き飛ばされる。
『ギャウッ!!』
『みぃ!?』
吹き飛ばされた先でよろよろと母猫に縋りつく仔猫。
仔猫を守ろうと力を振り絞って立ち上がり威嚇する母猫。
だが母猫の奮闘も次の瞬間に呆気なく終わりを告げた。
ズシン…ズシン…
先程の雄叫びを聞きつけたのか、別の【ギガンタウロス】が合流してしまったのだ。
『ガァァァァァァッ!!』
【ギガンタウロス】の持つ斧の腹部分で強かに壁に叩きつけられた母猫が動き出すことはなくそのまま力尽きた…
『みっ…みぃ…』
怯えるしか出来ない仔猫…
【ギガンタウロス】にとっての最上級の食材はこの仔猫であった。
というのも、産まれたばかりの【悪魔猫】は純度の高い魔力の塊のようなものであり、通常の【悪魔猫】に比べても5倍程の純度の違いがある。
仮に【ギガンタウロス】が【悪魔猫】の幼体を取り込んだ場合、その進化は下層のフロアボスに匹敵するほどの強さを身に付けることだろう。
もはや邪魔するものもいなくなった【ギガンタウロス】は舌舐めずりをしながら仔猫に歩み寄っていく。
『みぃ…みぃ…っ!!』
『ぁぁぁぁぁぁ……アガァッッ!?』
大きく口を開け仔猫を丸呑みしようとした瞬間だった。
【ギガンタウロス】が頭で地面を抉りながら吹っ飛んで行った。
「家畜風情が邪魔なんだよ…ん?仔猫?」
放り出された仔猫が何者かにぽすんと受け止められる。
『みぃ!?』
「おっと…なんだ危ないところだったのか?偶然ではあったけど…良かった…のか?」
仔猫にとっての運命の出会いであった。
拙く翼をはためかせながら助けてくれた人間にしがみつき頭を擦り付けて感謝を伝える仔猫。
『みぃ!みぃ!!』
「おぉう?なんだ怖かったのか?まぁもう大丈夫だ。このマクスウェルさんに任せときなさい!」
図らずも仔猫を救出したのは、地上に向けて【シャドウケイブ】を逆に爆走していたマクスウェル(と担がれながら気絶しているジョエル)だった。
なおマクスウェルがこの47層に到達したのは、99層を出発してからおよそ6時間程経ったくらいのことであった…
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