救助活動と再会2



「うぅ……ここ…は…」


「気がつきましたかジョエルさん」


まだはっきりとはしていない様子だったが幼馴染の父親のジョエルさんは意識を取り戻した。

彼がここに落とされた事に驚きはしたが、治療したとはいえ床にそのまま放置しておくわけにはいかなかったので、俺がスキルを用いて作った簡易の住まいにあるベッドへ運んだのだ。


やがて意識がはっきりして来たのか目を開けて声が聞こえた俺へ顔を向けると、唖然とした様子をしたのも束の間、飛び起きたジョエルさんは俺の肩をガッと掴んだ。


「お前、◼️◼️◼️なのか!?生きていたのか!?良かった!!」


「ほぅ…お主の以前の名は◼️◼️◼️というのか…なかなか良い名じゃないか」


「ジョエルさん!?ちょっと落ち着いてくれ!」


ジョエルさんはよほど俺の安否を気にしてくれていたのか俺を強く抱きしめて来た。

すぐ横にいたダリアはダリアで何やら頷いている。

二人の台詞の内容から察するに俺の以前の名前を口にしていたのだろう。

二人の言葉の中にノイズ混じりで口元も読めないように霞がかかった瞬間があった。

これはおそらく俺の【新生者】としてのポンコツ駄女神ステイシアからの制約みたいな力が働いた結果だろう。

実際に改めて自分の名前を決めた時にもステータス欄に書かれていた事だ。


『あなたは一度死去した者として扱われています。新たな名前を入力して下さい。※尚、混乱を避ける為、以前名付けられていた名前を入力すること、及び思い出すことは出来ません。』


つまり、以前の俺の名前を知っているものがその名を口に出したとしてそれは俺以外には認識出来ても俺自身には今のように認識が出来ないという事なんだろう。


まぁだからと言って別に全く支障は無いんだけどな。

俺が一人で納得していると、その様子が気になったのかダリアが話しかけて来た。


「どうしたマクス?せっかく以前の名前が分かったと言うのに微妙な反応をしおって…嬉しくはないのか?」


「やっぱりさっきのノイズと霞は前の名前の事だったか…いや、実はな…」


抱き着いたままのジョエルさんを放置しておくのも俺の精神的な意味で耐えられなかったので、一旦落ち着かせて離れてもらい、二人に俺の現状を隠さずに話す。

すると話を聞き終えた二人はこれまた微妙な表情で難しい顔をしていた。


「【神隠し】にあったお前にそんな事が起きていたのか…しかしそんな仕打ち…うぅむ…」


「ふむ…落ちて来てからそれなりの長い間暮らしてある程度の事は聞いてはいたが…まさかそんな制約があるとはのぅ…」


なんか気を遣わせてる感じだな…


「まぁそうは言っても、別に以前の記憶が無くなった訳でもないしさ。前の名前が何であろうと俺は俺だよ。今はこのマクスウェルって名前も気に入ってるし、ジョエルさんもこっちの名前で呼んでくれればいいよ」


「マクス…」


「そ、そうか…分かった。◼️…じゃない、マクスウェル、だな」


ダリアは何故かわからんが壁側にスススと移動してしゃがみ込んで何やら悶えている。

ジョエルさんもぎこちない感じはあるが納得してくれたようで早速愛称としてマクスと呼んでくれるようになった。


「ところでマクス、ここは一体どこであちらの美しい女性は何者なんだ?ま、まさか…コレか!?コレなのか!?」


ジョエルさんは小指を立ててこちらに詰め寄ってくる。呪詛のように「ウチの娘以外になんて許さんぞ…」とかブツブツ呟いてはいたが聞こえなかった事にしてダリアを紹介する。


「ここは【シャドウケイブ】の最深部であいつはダリア。ちなみにダリアは【暗黒龍】だよ」


「………は?」


まぁ、こうなるよなぁ…

俺だっていきなりこんな説明されたら同じ反応をする自信あるし。

やはりこれは見てもらった方が早いか?

そう思った俺は壁の方でうずくまっているダリアを呼んだ。


「ダリア、ちょっと外で龍化して…ダリア?」


「うふふ…マクスが名前を気に入ってる…えへへへ…」


なんかブツブツ言ってるようで聞こえていないようだったのでダリアの肩をポンと叩き改めて呼ぶ。


「ダリア?聞こえてるか?」


「えへへ…気に入ってるのかぁ…ん…?ほぁぁぁぁぁぁぁぁ!?な、なんじゃ急にぃぃぃぃ!?」


「いや、急にって…」


ズザザザ!という効果音が聞こえるように凄い勢いで後退るダリア。

様子から察するにやはり聞こえていないようだったので改めて説明する。


「あぁ、そういう事か。ならここじゃ狭いから部屋に行くぞ」


先に外へ出たダリアを追うようにジョエルさんを促しながら俺達も外へ出る。

この部屋は普段ダリアがいる大部屋から出て少し歩いた所にある安置と呼ばれる魔物が侵入出来ないセーフティエリアにある自作小屋の一室の一つだったのだが、小屋の目の前には綺麗な泉と自生している果樹がある。

俺の大事な生命線だ。

なぜこんな場所が存在するのかとダンジョン主であるダリアに聞いてもダンジョンだからという答えしか返ってこなかったが…


ともあれ、俺とジョエルさんはダリアを追いかけ大部屋へと入ると、先に到着していたダリアが中央の辺りでこちらを向いて待ち構えていた。


「では改めて…我はダリア。この【シャドウケイブ】の主にして最古の龍、【暗黒龍ダークネスドラゴン】である。しかとこの身をその瞳に焼き付けておくが良い」


なんだかやたらと得意げに口上を述べたあと、ダリアは両手を横に広げると龍化を始める。

ダリアの身体に闇色の魔力が纏わり付いたかと思うと視界いっぱいに闇が広がっていく。

ジョエルさんは身を守るように腕で顔を守るようにしていたが、龍化するだけならばこちらに害は全く無い。

とは言っても、それは俺にとっての話だけだったようだ。

ジョエルさんは広がる闇の勢いに押されて尻餅をつく。

やがて闇の勢いも落ち着きジョエルさんが目を開ける。


『よく来たジョエルよ。我はお前を歓迎しよう!』


ゴゥッという軽めの衝撃波を生み出しながらダリアなりの歓迎を見せたようだったが、目の前には巨大な漆黒の龍の頭部と全てを噛み砕くかのように生え揃った凶悪な牙と見たものを恐怖のどん底に叩き落とす極悪な瞳。

それを至近距離で見てしまったジョエルさんの反応は…



「ひ…ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」



その場で絶叫を上げて股間部から水溜りを作りながら気絶してしまった…



まぁ…


ですよねぇ……


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