剣士マキナ1



【興行街コール】



私が冒険者になってから、早いことでもう10ヶ月が経とうとしています。


皆さん初めまして。

私の名前はマキナといいます。

17歳、職業は冒険者で剣士みたいな事をしている女の子です。


今日も目標達成の為にこれからギルドに向かうところ…ではあるのですが、その前に少しだけ寄り道をします。


「グラハムさんおはようございます!頼んでた剣の修理、どうなりましたか?」


「ん?おぉマキナちゃんか。おはようさん…」


この髭モジャのドワーフさんは鍛冶屋のグラハムさん。

私の家の近所で私が生まれる前から鍛冶屋を営んでいる腕利きの職人さんです。

今日は前回の討伐クエストの際に傷付いてしまった私の剣の修理をお願いしてあったのでそれを受け取りに来たのですが、いつもハキハキと豪快なグラハムさんの様子が今日はバツの悪そうな表情を浮かべています。


「何かあったんですか?あ、やっぱりその剣、古過ぎてもう使えない…とか?」


「馬鹿言っちゃあいけねぇよマキナちゃん。こいつは立派な業物な事は間違いねぇ。だがこれを修理するとなるとウチにある素材じゃこいつがなまくらになっちまうんだ」


グラハムさんが私の剣の刀身を引き出し説明してくれました。


「こいつの刀身は特殊な金属で打たれていてな?その金属っていうのがなかなかに厄介な代物で手に入れるのにも時間と金が必要になってくるんだ」


「そうなんですかぁ…え?っていう事は修理は…」


「素材さえ手に入れば可能ではあるんだがな…今は無理だな」


「そんなぁ…」


私の項垂れた様子を見てグラハムさんが慌てています。


「そ、そんなにがっかりしねぇでくれよマキナちゃん…俺も孫みてぇに思ってるマキナちゃんの頼みに応えたいのは山々なんだが…この剣、マグナが使ってた剣だろう?」


「そうなんですか?うちの倉庫の奥深くにあったのを見つけて勝手に使ってたんですが…」


マグナというのは私のお爺ちゃんの名前で、私が生まれた頃にはもうお爺ちゃんは亡くなっていたので、私はお爺ちゃんが何をしていた人なのかは実はほとんど知らなかったりします。


「あぁそうか…マキナちゃんが生まれた頃にはあいつはもう死んじまってたんだったな…すまねぇ…」


「いえ、それは全然大丈夫なんですけど…」


実際、私からするとお爺ちゃんは話に聞いた事がある程度の人なので(主にお婆ちゃんからの惚気話)あまり詳しくは知りません。


「マグナがこの街の衛兵隊長だったってのは知ってるか?」


「まぁ…お婆ちゃんがカッコ良かったんだよって耳にタコが出来るくらいには聞いてますけど…」


「あぁシェリーか…」


グラハムさんも何かを察したのか苦笑いを浮かべます。


「まぁ実際見てくれも良かったのは確かなんだが、あいつが衛兵隊長になる前の話だ。あいつは武者修行とか言ってあちこち旅をしていたみたいなんだが、この剣はその旅をしていた頃からの愛剣だったようだ。素材も持ち込みでうちに修理を依頼しに来ていたよ…」


グラハムさんは懐かしむように語ります。

でも私はちゃんと聞いていましたよ…

お爺ちゃんが素材を持ち込んでいたという事を!!


「つまりはこの街の近くに修理するための素材があるって事ですよね!?」


「そりゃあまぁ…あるというか居るというか…ただ場所がなぁ…」


「場所ですか?どこにあるんですか?」


取りに行けるのなら私が行って来ればいい話です。

これでも一応、私も冒険者ですからね!!


でもグラハムさんは悩みに悩んだ後、渋々その場所を教えてくれたのですが、その場所を聞いた私は押し黙ってしまいます。


「場所は【宵闇の森】の奥地、そこに居る鋼竜が素材なんだ…」


【宵闇の森】


そこは暗黒龍が住む【シャドウケイヴ】の手前にある森なのですが、昔は今と比べて強い冒険者さん達がこの街にもいたためそれなりの頻度で討伐依頼や採集依頼で立ち入り出来ていたのですが、今も昔も立ち入るために必要な冒険者ランクは変わらずBランクが条件だったりします。

今のコールの平均冒険者ランクがC〜Dと、昔に比べて低いために、今やコールに駐在する冒険者さん達からすると、【宵闇の森】の奥地はただの危険区域になっているのが現状です。

そして今の私の冒険者ランクはついこの間Cランクに上がったばかりで条件を満たしていません…


「まぁそういうこった…運良く鋼竜の素材が市場に出回ってくれれば買い付けも出来るんだろうがなぁ…」


「やっぱり厳しい…んですよね…?」


「まぁな…まず竜の素材って時点でなかなか出回らない代物だからな。自力で調達出来るならそれが一番速いのは間違いないが、相手は竜だ。生半可な実力じゃあかえって奴らの餌になるだけだ」


「そうですよね…分かりました…私もギルドで色々と探してみますね…」


「すまんなマキナちゃん…替わりと言っちゃあなんだが、今はこれを腰に下げとくといい」


しょんぼりしている私にグラハムさんは一振りの長剣を貸してくれました。

渡された長剣を抜き、軽く素振りをしてみると重さは感じられないほどに軽く手にしっかり馴染みます。


「これは?長剣の割にはかなり軽い感じですね?」


「やっぱり加護持ちは違うな。そいつは竜素材ほど強力なもんじゃないが、風の精霊石で鍛えられた業物の剣だ。シルフィンブレイドなんて呼ばれてるな。特徴はマキナちゃんの言った通り、とにかく軽い。だが強度も申し分無いって事もあって女剣士が好んで使用してる長剣だ」


「そうなんですか…」


グラハムさんの説明を聞いた私は思いました。

勘の域は出ないのですが、この長剣、他にも何かありそうな気がするんですよね…

上手く言葉には出来ないんですが、なんかこう…特殊な力といいますか…


う〜ん…


「とりあえずはそれを代剣として使ってくれ。素材もこっちで色々と当たってみるからよ」


私がシルフィンブレイドを眺めていると、グラハムさんがこの剣を代剣として貸してくれるそうです。

武器が無いとどうしようもない私としては非常に助かります。

その後も参考までに修理に必要な素材を教えてもらいメモしたり、グラハムさんのお店で足りなくなっている素材などを聞いておきます。


「それじゃあそろそろ行きますね。ありがとうございました!あんまり無茶はしないようにしますね」


「おう。今日もこれからギルドに行くんだろう?頑張ってな」


「はい!それじゃあ失礼しますね」


グラハムさんにお辞儀をしてお店を出ます。


それにしても、あの剣、竜の素材で出来てたんだなぁ…

直せるといいなぁ…


そんな事を思いながらギルドに向かっていた私に思いがけないチャンスが巡ってくるのはすぐ後のことでした。


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