剣士マキナ2



【興行街コール】冒険者ギルド



今日も依頼を受けるため、冒険者ギルドに向かいます。

Cランクに上がったので前回は挑戦と思って同ランクの討伐依頼を受けてみた結果が武器の損耗という結果になってしまったので、今日はランクを落として依頼を受けようと思います。

冒険者たる者、危険はつきものとはいえ本来の実力が出せない時は無茶をしないというのが生き延びるための鉄則とエリー姉が言ってましたし、私も目的を果たすまでは死ねません。

そう思いながらギルド付近に近づいてくるとギルドの入口が妙に混雑していて中に入れそうにありません。

どうしたのだろうと気になったので近くにいた他の冒険者さんに聞いてみました。


「あの、すいません。ギルドが混み合ってるようですが何かあったんですか?」


「え?おぉ!?マ、マキナちゃん!?」


話し掛けられた冒険者さんが何故かたじろいで驚いているのに首を傾げると、今度は「うっ…」と唸って胸元を抑えて苦しそうにしています。


「えと、なんか苦しそうですけど大丈夫ですか?回復薬いります?」


「い、いや、大丈夫だよ…あぁ…可愛い…」


「んぅ?」


最後に何か呟いたようなのですが、周りの喧騒にかき消されて上手く聞き取れませんでしたが、大丈夫そうなので話の続きを伺います。


「えぇっと、入口が混んでる理由だったね。なんでも今ギルドの中にSランクのパーティが来ているみたいで、どうも【シャドウケイヴ】に挑戦するとか何とか…」


「それは本当ですか!?」


「いや、俺もさっき耳に入っただけで本当かどうかは分かんないんだけど…って、マ、マキナちゃん!?」


お話ししてくれた冒険者さんには申し訳ないとは思ったのですが、話の途中で私はギルドに駆け出しました。


【シャドウケイヴ】

そこは私にとっての目標地点であり私が冒険者になると決意した場所です。

さっきの冒険者さんの話が本当なら、今ここにいるというSランクのパーティが【シャドウケイヴ】に立ち入るという事です。


私の目的

それは大好きな幼馴染の捜索

冒険者になる前、私はギルドに捜索依頼を出しました。

幼馴染がいるかもしれない場所はおよその見当がついていました。

その場所が【シャドウケイヴ】です。


この街には昔からの言い伝えで【神隠し】と呼ばれる数十年に何度か起きる人々の失踪事件があります。

【シャドウケイヴ】の最下層に住むと言われる暗黒龍が闇に紛れて人を攫うと言われているのがこの【神隠し】です。

幼馴染が失踪してからすぐに捜索は行われたのですが、これといった手掛かりも無く、領主様からの【神隠し】という発表で捜索は打ち切られました。


ですが、幼馴染が私に何も言わずにいなくなるはずがないし、いなくなる前日に私と幼馴染は出掛ける約束もしていた事もあって、私は納得することが出来なかったのです。

そして私は行動を起こしてギルドに捜索依頼を出すことにしたのですが…

捜索区域は特Sランクの危険区域である【シャドウケイヴ】

当然、立ち入りが許されるのはごく僅かな高ランク冒険者だけ。

今のこのコールに立ち入りが許されるほどの冒険者さんがいるはずもなく、私の依頼は日に日に隅の方へと追いやられ、やがて見向きもされなくなってしまいました。


ならどうするか。

私自身が探し出すしかないと決意してその日のうちに私は冒険者になったのです。


それから10ヶ月。

私は死に物狂いと言うほどではありませんが、頑張ってランクを上げました。

未だ個人での【シャドウケイヴ】探索許可を得られるまでにはなっていませんが、冒険者ギルド史上では最速のCランク昇格という事もあり、私が少し有名になっていると言うのは冒険者ギルド受付嬢で私の専属担当、お姉ちゃんのような存在であるエリー姉の談。


話がだいぶ逸れてしまいましたが、私は入口の冒険者さん達を掻き分けてギルドへ突入します。


「すいません!!通し…て…!!きゃっ!?」


何とか中に入ることが出来た私でしたが、勢い余って体勢を崩し人波を抜けた先で転んでしまいました。


「君、大丈夫かい?」


声を掛けられた私が顔を上げると、こちらを振り返った5人の男女の内の男性一人が手を差し伸べてくれていました。


「あ、だ、大丈夫です!すみませんお話の邪魔をしてしまって!」


私は慌てて立ち上がり謝ると男性は「大事がなくて良かった」と言って微笑みました。

優しそうな笑顔はとても爽やかできっと女性にモテるんだろうなという印象です。


「あら?マキナ?ちょうど良かったわ。あなたを待ってたのよ」


「エリー姉?私を待ってたって…」


声に反応して見てみると受付の向こう側から私を呼んだのは担当受付嬢で私の姉貴分のエリー姉でした。


「あなたの依頼、受けてくれる人達が現れたわよ」


「え…嘘…」


エリー姉の言葉が信じられず、思わず私は言葉を失います。


「本当よ。もっとも言い方は悪くなっちゃうけど【シャドウケイヴ】攻略のついでという形になっちゃうけれど…」


エリー姉は申し訳なさそうに言いますが、どんな理由でも依頼を受けてくれる人達が現れたという事が私にとっては大事だし待ち望み続けた事なのです。


「という事は、君が依頼主のマキナさんなんだね?初めまして。俺はこのパーティのリーダーを務めているヤマトといいます。そこのガタイの良い男がコウシロウ、マスクをしてるのがジン、眠そうにしてる女の子がレイでニコニコしてるのがホノカ」


「「「「紹介が雑(だ/よ)!!」」」」


「分かりやすいからいいじゃないか」


紹介の仕方に異議を立てられながらも気にした様子のないヤマトさん。

緩い印象を受ける彼らでしたが、短い間とはいえ冒険者をしている私から見ても分かります。


彼らは強いと…


立ち姿だけを見ても隙を見せないというよりも隙が伺えません。

これが特Sランクのダンジョンに挑む人達と私との格の違いなんでしょう。


「マ、マキナといいます…よろしくお願いします…」


少し遅れて私も皆さんに挨拶をすると、リーダーのヤマトさんが依頼について切り出します。


「さっき受付のエリーさんが言っていた通り、俺達は主に【シャドウケイヴ】を攻略することがメインになるのであくまでもついでという事になるんだけど、気を悪くしないでもらえると助かります」


「いえ…私としては時間も立ち過ぎてるので最悪の事態ももちろん考えてはいるんです…でもどうしても納得がいかなくて…」


自分で言ってて辛くなってしまいます…

今まで我慢していたものが溢れ出てくる感じと言えばいいでしょうか?

意図せず涙が止めどなく溢れて来てしまいました。


「誰も頼れなくて、誰も見向きもしてくれなくて…だから私は自分でって思って冒険者になったけど、自分だけじゃどうやっても届かなくて…!!」


涙と一緒に溜め込んでいた言葉も溢れます。

そんな私をエリー姉が何も言わず抱きしめてくれました。


「え〜っと…事情があるのは様子を見る限り分かりました。そこで俺達からの提案なんだけど…」


ヤマトさんが仲間の方達に振り向き視線を送ると、皆さん納得するように頷きを返しました。

そして私に向かってこんな提案をして来ました。



「君がこちらが出す条件をクリア出来たら、俺達と一緒に【シャドウケイヴ】を探索するっていうのはどうかな?」



言われた事の意味を理解出来ずにキョトンとしていると、意味を理解したエリー姉が反応しました。


「ヤ、ヤマトさん!?マキナはまだCランクに上がったばかりなんですよ!?」


「そうらしいですね。でも【剣の申し子】と異名が付くほどの実力があると言うのも事実なんでしょう?」


「それはそうですが…」


【剣の申し子】とはいつの間にか呼ばれていた私の別称の事で、私の剣捌きを見かけた人達が呼び出した呼び名です。

私には生まれつき【剣聖の加護】と呼ばれるスキルが付いていて、これは剣の扱い方や習熟度の成長がズバ抜けているらしい希少なスキルだそうで、普通の方達よりは上手く剣を扱えるくらいと思っていたら怒られたのは随分昔の話…


それはさておき、ヤマトさんの言葉には続きがありました。


「今俺達のパーティは前衛が不足しています。このまま探索の許可が下りたとして探索に向かっても行き先は特Sランクの危険区域。攻め切れずに返り討ちになる可能性だってあります」


ヤマトさんは一度言葉を区切り私に向き直ると続きを話します。


「そこで剣士であるマキナさんの出番です」


「……」


「俺と一対一で試合をしましょう」


「………え?」


続きがあると思って身構えていたらいきなり試合を申し込まれました。

私が目をぱちくりさせていると、ヤマトさんの後ろに控えていたホノカさんが変わって説明してくれました。


「言葉が足りなくてごめんなさい…要するにヤマトがマキナさんと戦って実力を見て、一定の実力があると認められれば私達と一緒に探索しましょうっていうお話です」


苦笑しながらホノカさんがほわほわとした口調で意味を教えてくれました。


ヤマトさんの意図が分かった私が出した結論は…


「お願いします…!!」


ほとんど間を置かず、私はヤマトさん達に向けて頭を下げてお願いしました。

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