適応と落胆



【暗黒龍の根城】地下??F


急激な肉体変化に戸惑っていた俺は、その変化に慣れるためにフロアを駆け巡っていた。


「くっ…!うぉっ!?」


何度目になるかも分からない壁への激突。

未だに俺は自身の力加減が出来ないでいた。


「やれやれ…いくら頑丈になったとはいえ、そう何度も壁に突っ込まんでも良かろうに?」


「好きで突っ込んでるわけじゃねぇよ!加減が分かんねぇんだから仕方ねぇだろうが!」


そう。

別に壁に突っ込みたいわけではないんだ。

このままではいつまで経っても先になんて進めない。


「少し性急過ぎたか?だがなマクスウェルよ…お前の身体だ。どうやっても慣れるしかないぞ?」


「分かってる…それは十分分かってるんだけどさ…」


ずっと腕を組んで俺の様子を見ていたダリアだが、どこから取り出したのか分からないが俺にタオルを渡してきた。


「まぁ焦った所でどうにもならん。そこの扉から出て左に進むと泉がある。まずはそこで身体を拭いて少し休んで来るがいい」


「あ、あぁ…」


自分の身体をよくよく見てみると肌にはべったりと俺自身の血が固まって付着しており、着ている服もあちこち破れてしまっている。

ダリアからタオルを受け取り言われた方へ向かうと、そこには大きな泉があり、水中を見てみると魚も泳いでいるようだ。

周囲には果物の生っている樹もありどうやら飢えは凌げるようだった。

タオルを水で濡らし身体を拭き、近くの樹から果実を一つもぎ取り一齧りする。


「…うまっ…」


思わず出た言葉だったが、実際に今まで味わってきたどんな果物よりも美味かった。

それはそうと、実際問題として今のままでは本当にまずい。

仮にここから外に出たとして、加減が出来ないまま生活したとしたら大変な事になるのは明白だ。

何せちょっと走ろうとしただけで地面は抉れて周囲は俺が移動する際に生じるちょっとした衝撃波で色々と吹っ飛んでしまうのだ。


今の俺は災害の根源と言っても過言じゃないかも知れない。

あいにくと俺は周りに迷惑をかけて平気でいられる人間では無い。

いっそ事なかれ主義と言ってもいいほど波風を立てたくは無いと思っている平凡な男だと思っている。

だからこそ今の俺自身の事が看過出来ないのだが…


「なんとかしないとな…」


この場所は安全地帯のようで、周囲に魔物の姿は見受けられないが、それでも人間がこの場所に住もうと思ったらそれなりに必要な物が出て来るものだ。

食料や飲み物は周りの樹に成る果物や泉の水でなんとかなるだろうが、生活となるとそれだけでは如何ともしがたい。

自分の置かれた環境にも慣れなければならないのだが…


待てよ…


「環境に…慣れる…そうか!」


俺は一つのスキルを思いつきステータスのスキルの欄を開く。

なんか新たにスキルが発現しているがそれの確認はまず後にして【創造】を選択し、目的のスキルを検索する。


「あった。もし俺の予想通りなら…」


見つけたスキルを選択し迷わず取得を選ぶ。

すると、一瞬俺の身体を淡い水色の光が包み込んで消える。

いまいち実感は沸かないが、おそらく今取得したスキルの効果だろう。

ダリアから受け取ったタオルを再度泉の水で濡らし、今度は吸い取った水を絞る。

先程までは身体のコントロールが全く出来ていなかったため、普通に絞っていたらタオルは千切れてしまっていただろう。

改めてタオルを絞った結果は…


「よし…成功だな…」


絞られたタオルは千切れることなく手の中に残った。

俺が今取得したスキル。


パッシブスキル【適応】


このスキルの効果は単純なものではあるが、急激な変化が起こった時にその効果を発揮する。

文字通り、自分の状態や置かれた環境に適応するのだ。

極端な話、ここが火山や雪山であった場合、そこで生きられるように身体に負担が掛からないように耐性が付くというような感じだ。

今の俺に当てはめると加減が出来るようになったと言ったところだろうか?

本当ならスキルに頼りたく無いというのが本音だが、ここまでの急激な変化に慣れるとなると自分の身体であっても一筋縄ではいかないのだ。

何せここに落ちる前のLVと気絶から目覚めた後のLV差がおかしいんだ。

一瞬だけ見えたLVを無視してスキルを取得した俺だったが、流石に見なかった事には出来ないよな…


俺が落ちて来る前のステータスは正直分からない。

と言うのも、そもそも自分のステータスを数値化などで見る事は冒険者ギルドで情報更新する時や【鑑定】系のスキルを使って見ない限りは確認することが出来なかったはずなのだ。

ダリアが言うには俺は【新生者】とか言うものになっているらしいし、起きる前にポンコツ駄女神のステイシアに言われた通りにステータスと呟いただけに過ぎない。

いっそ、ステイシアに言われて初めてステータスという言葉を知ったくらいだ。

だが目覚めた後は何故か漠然とだがその意味は理解していた。

これはおそらくではあるが、【新生者】になった際にステイシアが小細工したんじゃ無いかと思われる。

ともあれ、今の俺のLVはこんな感じになっている。



名前:マクスウェル

性別:男/年齢:17

LV:1276

HP:147890/147890

MP:88970/88970

アクティブスキル:無し

パッシブスキル:【再生LV10】、【睡眠学習】、【痛覚変換】、【適応】、【物理耐性強化・極】(NEW)、【身体能力強化・極】(NEW)

固有スキル:【スキル想像】、【スキル創造】



まぁ…その…何だろうな…

この数値はたぶんおそらくメイビー絶対完全に人間の範疇を超えてるよなぁ…


認めたくは無いんだが…

本当に認めたくは無いんだが…

このダリアの根城に落ちてきてたった数日で預かり知らぬ間に俺は人間を辞めてしまっていたようだった…

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