第51話 降臨

 「鍵穴?」


 俺は戦闘の最中に気になった場所に来ていた。


 牛鬼の頭頂部だ。


 戦闘中にここの辺りにずっと力の根源みたいなのがあったのだ。


 最終的に何もなかったものの、実際に見ると驚きを隠し得ない。


 牛鬼の体の中は肉体も多かったが、ほとんどが機械仕掛けだった。


 動力源も正直よく分からない。でも、この世界の技術力じゃ到底作りえない代物という事は俺でも分かった。


 極めつけは頭にあるこの鍵穴だ。


 これが何に使われていたのかが全く分からない。


 というよりこの形状どこかで見たことがあるな。


 俺が牛鬼について調べていると、ハルドがこちらに近づいてきた。


 「いたいた、克己君大丈夫かい?」


 「ああ、ハルドか…。見ての通り牛鬼は倒した。あと、ありがとな。」


 「いいって、君がいなきゃ結局倒せないんだったし。こちらこそありがとう。」


 それよりもこいつ牛鬼だ。


 いや、俺がやることじゃないか…。騎士団とかに任せればいいか。


 そんなことを考えていると丁度良く騎士団がやってきた。


 俺の前で止まると、騎士団長が一歩前に出てきた。


 「貴殿の活躍見事であった。しかし、貴殿の行動は作戦を大きく無視する行為。貴様には罰を受けてもらう。」


 何言ってんだこいつ?というか討伐の功労者に向かって『貴様』とかボケもいいとこだ。


 「馬鹿か?大した作戦も思いつかずに後ろにいただけの雑魚が何をほざいてやがる。消え失せろ。」


 「なんだと貴様!

 全員、抜刀!」


 騎士団長の掛け声とともに騎士団の全員が剣を抜く。


 「ちょっ、まずいよ。克己君、謝らないと――――――」


 「だから、馬鹿か?大したことない雑魚の寄せ集めじゃ俺には勝てねえよ。牛鬼より強いなら別だけどな。

 我こそは牛鬼より強いと思う奴から来い。その代わり死ぬ気で来いよ。俺は邪魔する奴は殺す主義だからな。」


 俺がそう言って威圧を放つと、騎士団が一斉に尻込みする。


 やはり雑魚か。


 特に戦う素振りも見せないので、俺は早々にその場を離れる。どうせいたところで得るものはもうないしな。


 後はハルドに任せよう。


 俺は勝利を隊長やシル達に報告するために救護班のいるところへと向かった。


 「っ…。殺気!?」


 俺はいち早くそれ殺気を感じ取り、迫る剣劇を防いだ。


 「お前はマモンか…。」


 「どうして……」


 「あ?」


 「どうしてお前なんだよ!」


 は?ヒステリーかこいつ?


 何かしただろうか、俺?


 「どうした、どうした?俺はこの討伐からお前には関わってないはずだぞ。」


 「なんでお前が牛鬼を倒すんだよ!それは俺の役目だ!聖剣に選ばれた英雄である俺の役目なんだ!」


 やばい、何言ってるのかさっぱりわからん。


 「俺が英雄なんだ。俺が世界を救うんだ!」


 「英雄?笑わせるな。人を身代わりにして逃げるような奴が英雄?冗談もほどほどにしてくれないか。」


 「だとしても俺は聖剣に選ばれた。だから英雄なんだよ。」


 「お前それ折れたんじゃなかったの?」


 マモンの手にはあの時折れたはずの聖剣(笑)だった。


 つーかそれで俺を斬ろうとしたの?頭おかしいのか?


 「これは聖剣だ。何度でも蘇るんだよ。」


 「質量保存の法則はどこへ?」


 「そんな物理法則なんかこの異世界じゃ通用しないんだよ!」


 そらそうだわな。


 ……今なんつった?


 「お前、転生者か?」


 「なんで、それをお前が知ってるんだ?ああ、そうかお前も転生者か。」


 そうか、マモンも転生者か。前世は中二病か?それともこの世界で何かあったのか?


 少なくとも奴が邪神に騙されているのは明らかだ。


 「俺はあの時啓示を受けた。事件で死んだ俺にだ。『あなたは真の英雄になる資格がある』と。そう、俺が英雄だ。俺が英雄になって世界を救ってやる。」


 「そうです。マモン殿こそ神に選ばれた英雄なのです。さあ、ひれ伏しなさい。」


 教皇まで出てきた。グルだったのか。


 いや、口車に乗せられた可能性もある。


 「偽りの英雄なんていらねえんだよ!死ねええ!」


 ガァン


 俺はマモンの剣を難なく受け止める。


 「鈍い音だなあ。本当に剣かそれ?」


 「うるさい!」


 今のマモンは冷静さを失ってる。目を使うのも忘れてるみたいだ。


 それよりあの剣、よく見たら牛鬼の頭にあった鍵穴にぴったり一致する剣幅だ。


 「これは予想なんだけどな。おそらくそれに牛鬼を倒す能力は無いぞ。」


 「そんな馬鹿な話があるか。聖剣だぞ。」


 まあ、信じねえよな。


 「多分それは討伐用じゃなくて封印専用じゃないかと思う。

 牛鬼の頭に鍵穴みたいなのがあった。そこはおそらく力の放出点、奴の力の源だ。それを抑える力を持つのがその聖剣という物じゃないのか?」


 「そんなわけないだろ!俺は英雄なんだ!」


 「自分も薄々気付いてるんだろう。お前は英雄という願望に呑まれて正常な判断が出来なくなっていることに。」


 「違う!俺は英雄、英雄なんだ。英雄じゃないと家族が俺を見てくれない…。」


 これがこいつの心の闇か。なんの才能も持たずに生まれたこいつは家族に見放されたのだろう。


 それが第二の家族であってもそれはこたえたのだ。


 「お前がどんな状況に置かれていたかは知らないから、俺は何とも言えない。

 だが、お前が見えなくなっているだけでお前のことを見てくれた奴もいるんじゃないか?」


 「何を根拠に…。」


 「根拠なんてない。でもな、お前を誰も見てないなんて考えるのはお門違いだ。お前の言う英雄は誰かに認めてもらわないと死ぬのか?」


 「それは……」


 「人は英雄になろうとした時点で英雄にはなれないさ。英雄と呼ばれる奴らはその先を目指してるんだから。」


 「俺は、英雄になれないのか?」


 「そういう事じゃない。お前が間違った目的に進まないのならまだなれるのかもしれない。

 誰かのために戦えばいつか誰かに英雄って言われる日が来るさ。」


 「そう……だよね。英雄は誰かに認められたから英雄なんだよね。

 ごめん。今までの行いを詫びさせてくれ。それとありがとう。人として大事なものを失う前に止めてくれて…。」


 人として大事なものか…。


 ルナやハルドに言われたけど、今の俺にあるのかな?


 マモンの牙は折れた。後は事後処理だけか?


 しかし、それを良しとせぬものもその場にいた。


 教皇だ。


 「なりません。我らが神はそんなことを望んではいません。神は、英雄を、いや勇者を求めているのです。魔族を殲滅するための!」


 魔族が何をしたっていうんだ?


 「それが本当ならなんのためらいもなく人を殺せる猟奇殺人鬼を使った方がいいと思うぞ。」


 「戯言を…。神が求めているのは純朴で素直な青年をご所望です。」


 純朴で素直?


 「克己……目線が痛いよ…。」


 「ないわー。」


 「なにが!?」


 いや、素のマモンはそうなのかもしれないけど今のこいつは正反対だろ。


 「すべては神の御心のままに…。神の教えに従えばすべてが救われるのです。」


 狂信


 ただ、その一言に尽きる。


 『その通りです。』


 「「「!?」」」


 どこからの声だ?


 『私たちに従えばこの世は救われます。この世界は二度も過ちを犯してはなりません。』


 俺たちが声の主に目を向けるとそこには――――――


 「おお、我らが神よ…。」


 神々しいまでの後光を纏った存在。純白の翼を生やした、まさに神と言われてもおかしくない存在。


 『マモン、いや華雪かせつよ、英雄を求めなさい。求めれば救われます。どこまでも信じることが力になるのです。』


 マモンの前世の名前を知っている。という事は…。


 「それは違う。今そこの男に教えてもらった。英雄は自らなるものじゃない。ましてや自分で望むものじゃない。

 それを求めて他人に強要して、他者を見下すのはただの傲慢だ!」


 神の僭称


 転生者


 

 間違えない、こいつは―――――



 「なら仕方ありません。私が直々に教えてあげましょう。望むことが何よりも力を得ることを。

 この私、デルフィニウムが。」





 傲慢の―――――――――







 邪神

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