第53話 第一獄門α

 「なんだ!?何が起きている!」


 突然俺に現れた発光現象。俺自身も何が起きているのか分からない。


 だが、力が溢れてくる。


 おそらく、オーディンが俺に渡した目に何か仕掛けがあったんだ。


 それが今作動した。覚醒としておこう。


 伝説猫の絶対支配キャスパリーグエンペラー


 使ったことが無いのに名前も力の出し方も分かる。


 これなら殺れる。


 「いくぞ、デルフィニウム!」


 「人間ごときがあああ!」


 邪神が猛スピードで突貫してくる。


 しかし、俺の目の効果で速さにも追い付けるし、応戦できる。


 カイノルークの方が何倍も強敵だった。


 「不老不死になったからと大して戦う術も学んでいないんだろう!だから、踏み込みも立ち回りも何もかもがお粗末だ!」


 「黙れえええええ!


 いでよ!我が眷属!」


 デルフィニウムの問いかけに地面から無数の敵が現れる。


 まるでショッ〇ー戦闘員だ。


 数が多い。


 だが……


 「所詮雑魚だ!


 【闘圧】!」


 覚醒によって手に入れた力で雑魚を一掃する。


 効果内にいるなら、雑魚程度は触れなくても倒せる。


 「フハハハハハ!隙ありだ!」


 「うおっ!あぶなっ!」


 デルフィニウムが先ほどの攻撃をしてくるが察知して避ける。


 あれはどうにかならないのか?


 先読みが出来れば奴の隙にも入り込めるんだが…。


 ないものねだりをしても仕方ない。


 予測が出来なくても敵がどこにいるかは分かる。


 「フハハハハハ!やはりが人間ごときに甘んじている貴様らが勝てるわけがないんだ!」


 「調子に……乗るな!」


 今の俺なら獄門術の新たな力を引き出すことが出来る。


 「開門、第一獄門α」


 俺がカイノルークに使った時の様に瘴気が俺の周りを漂い始める。


 これでは仕留められない。この次の一手まで考えろ。


 「『ひれ伏せ貴様の業を、死した魂の怒りを受けて』」


 生半可な攻撃は通用しない。


 本来なら必殺の一撃を布石の一手として……


 俺は顕現した瘴気を全て拳の一点で支え、拳を形成して前に打ち出す。


 「黒き死者の拳ブラック・アンデットフィスト!」


 「ぐっ……。」


 今の俺なら代償無しで獄門術を使える。


 相手はまだ怯んで動けない。


 攻めるなら今だ!


 「死ねやああああ!」


 邪神たちは絶対に殺す。すべての元凶。華怜を傷つけた張本人たち。


 誰が何と言おうと、こいつらは有罪ギルティだ。




 死、あるのみ!




 しかし、俺の攻撃は当たらずデルフィニウムもどこかに消えてしまう。



 「どこに行った?」


 「舐めるなよ、人間ごときが!」


 再び声を発したと思ったら、デルフィニウムは俺の視認できる限界の距離に移動していた。


 いつの間にか移動した奴は何かの術を構築し始める。


 そして、俺が対処する前に構築が終了してしまった。


 「貴様からその光を奪えば、この戦いは終わる。力に溺れた貴様に我々財団が負けることはないのだ!」


 「誰が、力に溺れてるって?不老不死になったくらいで粋がってるやつに言われたくねえよ。」


 「黙れ!失せろ!死ね!」


 語彙力が…。


 「【イコール・ゼロ】」


 デルフィニウムが術式を発動すると、周囲に光がいきわたり始める。


 「これはっ……感覚が…。」


 引き戻される…。


 【伝説猫の絶対支配】の効果が消されたのか?


 「違う。何かが違う。」


 「私が相殺したのは貴様の速さだ。私の速さを持ってすればこんな事造作でもないわ!」


 いや、奴も限界のはずだ。


 奴は俺の速度を相殺したと言った。


 おそらく奴の今放った術は自分の能力をマイナスに反転させて相手の効果を打ち消すものだろう。


 奴は、術発動後。俺と渡り合った速度を出して仕留めなかった。


 そして、奴は俺の「速度」以外は打ち消さなかった。いや“打ち消せなかった”の方が正しいだろう。


 おそらく奴も俺と同様加速できないはずだ。


 「克己、右斜め前から火属性魔術だ!」


 俺が冷静に分析しているとマモンから必死の声が届く。


 俺はマモンの声に反応し魔術を避ける。


 「克己、俺も戦う!」


 「馬鹿!お前がどうこうできる相手じゃない!」


 「そんなの百も承知だ。今の一瞬の攻防さえ俺には見えなかった。」


 「なら……「でも!」


 俺の言葉を遮るようにマモンは続ける。


 「予見が出来ればもっと戦いやすいだろう!」


 何を言って…。


 いや、言いたいことなんてわかってる。


 「俺がこんな事言える義理じゃないのは分かってる。だけど聞いてくれ!」


 皆まで言わなくてもわかるさ。


 俺と……


 「俺と戦ってくれ!」


 戦ってくれ。だろ?


 「そこまで言うなら、ついて来いよマモン!」


 「ああ、どこまでも食らいついて見せる。本物の英雄になるまで。」


 「人間ごときが束になったところでなんの意味があるというのだ!」


 あるに決まってんだろ!


 人は一人じゃ生きていけないんだよ。


 力があろうがなかろうが、一人ってのは寂しいんだよ。


 生きていくために、明日を手にするために、人は手を取り合うんだ。


 今の俺とマモンなら出来るはずだ。


 「デルフィニウム、てめえは道を間違えた。」


 「デルフィニウム、あんたは人を見下し過ぎた。」


 俺とマモンは手を握って前に掲げる。


 「「さあ、お前の罪を数えろ!」」


 「人間ごときがああああ!」


 さあ、ファイナルラウンドのスタートだ!


 「「開門!」」

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