剣聖の目覚めと地震
「ふっーーー!!」
ヤマトさん達との戦闘が始まった。
戦況は1対3の多対一での実戦形式です。
アタッカーである私一人に対して向こうの布陣はスカウト、アタッカーが二人という組み合わせで壁役であるタンクと回復役のヒーラーがいないため長期の戦いにはならないでしょう。
ですがいくらハンデがあると言っても相手は遥か格上のSランク冒険者です。
最初から全力で行かせてもらいます!!
私が最初に狙ったのは魔術師のレイさんです。
他の二人の武器はナイフ、ダガー、片手剣なのに対して魔術師であるレイさんは杖です。
魔法を使うにしても詠唱している間だけは無防備にならざるを得ないはず!
私は地面を蹴りつけ一息でレイさんに肉薄しますが…
「甘い…」
スカウトのジンさんが私の振り下ろす剣とレイさんとの間に身体を滑り込ませるように割って入り私の一撃を両手のナイフとダガーをクロスさせて難なく防ぎます。
鍔迫り合いしている間に詠唱を終えたらしいレイさんの魔法がこちらに迫ります。
「【
レイさんの声を認識するや否や、ジンさんは瞬時に魔法の軌道上から外れるように移動すると、ぽっかり空いた空間にレイさんの魔法が飛び込んで来ました。
「くっ!!」
私はほぼ反射的に思いっきり横に跳躍します。
【
通常の威力とかけ離れた威力…
これはやっぱり…
「スキルを使わないとは言ってないからね」
やはりスキルでしたか。
詳細は分かりませんが、おそらくは使用する魔法に対して威力を上乗せするスキルでしょう。
魔力消費はそのままに威力だけを上げるスキルだとしたら、たとえ初級魔法だとしても侮れません。
「考えてる時間なんて与えないよ!!」
僅かな時間で思考していた私にヤマトさんが突っ込んで来ました。
私はヤマトさんの剣筋を見極めて受けるのではなく剣筋を逸らすように相対します。
剣戟を受けて僅かに硬直するよりは剣戟を逸らして相手に隙を作る方が剣も痛まないですし攻勢に回れるため一石二鳥です。
ですが…
「なっ!?」
剣戟を逸らし隙を作ったはずが、ヤマトさんの猛攻は止まりません。
逸らされた勢いを殺すこと無く次の剣戟が繰り出されて来ました。
それはまるで剣舞を思わせる太刀筋で、ヤマトさんは踊るようにステップを踏みながらこちらに迫って来ました。
「ははっ!!良いね!どこまで耐えられる!?」
さらに剣速が増し四方八方からの斬撃が私を襲いますが、私も受けているばかりではありません!
「【流水】」
私は相手の攻撃を受け流すアーツ【流水】を使ってヤマトさんの猛攻を凌ぎカウンターを打ち込もうとしましたが、それはバックステップで後退したヤマトさんに躱されました。
「【炎弾】」
すかさずレイさんの魔法が数発打ち出されましたが、打ち出された魔法は何故か無軌道にバラバラに打ち出せれました。
誤射かと思っていたらそれは大間違いでした。
感覚的なものではありますが、ザワッと身の危険を感じた私は咄嗟に身を翻すと、私の顔面すれすれを【炎弾】が通り過ぎて行きました。
一体何が…
すると今度は視界に入っていた【炎弾】が本来真っ直ぐにしか進まないはずの軌道を前触れ無くこちらに変えて襲って来ました。
「っ!?」
私は集中力を極限にまで上げて剣を振ります。
私が見据えたのは【炎弾】の核、つまりは炎の中心。
【炎弾】の中心には1センチにも満たない大きさの小石が存在していて、そこを断つことが出来れば【炎弾】は「斬る」事が出来ます。
都合数発打ち出された【炎弾】が時間差で私に向かって来ましたが、全ての【炎弾】を私は斬る事が出来ました。
「ふぅ…」
こんな事が出来るのも代剣であるシルフィンちゃんのおかげでしょう。
おじいちゃんの形見の剣ではきっと出来ませんでした。
(羽のように軽い…これならもっと…)
私が改めてシルフィンちゃんを握り締めて気合を入れ直すと、何故かヤマトさん達がぽかんとした表情を浮かべています。
どうしたんでしょうか?
「魔法を斬った…!?」
「ジン、今の出来る…?」
「無理…」
レイさんは信じられないものを見たといった感じで、ヤマトさんに問い掛けられたジンさんはふるふると力無く首を横に振っています。
「僕が出来るのは幅広のナイフで打ち返すくらいが精一杯だよ…ましてや斬って回避するなんて見た事もないよ…」
あれ?そうなんですか?
でもなるほど…無軌道に【炎弾】が飛んで来たのはそういう事でしたか。
そうなるとジンさんの動きは厄介ですね…
Sランク冒険者のジンさんの敏捷は打ち出された【炎弾】に追い付き、かつ回り込めるほど素早いという事です。
彼をフリーにするのは非常に厄介です。
さてどうしたものか…
「とんでもない加護だな…でも!!」
あれこれ考えてる間にヤマトさんが攻めて来ました。
速い…
でも今のこのシルフィンちゃんなら捌き切れる手数です!!
そう思っていた時期が私にもありました…
「ヤマトだけじゃないよ…」
「っ!!」
後方からの鋭い斬撃が飛び出して来ました。
あまりにも速い斬撃を躱しきれなかった私の髪の毛が数本宙に舞い、体勢を崩した私の腹部にヤマトさんの重い蹴りが追い打ちをかけて来ました。
「かはっ…」
勢い良く吹き飛ばされながらもなんとか体勢を整えて着地しますが、勢いを殺しきれず地面を少し削りながらようやく止まりました。
「はぁ…はぁ…強い…でも…」
剣を正眼に構え直し思わず本音が溢れちゃいました。
「楽しい!!」
今までも何度か対人戦はしたことはありましたが、ここまで劣勢になった事はありませんでした。
というよりここまで強い人達と戦った事がなかった私は負けた事がありませんでした。
理由は私のスキル【剣聖の加護】
このスキルの補正効果として有名なのは、主に刀剣の扱い方が上手くなると言うのが挙げられますが、それは正確ではありません。
正確には「刀剣の扱い方や体捌きの習得、最適な斬り方や剣筋が視えるようになる」と言うのが正しい効果です。
この効果によって最適な軌道をなぞって動いていただけなのですが、結果的にそう動いていたら、力の無い女の私でも勝負に勝ち続ける事が出来たのです。
でも目の前の3人はやはり別格でした。
ヤマトさん達は特別な事はしていません。
素であの強さを持ち合わせていることに驚きを隠せません。
それと同時にそんな彼らに負けたくないし追い付きたいと思っている負けず嫌いな事を考えている私自身にも驚いていました。
「ふふっ…こんなに楽しいのは初めてです!」
ドクン……ドクン……
気分が高揚した私が独り言のように呟くと、何か鼓動のようなものを手元から感じました。
手元を見てみると代剣のシルフィンちゃんが淡い緑光を放って明滅しているのに気付きました。
剣に意識を向けて見ると、私の頭の中で何か弾けたような衝撃が走りました。
『私を【解放】して…』
そんな声も聞こえました。
声の主は感覚で分かりました。
今も鼓動の激しさを増しながら緑光を明滅させ続けているこの代剣、シルフィンブレイドことシルフィンちゃんの声です。
分かりました…
君の力を私に貸してください!!
「【
私の声に反応したシルフィンちゃんが一際激しく緑光を放つと、激しい暴風が吹き荒れました。
私を中心に小型の竜巻が生まれ勢い良く拡散すると、奥で見学していた駆け出し冒険者さん達は勢いに耐えられなかったのか一様に尻餅をついていました。
やがて暴風が落ち着き、発生源であるシルフィンちゃんを見ると刀身全体が緑光に包まれていました。
先ほどの明滅とは違い、力強さを感じさせる輝きです。
私がシルフィンちゃんの柄を握りしめると、今のシルフィンちゃんの扱い方が頭に流れ込んで来ました。
「分かったよ…これが君の本当の
私がヤマトさん達を改めて見据えると、最大限に警戒した様子で私を見ていました。
「なんだかよく分かんないけど…面白い!!全力で迎え撃つ!!」
「いざ…尋常に…」
「「勝負!!」」
私とヤマトさんの剣が交差したのと同時…
ドンッという大きな衝撃が「地面」から伝わり私も他の人達も耐えられずにみんな転んでしまいました。
「なんだ今の衝撃は!?」
すると間髪入れずに何度か同規模の揺れが発生しました。
発生源は私達ではなく、やはり地面…
と言うよりは…
「地下からの振動…?地下で何が…」
しばらく私もヤマトさん達も思案していると、訓練場の入口からエリー姉が息を切らせながら走って来ました。
「き、緊急クエストです!!【宵闇の森】から鋼竜が現れました!!」
「鋼竜って奥地にいたんじゃなかったか?」
「そうです。ですがおそらく先程の地震の影響か森から飛び出して来た鋼竜は暴走しているらしいと見つけて逃げ帰った冒険者からの報告が…」
「なるほどね…よし。みんな行くぞ!!マキナさん、君も!」
「え…!?」
なんで私まで!?
驚きを隠せないでいるとヤマトさんはこう告げた。
「文句無しの合格だよ!君の力を貸してくれ!」
ようやく意味を理解した私は一瞬呆けてしまったけど、差し出されたヤマトさんの右手を取り握手しました。
「これからよろしくお願いします!!」
これでようやく先に進める…
待っててね…ルシオ…!!
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