救助活動と再会1



【暗黒龍の根城】


俺がダリアに鍛錬され始め、呼ぶのに長ったらしいからという勝手な理由でマクスと短略された呼び名で呼ばれるようになってしばらく経ったある日、日課となっている殴り合いという名の鍛錬の最中にそれは起きた。


「む…少し待てマクス。また何か落として来たようだ」


「は?落として…!?」


ダリアの言葉の意味を理解した俺はすぐさまこの大部屋の天井の一角に目を向ける。

そこには通気口というには大きすぎるくらいの大穴が開いており、直径30mほどの大きさの穴がある。

あそこから俺も落とされてここにいるのだが、普通であれば地上からここまでの落差はダリアが言うにはおよそ80kmもあるらしい。

8000mクラスの山が縦に10山積み重ねられているのと変わらない落差だ。


この大部屋の地面に衝突する時には落下中の岩肌への衝突などの理由で全身がボロ雑巾のように砕けており、衝突の勢いにより血袋と化した人間が風船が割れるかのように叩きつけられて床を血の水溜りに変える…


この数ヶ月ですでにそれが2回。

実際に落とされた回数はもっと多いかもしれないが、ここまで辿り着く事が俺の事例も含めて奇跡的にあったのだ。

普通に考えれば、落下中に袋も破れて中身が壁に引っかかったりしてここまでは落ちては来ないだろう…

しかし今回のこれはダリアが感知出来るくらいに落ちて来ていて瀕死ではあるが息があるようだ。

ということはおそらく今回のも中身は人間だろう…


俺とダリアはこの事に辟易としていた。

当然、ここで暮らしているダリアにとっては自分の部屋を汚されるという事に他ならないため、俺よりもその思いは一入ひとしおだろう。

俺は全く別の理由で辟易してるんだがな…


さておき、俺達は今後の事も考えてある事を考えていた。

この穴に人が落ちてくる事を皮肉を込めて【堕落】と呼んでいる俺達だが、いい加減片付けるのが面倒になっていたため、可能であれば救出する事にしていたのだ。


まずはこの大穴の構造についての説明が必要だろう。

ざっくりと言ってしまえば、この大穴は底に向かっていくにつれて穴の直径が大きくなっていく円錐型の穴になるのだが、当然壁はゴツゴツとした岩肌であり、落下中に接触などしようものなら大怪我は免れない。

現に運よく生きていたとはいえ、俺が落ちて来た時も大怪我を負っていたのだ。

俺が落ちた場所は龍化していたダリアの柔らかい腹の上だったため、落下の衝撃を無くすクッションになったらしく、無事とは全く言えないが辛うじて命を繋ぐ事が出来た次第だ。

クッションになったダリアからしたら、「気を緩めていた所に強烈なボディーブローを叩き込まれた感じだった」と恨みがましい目で見られたのだがそれはまぁ割愛しておく。


閑話休題


というわけで救助活動だ。

最初の頃は俺も何も出来ずにいたが今は違う。

ダリアからいじめ抜かれたこの身体はあれから更に強くなった。

当然Lvもとんでもないことになっているため、Lvアップによるスキルポイントなどが有り余っている状態だった。

そのスキルポイントを使い、俺は救助活動用にいくつかのスキルを【創造】しておいた。


「【空洞化トンネル】」


自前の跳躍により大穴に近付きスキルを唱える。


スキル【空洞化トンネル

普段使いとしては全く役に立たないスキルではあるが、こういった岩肌の突起物などを除去して岩肌を滑らかにするだけのスキルだ。

こうする事により、落下時に岩肌へ激突した際に致命傷を避ける事が出来る。

しかしこれだけでは落下自体は防げない。


「【ウインドウォール】」


続いて俺が行ったのは魔法の詠唱だ。

この【ウインドウォール】は風属性魔法の初歩的な魔法になるのだが、込める魔力量によって強度が変わる。

とはいっても所詮は初歩の魔法という事もあり【ウインドウォール】自体の強化には限界がある。

だがそれでいい。

この【ウインドウォール】の狙いはあくまでも落下の速度を弱めるためのものだ。

ここに到達するまでの時間稼ぎと言ってもいい。

なので俺は間隔を開けるようにして何度も重ね掛けした。


そして最後の仕上げだ。


「【魔力網】」


練り上げた魔力を指先から細く展開して大穴の出口付近で編み目を作って張っておく。

イメージしたのは柔軟性のあるネットだ。

これで落下対策は完了した。

そして数分後…


ドスン!!


展開しておいた【魔力網】に衝撃が走る。

思いのほか落下の速度があったせいか、結構な量の魔力を注ぎ込んだ【魔力網】だったにもかかわらず、床スレスレのところまで引き伸ばされていたがなんとか勢いは殺しきれたようだ。

その様子を見て俺は【魔力網】を解除するとそのままドスッと床に降ろす。


駆けつけて確認してみると落ちて来たのは赤く汚れた大きな麻袋、おそらく中には人間が入っている。


「ダリア」


「うむ。分かっておる」


ダリアは自らの鋭い爪を用いて中の人を傷付けないように麻袋と拘束している縄を切り裂く。

出て来たのは40代半ばくらいの男性だった。

ぱっと見での肉体の損傷は何箇所か骨折してはいるものの、大きな怪我と言えるのは一部肌を突き破って外部に飛び出た腕部だけだったのは落下中での衝突による怪我と考えればまだ軽い方だろう。

これならまだ治すことが出来る。


「【麻痺霧パラライズミスト】、【グランデヒール】」


麻酔替りの【麻痺霧】で全身の痛覚を遮断したあと施したのは、上級回復魔法の【グランデヒール】。

この回復魔法は傷を癒すだけに留まらず、怪我の際に失った血液も増血させる効果もあり、輸血が必要な重篤な患者に対して最大限の効果を発揮する。

こうした治療の甲斐もあり、落下して来た人物はなんとか一命を繋ぐことが出来たのだった。


「マクス、ほれ。これで汚れを落とすがよい」


ダリアから濡れた布を受け取り血で汚れた箇所を拭っていく。

うつ伏せになっており、治療のために体勢はそのままにしていたため顔が確認出来ていなかったのだが、身体を仰向けにした事によって顔が確認出来て俺は驚いた。


「っ!?な、なんで貴方が…」


「どうした?知り合いか?」


「まぁ…な…」


驚きのあまり歯切れの悪い返事しか出来なかったのだがそれも仕方ない事だと思って欲しい。

何せこの人は俺自身も世話になったことのある人で大事な幼馴染の父親だったのだから…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る