劇的!○フォーア○ター
「う……あ……?」
意識を取り戻した俺であったが、少し前までの記憶が曖昧になっていた。
「たしか『暗黒龍の根城』に落とされて…何度も気絶して死にかけて…ポンコツ駄女神に何やかんやされて…」
『ポンコツ駄女神?』
「そうそう…って…うぉ!?」
俺の独り言に反応した隣にいたらしい暗黒龍が頭を伏せながらこちらを馬鹿デカイ瞳で見つめていた。
「いや、怖ぇから!!今にも食い殺しますよ的な目で見られるのホントに怖ぇから!!」
『何を言うか小僧!お主の身体に起こった事の方がよっぽど悍ましく恐ろしい物であったわ!!』
は?何言ってんだコイツ?
俺の身体に起こった事なんて…
あぁ、そういや【再生】習得したんだっけか。
パッシブスキル【再生】
それは自分の脳が潰されない限り、負傷や欠損、果ては内臓や神経までを再生させるスキルである。
ただしこれには色々と問題があるらしく、再生する際には想像を絶するほどの激痛が身体中を駆け巡るのだ。
そこで俺は気絶していた理由に辿り着いた。
「そうか…俺、痛みに耐えられなくて気絶してたのか…」
『そのようだな。だがその甲斐もあって肉体は完全に修復されているようであるぞ?』
暗黒龍の言った事を確認するため、俺は自分の身体を見回す。
「おぉ!ホントだ!痛くない!!」
さすがは【再生】と言わざるを得ない。
後で分かった事だが、暗黒龍曰く、俺を見つけた時には俺の右脚は千切れかけていて、所々骨折した骨が肌を突き破り、見ただけでは既に死んでいてもおかしくはない状態だったらしい。
『それにお前が眠っている間にお前自身のLVも上がっておったようだぞ?』
何ですと?
「マジか…」
しかし俺は経験値を得るようなスキルを創造した覚えは無い。
気になって俺のステータスを開くと、そこにはログが表示されていた。
「スキル【睡眠学習】、スキル【痛覚変換】を習得しました。」
【睡眠学習】に【痛覚変換】?
【想像】で色々と妄想にふけりまくっていた俺ではあるが、ここにある【睡眠学習】や【痛覚変換】ってスキルは考えたことが無かった。
つまりこの2つのスキルは後天的に自力で習得したスキルということになるのだろう。
スキルの習得方法は俺の持つ【創造】は例外として、基本的には2つしかない。
生まれつきあの駄女神から贈られる先天的な習得と、今の俺のように自身の経験から得られる後天的な習得方法の2つだ。
気になるスキルの効果はこうだ。
【睡眠学習】
眠っている、または気絶している間経験値を得られる。
【痛覚変換】
「痛み」の強弱の度合いが強いほどより多くの経験値が得られる。
どっちも経験値を得られるスキルであった。
俺がこの2つのスキルを得られたのは不幸中の幸いだった。
俺自身LVアップの経験はあるが、平和な日常で過ごしていればそうそうLVなんて上がるものでは無い。
しかしLVアップで得られる効果は劇的で、自分の身体ではないと思うほどの変化を得ることが出来る。
さて、暗黒龍が言うには俺のLVが上がっているとのことだったが、本来他人のLVが上がったことなど鑑定スキルでも無ければ分からないものなんだが、気になった俺は暗黒龍に理由を聞いてみた。
「何で俺のLVが上がってるって分かったんだ?鑑定スキルでも持ってるのか?」
『そんなスキルなぞ無くとも魔力の総量、流れを見れば分かる。お前が気絶している間、著しくお前の中にある魔力の総量が跳ね上がっておったからな。そんな現象、LVアップ以外あるまいて』
「魔力を見るなんて出来るのか…暗黒龍、あんたから見て俺の今の魔力ってどんなもんなんだ?」
俺は漠然と気になった事を聞いてみた。
と言うのも、俺の住んでいた街は冒険者協会の支部はあるものの、そこに居る冒険者達は大して強くはないようで、一番上のランク「Sランク」から「Fランク」まであるランクの中でせいぜいがDランクくらいの冒険者しか居なかった。
自分の強さの指標が欲しかったのだが、暗黒龍からの返事はこんなものだった。
『お前達人間の目安など分からんが…そうだな…魔力の総量だけで言うなら上級魔法で数発詠唱出来るくらいではないか?超級魔法だと1発が限界だろうさ』
マジかよ…
そんなに強くなっちゃってたのか…
暗黒龍が言った上級魔法や超級魔法とは「魔法」を使う上での格付けのようなものなんだが、上級魔法を使えるのは冒険者ランクで言うところの「Bランク」相当、超級魔法に至っては「Aクラス」以上でようやく使えるかどうかといった線引きがなされているのだが、どうやら今の俺は「Aクラス」相当の魔力を保持しているらしい…
『とは言っても、それを使いこなせるほどの実力があるかと言われれば全くそんな感じでもないがな』
「まぁ…そりゃあそうだな…今まで戦闘なんて害獣駆除で少しだけ魔物を倒したってだけのもんだし」
『ならば実力が伴うまでここで鍛えていけばいいのではないか?』
「ここで?」
『うむ…我もこうして人間と話すのは久々で存外楽しめたからな。その礼の様なものだ。
お前が良ければ付き合ってやらんこともないぞ』
やっぱりこの龍ツンデレだなぁ…
まぁそれでもこの申し出はありがたい。
外に出るにしたって俺が落とされたこの壁を登って行くわけにもいかんし、正規のルートで出ようとしてもこの近くにいる魔物に喰われておしまいだろう。
それに極めつけは、俺自身に全くと言っていいほど戦闘経験がないと言うことだ。
「じゃあよろしく頼もうかね…あぁ俺の名前は…」
あれ?
俺の名前って何だっけ?
どんなに思い出そうとしても自分の名前だけが思い出せない。
そしてその理由はステータスの窓を開き、自分自身のステータス、名前の部分を見る事で明らかになった。
名前:NO NAME(あなたは一度死去した者として扱われています。新たな名前を入力して下さい)
思い出せなかったのではなかった。
今の俺には名前自体が存在していなかったのだ…
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