身体能力激化



【暗黒龍の根城】地下??F



誰かが俺の頭を撫でている。

後頭部に暖かみのある柔らかい感触を感じながら俺は思考していた。


俺はどうなったんだっけ?

身体の再生が終わってダリアと話してたらいきなり踏み潰されて…


そうだ…

そうだよ…


踏み潰されたんだ!!


「ダリアァァァァァ!!」


事の成り行きを思い出した俺は怒り沸き立ちガバッと起き上がる。


「ふむ…ようやく起きたか寝坊助ねぼすけ。ずいぶんと賑やかで熱烈な起き方よのう?」


声のした方に向き直ると、そこには見知らぬ妖艶な女性が横座りしていた。

その姿は見る者を魅了する艶やかさがあり、東方に伝わる黒地の和服を着崩すようにしているため、持ち前の豊かな胸の谷間が露わになっており色気が尋常ではない。

長い漆黒の髪を結い簪で纏めていて透き通ったその白い素肌が非常に眩しい。

瞳の色は全てを見透かすようなブラックオニキス。

例えるならば東方にあるという遊郭にいる「花魁」のような絶世の美女がそこにいたのだ。


「……誰?」


「誰とはご挨拶だな…先程我の名を叫びながら起きたのは誰だったか?」


叫びながら?

首を傾げる俺の様子を見てくつくつと笑う美女。

俺が叫びながらって事は…


「お前、ダリアなのか?」


「うむ。話し方で分かるとは思ったのだがやはりまだまだ青いようだな?我の人化した姿に惑わされたと見える」


悪戯が成功したとでもいうように笑いながら立ち上がる。

目の前の美女がダリアだと分かった俺は怒りが先に立ち反射的に殴り掛かる。


「お前ぇぇぇぇぇ!!」


「おっと…」


殴りつけるようにした俺の腕を事もなげに掴み取り、その勢いを利用したままダリアは俺を投げ捨てる。

姿はどうあれ中身は龍だ。

ダリアからすれば撫でるような力だとしても人間からしたらそれだけでも災害クラスの暴風と化す。


「ガハッ!!」


とてつもない勢いで壁に叩きつけられた俺だったが、肺から空気が漏れ出しその場に膝をつく。


「うむうむ。肉体の強化は上手くいったようだな?」


叩きつけられた俺の様子を見て満足そうに頷くダリア。

どういう事だ?

肉体の強化だと?

するとあれだけの勢いで壁に叩きつけられた俺自身の異常に気付く。


「何ともない…?」


そう。

何ともないのだ。


「気付いたか?」


ダリアが胸を持ち上げるように腕を組み、なぜかドヤ顔で聞いてくる。


「無事なのはお前が強化されたという事よ。本来並の人間であれば同じようにされた場合、お前のいる場所をただの肉塊と血溜まりに変えていただろう。試しに軽くそこから向こうの壁に向かって飛び出してみよ」


「おいおい…いくら強化されたと言っても流石に…」


「いいから騙されたと思って試してみよ。いいか?ホントに、だぞ?」


俺は訝しみながらも脚に少し力を込めて一歩踏み出す。

すると踏み込んだ地面がバゴッっと鈍い音を立てて陥没し、俺の身体はダリアが指定した反対側の壁に勢いよく激突する形となった。


「ぐっ!!」


というか…

冗談だろ?

ここまでの距離をたった一歩足らずで到達しても尚勢いが強いって…

ここは暗黒龍の住んでいる巨大な空間だ。

本来であれば龍の姿であるダリアが伏していて尚、空間に余裕がある場所なのだ。

龍の姿のダリアの大きさが伝承通りであればおよそ体長は50m。

この空間はざっと見てもその3倍程はあるだろうか?

つまり直径で端から端までは約150mもの距離がある事になる。

そんな距離をたった一歩で到達した挙句、激突して尚、少し痛いくらいで大して怪我をすることもなかったのだ。


「いったい…どうなって…」


「やれやれ…現実を見よ。今お前の身に起きたことは何だ?言っておくが、我は防御力を底上げするような付加は行っておらんぞ?つまりはだ…」


ダリアが言葉を区切り、姿を消したかのように俺の目の前に現れコツンと俺の胸に握り拳を当て続きを告げた。


「その頑丈さも今のお前自身の身体能力という事だ」


そう言って八重歯を覗かせてニカッと笑った。


「一つ聞いていいか?」


俺は気になった事があり、それを聞こうとダリアに顔を向けると、不思議そうに首を傾げた。


「何だ?一つと言わず二つでも三つでも良いぞ?あぁ、でも体重だけは勘弁して貰えんか?一応我も雌であるからして…」


「いや、体重なんて元が龍なんだからトンクラスなのは当たり前だろうが。そんな事より…」


「マクスウェルよ…お前、何気に酷いやつだったのだな…」


質問しようとして喜んだと思ったら、俺にとってはどうでもいい事を言ったので、それを鼻で笑って一蹴してやると途端に気落ちするダリア。

すると今度はやさぐれたようにして返事を返す。


「で〜?聞きたい事とは何だ?くだらん事だったら咬み殺すぞ?」


一転してとんでもなく物騒な言葉が返って来た!?

本当に咬み殺す事が出来る生き物なだけにタチが悪すぎる…

これは言葉を間違えただけでエライ事になりかねん。

大丈夫だろうとは思うがとりあえず聞かない事には何とも言えんからな。


「どうやって俺を強化したんだ?ダリアは俺を踏み潰してただけなんだろ?」


「よし、咬み殺す」


何でだ!?


「あ〜〜〜ん…」


「待て待て待て待てぇ!!」


ダリアが口を開けながら俺の両肩を掴み逃げられないようにする。

俺もダリアの肩を掴み抑えるが元々の膂力の差が比べ物にならないために全く叶わずにグイグイダリアが近付いてくる。


「ちょっ…マジで…」


ここまでか…

ダリアが口を開けて俺の首筋目掛けて咬みつこうとしている。

いや、ホント…

龍の力を舐めていた。

いくら俺の身体が何かしらの手段によって強化されていたのだとしても、元々の膂力の違いだけは追いつきようがない。いつかは追いつけるのかもしれないがそれはまだまだ先の話だろう。

俺はせめてもの抵抗を続けながらも何とか逃げ出そうと試みるが、やはりダリアの侵攻は止まらない。

これから襲ってくるであろう痛みに耐えるようにきつく瞳を瞑る。



あむっ…



ん…?

痛く…ない…?



あ〜むっ…あむあむ…



というかくすぐったい!!


「くふっ…くっはっはっは!!」


突然堪え切れなくなったように大笑いしだすダリア。

俺は恐る恐る閉じていた瞳を開けると、俺への拘束を解き、腹を押さえて爆笑しているダリアがいた。


「い…今の…何したんだ…?」


「ふっ…くっくっく…いやなに、ただお前の首筋を我の唇で甘噛みしただけだが?」


「甘噛み…?」


「うむ。ただの甘噛み、スキンシップ?とかいうようなものだな」


キョトンとして座り込んでいる俺を見下ろしながらニヤニヤしているダリア。


「いやはや、随分と可愛らしい反応であったなぁマクスウェル?」


「お前の行動は本気なのか冗談なのか分かんないんだよ…はぁ…本気で咬み殺されるかと思った…」


甘噛みされていた首筋をさすりながら苦言を呈するが当のダリアは気にした素振りも無く平然としていた。


「して、強化の方法だったか?簡単な事だ。お前のスキル【再生】を利用したまでのこと。身体の作りとは面白いものでな、壊されて治る時には以前よりも丈夫な作りで治るのよ」


「つまり、俺を踏み潰したのは一度身体を壊すためだったって事か?」


「そういう事だ。まぁ一度どころか再生し始める度に何度も踏み潰したがな」


「何度もって…」


ダリアのセリフに思わず頭を抱える…


「ちなみに一週間ほどだな」


四つん這いになった…


「まぁ我も色々な意味で危なかったがな」


「踏んでただけだろうが…」


「そう、そこだ。お前を踏み続けているうちにだんだん楽しくなってきてな?我自身痛めつけて喜ぶような趣味は無かったのだがお前は脳の機能さえ生きていれば何度も再生するようだったからな…こう、どれくらい耐えられるのかという好奇心というか嗜虐心みたいなものが沸々と…」


「もういいやめてくださいお願いします」


新たな扉開きかけてたんじゃねぇか…

ダリアといいポンコツ駄女神といい、ここに来てから遭遇する奴のキャラが濃過ぎるんだよ…


「あぁそうそう。気になってるかもしれんので先に言っておくが、今のお前はおおよそだが成竜5頭分くらいの能力と言ったところだぞ?正確には分からんが我の攻撃を耐えるには最低でもそのくらいの硬さが無ければすぐに消し飛んでしまうからな」



「…………は?」



俺、知らない間に人間辞めちゃってたようだ…

というかどうしてそうなったんだ?

急展開すぎて色々と考えが追いつかなくなって来ていた俺に、ダリアはトドメをさして来た。


「言ったであろう?鍛えてやるとな」


ニヤリと口角を上げて俺を見下ろし宣言するダリア。

どうやら俺の地獄はまだまだ始まってすらいなかったようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る