第55話 黄金の槍
「「覚悟も、経験も、何もかもが違う!」」
今のマモンは、俺が出会った時とは違って本物の正義のヒーローそのものだ。
なぜそんな純粋な奴が学校にいる時のような性格になってしまったのか…。
今ならマモンがどうしてそうなったのか分かる。感覚を共有すると同時に記憶も見ることが出来た。
俺の世界で起きた多発する高校生の事件、事故死の数々。すべてのことが世界そのものが改変され、邪神たちに意図されて起こったものなのならマモンも、その恋人もただの被害者だ。
だから……だからこそ許すわけにはいかない。
「行くぞ、マモン俺のイメージは見えるか?」
「ああ、見えるよ。君はとんでもない人にとんでもない力を与えられたんだね。」
「そうだろ。滅茶苦茶だよ。」
おそらく、マモンも俺の記憶を見たんだろう。
もう、俺だけの戦いじゃない。転生者全員が被害者だ。俺は、マモンのような奴を救うべきなのかもしれない。
オーディンはこれを望んでいたんだろう。
俺はマモンとの確認も取ったのでスキルを起動する。
「開門、第十一獄門α」
覚醒中は俺の獄門術の代償を伴わなくなる。だからといって、【伝説猫の絶対支配】は常時使えるわけじゃない。
使用条件は後々話すとしよう。
「「『光は邪神を穿つ槍、神をも殺す黄金光』」」
詠唱を始めると、俺とマモンの間に光が集まり始める。
その光に二人で手をかざすと槍が形成される。
イメージは文字通り神を刺し貫いて殺す一撃。
「「
詠唱が終わると、
「ぐぶっ…。」
「克己……終わったよ。予見眼で見たからわかる。奴は消滅する。」
「ああ、そうみたいだな。」
「クソ……人間に、この私が……神が……負けるわけ…。」
死が確定しているのにも関わらず奴は生き残ろうと必死にあがいている。
「この……下種の分際で……。」
「お前、元々はその下種だったんだろ。それに、今どんな気分だ?そんなに見下してた人間に負けるのって。」
「私は貴様たち人間に負けたのではない。私は、お前の後ろにいる神に負けたのだ!粋がるなよ人間!」
そう言うとデルフィニウムは光となって霧散していった。
「終わったな…。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すまなかった!洗脳されていたとはいえとんでもないことをしてしまった。」
「いや、俺には特に被害なかったし別にいいよ。むしろほかの奴らに謝った方がいいんじゃないのか?」
アリスとかイリスとか。
「それもそうだな。この一件が終わったら被害を被った人たちに謝り行くよ。でも、魔獣を復活させたとして極刑は免れないと思うけどね…。」
「それなら安心しろ。」
「え?」
「取り敢えず、主犯は教皇ってことにしておく。お前は操られてたってことにしておく。」
「でも、君がどうこう言ったところで相手は国だよ?」
「そこらへんは任せろ。贖罪はするんだろ?」
「うん。他にも邪神の被害者はいるんだろう?なら、その人たちを助けないと…。」
うん。素のマモンは良い奴だな。嘘の気配がない。
今のこいつなら十分信用できる。王にある程度の釈明はしておくか…。
「カツミー!」
俺とマモンが会話しているとエレナ達が現れる。
「克己、大丈夫なの?怪我してない?気持ち悪くない?おなか減ってない?それとも私を抱く?」
「待て待て、情報が追い付かない。あと、この状況じゃ俺は人を抱かんぞ。」
「何かしてほしいことが何でも言って。あ、キスする?お疲れ様のちゅー。」
「話聞いてたか?」
「ふふ、あはははははは!」
シルと頭の悪い会話をしていると突然マモンが笑い出した。
「なに?なんであなたがここにいるんですか?」
エレナ、殺気を出すのやめようか…。
「俺は、こんな幸せそうな奴らを壊そうとしてたのか…。こんな、壊す意味なんてないだろ…。もう一周回って笑えてくるよ。」
やべえ、まともな奴かと思ったら全然イカレてるじゃん。
「カツミ、こいつですわよね。学校に黒狼軍をけしかけたのは。」
「まあ、そうだけど、大目に見てやってくれ。洗脳されてただけなんだ。今のお前ならわかるだろ、奴の雰囲気が違うのを。」
「言われてみればそうですわね。でも、この男の罪が消えるわけではありませんわ。」
ウェンディは堅いなあ。
「だったら、この先の行動を見ればいい。それだけだろ?」
「みんな!」
俺とウェンディの会話を遮って、マモンが声を出して注目を集める。
「君たちには黒狼軍の一件で大きな迷惑をかけてしまった。だからこそ、ひとこと言わせてほしい。
本当にすいませんでした!」
マモンは、そう空手を習ってた影響か元気一杯に謝罪してきた。
その謝罪で、とりあえずはシル、エレナ、ウェンディからの心象は少しは良くなったんじゃないかと思う。
覚醒編完
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