新生
『どうした人間よ?お前の名は何と言うのだ?』
俺が呆けている状態が続き、その様子にしびれを切らした暗黒龍が改めて俺に名前を聞いてきた。
「いや…それがな?名乗りたいのは山々なんだが…どうも今の俺は本当の意味で名乗る名前が【無い】みたいなんだよ…」
『ぬぅ?それはどういう事だ?』
どういう事って聞かれても今の俺には言葉通りの意味だとしか答えられない。
ステータスには基本的に、自分の名前とパラメータ、自分が覚えているスキルや使える能力などを確認することが出来るのだが、今の俺のステータス欄には1つだけ異常が見られた。
先に言った通り、俺の名前が【無い】事になっているのだ。
しかもどういう訳かは分からないが以前の名前すら頭に霞がかかったかのように思い出すことが出来ないのだ。
理由についてはすぐに分かった。
名前の横に記載されていたのはこうだ。
『あなたは一度死去した者として扱われています。新たな名前を入力して下さい。※尚、混乱を避ける為、以前名付けられていた名前を入力すること、及び思い出すことは出来ません』
という事だった。
きっとこれもあのポンコツ駄女神の仕業なんだろうが…
まぁ確かに、文面から察するに、街で俺はすでに亡くなった者として扱われているのだろう。
実際にはこうして俺は奇跡的に生き延びているわけで、以前の名前であの街に戻ってしまっては混乱を招くことは間違いないだろう。
そもそも、【使えない奴】という烙印を押されていた俺が戻ったところで何がどうなるわけでも無いとは思うが…
いかん…自分で言ってて悲しくなってきた…
と、ともかく、そういった理由があって俺は以前の名前も思い出せない状態なようだ。
説明文にある通りの事を暗黒龍に伝えると何かの琴線に触れたのか暗黒龍は笑い出した。
『はっはっは!!実に面白い奴が転がり込んで来たものだ!生きながらにして【新生者】とはなぁ。長生きはしてみるものだな』
「【新生者】って何だ?」
聞いたことのない単語が出て来て、俺は思わず聞き返した。
俺の住んでいるこの【世界】には聞いたことしかないがいろんな奴がいる。
不慮の事故や何かの拍子で亡くなり、この【世界】に転生した【転生者】
神の悪戯かまたはどこぞの国が仕掛けた召喚術によってこの【世界】に呼び出された【転移者】
こういった連中が実在するというのは、俺自身実際に見たことはないがいるらしい。
【転生者】、【転移者】について共通していることがある。
それはどちらもこの【世界】において、個人としては多大なる能力や強さを身に付けているということだ。
大概の奴は【勇者】または【英雄】と呼ばれる存在になったりしているのだが、暗黒龍が言ったのはそのどちらでもない【新生者】というものだった。
『我も実物を見るのは初めてではあるがな。状況を見る限り、お前は間違いなく【新生者】なのであろうよ』
「その【新生者】?ってのが分かんないから知ってるなら教えてくれないか?」
『我も伝え聞いた内容でしかないがな…何でも【新生者】というのは神の手違いで何某かの問題を抱えて産まれた者に対してのみに与えられる生まれ変わりのようなものらしい』
「生まれ変わりねぇ?とは言っても確かに死にかけてはいたんだろうけど、俺は生きてるぞ?」
『まぁな。だがお前は死んだ者として扱われているのだろう?その証拠がお前の名だ。新たな名前を付け、今後はその名前で生きていく事になるのだろう?そういった意味では【新生】と言ってもあながち間違いではあるまい?』
言われてみればまぁ…確かにそうだな…
『それに【転生者】や【転移者】と同じように特殊なスキルや能力が与えられるという点でも合致する。本来【再生】などというスキルは人間が覚えられるスキルではないからな。』
それは一部間違いなんだけどな。
俺が与えられたスキルってのは【創造】であって、【再生】は【創造】を使って覚えたスキルだ。
まぁこれを言ったらなんか面倒な事になりそうなので話を合わせる程度にしておくが…
それにしても【新生者】か…
ここに落ちて来てから色んなことがあり過ぎて頭の整理が追いつかないでいると、暗黒龍がこんな提案をして来た。
『困惑しているようだな?だがまずはお前に今出来そうなことを一つずつしていくしかないであろう』
それは確かにその通りだ。
差し当たって俺が今出来そうな事と言えば…
「まずは名前だな…」
『それが良かろう。なんなら我がお前の名をつけてやっても良いぞ?』
「じゃあ頼む」
正直俺が考えてもロクな名前をつけそうになかったため、俺は暗黒龍の提案に乗ることにした。
『即答とはな…お前、まさか考えるのが面倒だからとか思ってはなかろうな…?』
「………そんなことはないぞ」
『その間はなんだ?ぬぅ…まぁ良い…そうだのぉ…』
暗黒龍が目を瞑りうんうん唸る。
ドラゴンの唸り声は正直言って威嚇されているようにも感じるので若干の恐怖を感じていたが、考え込んでいる暗黒龍を見つめていると、急に暗黒龍の両眼がカッと開かれた。
「うぉ!?ビックリした!!いきなり目を開くんじゃない!」
『ん?何がだ?それよりこんな名はどうだ?』
急に開かれた両眼に襲われるかと思って身構えた俺だったが、暗黒龍は意にも介さず考えた名前を口にする。
『マクスウェル、これはどうだ?』
「じゃあそれで」
『また即答か!?何か無いのか?名前の由来は?とか気になるところとかは無いのか!?』
「いや別に?」
暗黒龍が何か色々言っているが、俺は気にすることなくステータス画面を開き告げられた名前を入力していく。
最後に完了を押すと警告が出て来た。
『一度決めた名前は変更する事が出来ません。本当によろしいですか?』
『はい』『いいえ』と目の前に選択肢が現れるが、俺はほぼノータイムで『はい』を選択すると
『あなたの名前は【マクスウェル】となりました。ようこそ【ローゼンスファルド】へ!!新たな人生があなたを待っていますよ!』
新たな人生…ね…
そんな文言に苦笑しつつも俺は暗黒龍に問い掛ける。
「名前は決まったけど、俺はお前をなんて呼べばいいんだ?これから世話になるのに暗黒龍じゃ呼び辛いしさ」
暗黒龍はいまいち納得がいかないといった様子だったが、何かを諦めたのか渋々名前を口にした。
『【ダリア】…それが我が呼ばれている名だ。真名はあるが、それは我が本当に認めた者にしか明かす気は無いのでな。知りたければ我を認めさせてみよ』
「ふ〜ん?ダリアね…じゃあこれから暫くよろしく頼む」
『うむ。ではまず手始めにマクスウェルよ…』
「手始めに?」
暗黒龍が鷹揚に頷くとその巨体を持ち上げる。
見上げる高さになった暗黒龍はその前足の指を開いたかと思うとその脚を俺に向かって振り下ろして来た。
『死にかけるが良い』
ぐちゃ…
「!!!!?っがああああああぁぁぁああ!!!!!」
目にも留まらぬ勢いで振り下ろされたダリアの右脚が俺の四肢を潰すように踏みつけて来たのだった。
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