第58話 【神風】の勇者
今日のクラシス闘学園は交換留学生が来るとの事で、少しだけその話で持ちきりだ。
ある者は、そいつは強いのかと。ある者は、美人はいるのかと。ある者はイケメンはいるのかと。
武闘派の人間が集まれど、結局のところ話の内容は年相応だ。
そこに、このクラスの先生が入ってくる。
「はい、みんな座ってー。これから、短い間だけどこの学校で一緒に学ぶことになった人たちよ。さあ、入ってきて。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さあ、入ってきて。」
クラスの先生に呼ばれて教室に入る。
一学年一クラスという、大馬鹿な編成をしているためかかなり広めの部屋だ。そこそこの大学の講義室くらいあるんじゃないか?
「この四人がこれからこの学校に留学する人たちよ。ささ、自己紹介をして。」
「あー、克己です。よろしく。」
「エレナです。短い間ですが、よろしくお願いします。」
流石エレナ。メイドだったからか礼儀正しい。さすエレだ。
残った二人もそこそこの挨拶をして、終わる。
後は質問タイムだ。
と言いたいところだが、この年の男どもは馬鹿しかいないのか、エレナとシルだけに質問が集中し、挙句に内容は「胸の大きさは?」とかきたもんだ。
殺してやろうかと思った。
留学生紹介も終わり、好きな席に行くように誘導されたので、取り敢えず後ろの方の席を選んだ。
席に座ると、隣の奴に声を掛けられる。
「僕の名前はアドルフ。よろしく。」
見た感じ、そんなに強そうではない。先ほどの自己紹介の時見つけた、凰蓮・ピエ〇ル・アルフォンゾみたいなやつの方が強そうだ。
まあ、だからって無視するわけにはいかないか。
「ああ、俺は克己。よろしく。」
そんなに、悪そうじゃないんだけど、なんか嫌い。
目に見えて嫌そうな顔をする俺にマモンが耳打ちしてくる。
「克己、その人は、【神風】の名を冠する勇者だよ。」
「へー、どうでもいい。」
「なんでさ。」
「一生関わり合いになること無いからな。」
「本人の目のまえでそういう事言わないでくれよ……カツミくん。」
俺の容赦ない物言いにアドルフは、困惑気に言う。
「この学園を去ったら、晴れて他人だ。俺の人生に干渉しないなら興味ない。それだけだ。」
「ええ…。」
俺はこいつが嫌いだ。何故かはわからんが、こいつから俺の嫌いなにおいがする。
「ちょっと!何よ、その言い方!」
「そうだよ!初対面ならそれ相応の礼儀ってものがあるんじゃないの?」
「これだから、頭脳明晰を謳うだけの野蛮校は…。」
なんか、取り巻きの女ABCが騒ぎ始めた。
女Aはアドルフとかいう勇者と似たような空気を纏った奴。
女Bは中性的な顔立ちで、男装させれば男に見える奴。
女Cは金髪の貴族。ウェンディのウザイ版みたいな奴。
もう一人女がいるが、冷めた目で勇者一行を見ている。
「ちょっと待って!」
どこかで聞いたことがある。
そう思って、声の方向を見ると……
「おお、ハルドじゃないか!久しぶり!」
「久しぶりじゃないよ!まあ、いいからこの後付き合ってくれないか?」
「授業は?」
「今日は無いよ。この学園は週の始めの日はHR終了後、基本自習だ。教えられることも重要だけど、自分で学ばなくちゃいけない。」
ああ、そういう感じか。実質、
「そういう事ならいいよ。付き合うよ。で、なんの用?」
「それは後で話す。出来ればシルさんにも来てほしい。」
「エレナは?」
「出来ればいない方が良い。君に隠してることがあるなら。」
「なら連れてくぞ。そんなもの無いからな。」
「じゃあ……連れてきても……いい、のか?本当だね?責任はとれないよ…。」
俺の言葉に、若干の不安を覚えながらハルドは去っていった。
「何がそんなに不安なんだ?俺に『転生者』だって打ち明けるのが。」
正直、そんな気はしていた。本来この世界では数学を事細かには習わない。
しかし、彼は何でもない事の様に反応した。これは、かなりの証拠になりうる。
俺は、そんなに馬鹿ではない。でも、奴が何故そんなに怯えるのかが分からない。
まあ、いいか。それも分かるんだろう。
その後、HRも終わり俺たちはマモンを屋敷に帰して、俺達は席を立ちあがる。
すると、さっきの女Aが嚙みついてきた。物理的にではない
「ちょっと!ちゃんと謝りなさいよ!」
なんの話だ?
「急にどうした?構ってられないからとっとと失せろ。」
「急にどうしたじゃないわよ!たかが留学生のくせに調子に乗って!誰を相手にあんな口をきいたと思ってるのよ!」
ああ、そのことか。
「分かってる分かってる。勇者様だろ?だから何だよ。」
「だから何、ですって?勇者とはこの世界で最強の者がなるのよ!あんたなんかアドルフの足元にも及ばないのよ!」
うるせえな、だから何だってんだよ。
「だとしても、それはお前が怒ることじゃない。本人が憤慨して俺を責め立てるのならわかるが、てめえがすべきことじゃねえんだよ。しかも、聞いてみればなんだ?俺より強い?馬鹿も休み休み言え。」
俺の言葉に、女Aはさらに語気を強める。
「あんたみたいな田舎っぺの何にアドルフを上回る要素があるのよ!アドルフは優しくてみんなを助けてくれる
何をそんなにイライラしてるのかは、もう興味ないがここまで言われると腹が立つ。それに、「このクズ!」という発言に、エレナとシルの目が据わってしまった。
故に、早々に切り上げよう。
「勇者がどうかは興味は無いが、少なくともアドルフとかいう勇者より、あいつの方がずっと強い。」
「え!?わたくし!?」
俺は先ほどの凰蓮・ピエ〇ル・アルフォンゾみたいな生徒を指さす。
つーか、喋り方まで凰蓮・ピエ〇ル・アルフォンゾみたいだ。
決めた。俺、あいつと友達になる!
「はあ!?あんな、半オカマの何が強いのよ!」
「ひどい!?」
なんつーあだ名だよ。
まあ、そんなことは置いといて、こちらもそこまで寛容ではない。という事はそろそろ俺が沸点を迎えてしまう。
「さっさと消えろ。さもなくば――――」
「あんたなんかアドルフがワンパンで倒せるのよ!あんたみたいな雑魚はとっとと謝って……っ!?」
「殺す。」
俺は今の一瞬で女Aの眉間に人差し指を当て、言葉を止める。
「ベタな言い回しをするのなら、今の一瞬で俺は、お前のことを四回は殺せた。」
「あなたみたいな人がそんなこと出来るわけ…。」
「お前が誰をどう評価しようが知ったこっちゃない。だが、その価値感を俺に強要するな。勇者だからそんな口の利き方が許されないだとか馬鹿なことに耳を貸すつもりは無い。実際にてめえは俺に指をあてられるだけの隙を見せた。お前は俺より弱い。」
「わ、私はただ一言アドルフに謝れって、そう言ってるだけなのよ!」
「うるせえ。もう話すことは無い。行くぞ、シル、エレナ。俺より先に問題を起こすなよ。」
「「……」」
二人共、滅茶苦茶女Aのこと睨んでますね…。
まあ、知ったこっちゃないけど。
そうやって、俺たちはHR後の教室を出て行った。
その後、ハルドと合流し、ハルドの指定した店に行くと、個室に連れていかれた。
個室には、ハルド、ルナ、シル、エレナ、俺の五人がいる。
そして、ハルドとルナは酷く緊張している。
結婚報告か?
いや、まあ、なんの話かは分かってるけど…。
「ハルド、言わないと。」
「そうだね。ちゃんと謝らないと。」
ルナの言葉に、ハルドは俺とシルを見て―――――
「あの時は本当に申し訳ありませんでした!」
土下座した。
前言撤回。なんの話?
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