第57話 ブローカ邸

 『―――――――――では、交換留学に行く人たちは我が学園の生徒だという事を忘れずに行動するように。』


 学園長の長ったるい話が終わり、ようやく俺たちはマモンの家に向かう馬車に乗った。


 また、馬車か…。酔いたくない…。


 「克己、膝枕する?」


 「ああ、頼むよ。」


 前例があるため颯爽とシルが俺を自身の膝に誘導する。


 そんな姿を見てマモンはニヤニヤとしている。


 「君たちは本当に仲がいいね。」


 「カツミは私とも仲が良いのよ!」


 エレナは負けてられないとばかりに手を繋いできた。恋人つなぎだ。


 「カツミ、シル、帰りは私が膝枕するからね!」


 「分かってるわよ、エレナ。私たちも仲良くよ。克己は私も、エレナも大好きなんだから。」


 そんなやり取りにマモンは耐えられないとばかりに腹を抱えて笑う。


 「アハハハ!修羅場に見えて修羅場じゃないし!滅茶苦茶仲良いじゃん!」


 「何がそんなに面白いんだよ。」


 「だって、前の世界じゃありえないじゃんか。だって、傍から見たら堂々とした不倫じゃんか。」


 やめろ、そういう事を言うのは。


 「カツミ、そんなこと思ってた?」


 ほら、余計なことを言うから、余計な心配をさせる。


 「思ってないよ。エレナもちゃんと大事な家族だ。」


 「カツミ…。」


 エレナが目をうるうるさせてる。やっぱりエレナは不安なんだろうか。


 エレナも、性の無い一般人だ。やはり、元とはいえ貴族のシルとは考え方が違うのかもな。


 「大丈夫だよエレナ。エレナが俺を裏切らなければ俺は絶対に傍を離れないよ。」


 「カツミ!」


 俺がちょっと歯の浮いたようなセリフを言うと、エレナは俺に抱き着いてきた。


 今、俺は寝てるんだが?


 あ、ちょ、揺らすな!気持ち悪くなるから!


 「ちょっと待って、エレナ!それ以上は克己が持たない!」


 「俺が求めてるのはこういうシーンじゃないよ…。」


 馬車酔いでダウンして膝枕してもらってる俺に抱きついているエレナの制止に入るシル、それを見てがっかりしているマモン。移動中の馬車はただただカオスの一言だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「おかえりなさいませマモン様。そして、ようこそいらっしゃいましたお客様の皆様。」


 なんか、日本語おかしくないか?いや、いいのか?違和感が凄いな。


 あれから数時間後俺たちはマモンの家、ブローカ邸についた。


 その時の出迎えはメイド一人だ。この世界の常識は知らんが、少々出迎えの人が少なくないだろうか?


 「ごめんな、出迎えが少なくて…。この家じゃ、俺はあまりいい目で見られてないんだ。」


 俺は彼の状況をよく知っている。素手で戦うのを得意としている彼に、基本魔術か剣で戦うこの世界では根本的に合わないのだ。


 さらに、この家は武闘派の集まりでよりマモンは蔑まれてきたのだ。


 「紹介するよ。このメイドの子がナナ。この家で唯一俺に親しくしてくれる子だ。」


 「そんな……滅相もございません。」


 マモンの言葉に、メイドのナナは俯きながら謙遜する。


 あ、これは。


 好きなんだなマモンのことを。


 「なに?ニヤニヤして?」


 こいつはこいつで鈍感だな。


 「何をしに戻ってきたこのゴミ!」


 玄関前で色々やっていると、いきなり辛辣な言葉が飛んでくる。


 「ただいま、兄さん。交換留学の話があったからクラシス闘学園に行くことになったんだ。だから、半年くらいだけ、この屋敷に戻ることにしたんだ。」


 「黙れろくでなし!貴様なんか弟とも思ったことは無いわ!」


 質問したのはあっちだろうに…。


 別に俺が言われてるわけじゃないが、少々腹が立つ。


 「いいえ、腹違いとはいえ私たちは家族です。そこは捻じ曲げられません。」


 「そんなことはどうでもいい!それよりもそいつらはなんだ!」


 ああ、飛び火してきた。


 マモンの兄は、気に入らない奴を見つけたのか、追い出さんとする勢いで指さしてくる。


 俺、何かした?


 「この人たちは私の客人です。今度一緒にクラシス闘学園に行く。」


 「ほう、で、この屋敷に下宿させてほしいと?」


 「まあ、そうなりますね。」


 マモン兄はニヤリと笑い、俺たちを見る。


 なぜ、こいつはこんなにも高圧的なんだ?殺すぞ?


 「貴様の友人など所詮雑魚だ。そんな者達を泊める理由なんてない。」


 「モリス様、それを決めるのは当主様であって、モリス様ではありません。さあ、お客様、こちらへ。」


 俺が少しづつ殺気を出しているのに気が付いたのか、メイドのナナが話を切り上げて俺たちを客間に連れて行こうとするが、それが気に入らなかったのか、モリスが通り道を塞ぐ。


 「この屋敷に泊まりたいのなら俺様を倒してから言うんだな!」


 そんな雑魚みたいなセリフを吐かなくても…。


 「兄さん、やめてください!」


 「黙れ!いくぞ!」


 モリスは、マモンの制止も聞かず俺に突っ込んでくる。壁に立てかかっていた薙刀を持って。


 見た感じ、素人―――――というより実践経験が不足している。それじゃ勝てないよ。


 「シッ!」


 「ピギャッ」


 俺は突貫してきたモリスにハイキックをお見舞いして、気絶させる。


 というか、今の悲鳴はきもすぎるって。


 「この人に喧嘩売ったら怪我じゃ済まないからさ…。」


 「お前、止める気なかったろ。」


 「バレた?」


 バレバレです。

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