第50話 牛鬼

 「しっ!」


 俺はハルドの狙撃が決まり悶絶している牛鬼に一撃を入れる。


 だが、さほどのダメージは見られない。


 狙撃は決めてもらった。こっからは俺の仕事だ。


 「染式流 桜木舞 【天翔てんしょう】」


 天翔は斬撃を飛ばす技だ。


 そう、ゲームでよく見るあれである。


 俺が飛ばした斬撃は牛鬼の足を両断する。


 しかし、奴の足は八本。一本やったところでだ。


 「クッソ!どうしろっていうんだ!」


 幸いにも目がつぶれているおかげで反撃はない。


 だが、いつ奴の目が治るか…。


 「ギャオオオオオオオ」


 「この咆哮は!?」


 砲撃の前触れだ。


 まさか目をつぶしてもホーミングがつくのか?


 俺の予感はものの見事に的中。奴の砲撃がこちらに向かってくる。


 「嘘だろ!マジないわ!」


 取り敢えず走って避けるもののまだまだ追いかけてくる。


 「もういっちょ、【天翔】!」


 ひとまず砲撃はこれで何とかなるな。


 ここからが本題だ。


 倒す方法がない。


 これは詰みですね。


 なんて言ってる場合じゃない。


 体の外殻が馬鹿みたいに硬くてそもそも刃が通らない。


 じゃあ、頭を狙えばいいと思うがそんなに簡単じゃない。


 奴の力の根源が頭に集中しているんだ。


 頭に何かがある。その危険信号のせいで俺はまともに頭に接近できない。


 「ギャオオオオオオオ」


 「バカの一つ覚えみたいに同じ攻撃ばっかしやがって。」


 おそらく見えないから俺への攻撃はホーミング弾砲撃一辺倒なんだろう。


 俺はもう一度走り出して考える。


 どうやって倒す?


 腹だ。


 亀は背中に甲羅があるが、逆に腹はむき出しだ。


 思い立ったらとすぐに牛鬼の背後に回り、暴れまわる足を回避して腹に一撃を入れる。


 「染式流 桜木舞 【花月かげつ】」


 牛鬼に迫る俺の斬撃は……


 カンッ


 硬った!


 全然刃が通らないじゃん!


 そういやこいつの体は蜘蛛だ。どちらかというと虫に近いか。


 虫とかは全身外骨格によって覆われてる。


 そら硬いわ。


 「やっべ、どうしよう…。」


 あんな大見えきって撤退は嫌だな。絶対笑われる。


 生贄作戦を提案するような奴らに笑われるのだけは嫌だ。


 こうなったらやけくそだ。


 いくら外殻が固くても、心臓まで鍛えられないだろう。


 俺は出来るだけ高い瓦礫の山に乗って飛び降りた。


 よくよく考えたら奴は俺の位置を補足できない。


 頭に何があろうと奴が攻撃してくることはない。


 「だあああああああああああああ!」


 が、暴れまわる牛鬼は予期せず足が頭の前にくる。


 やばい、当たる!


 そう思った矢先、頭の前に来ていた足が宙を舞った。


 直後、何かが爆発したような音が聞こえてくる。


 ハルドだ。でかしたぞ。


 「染式流 桜木舞 【桜花閃】!」


 俺は牛鬼の口から体内に侵入し、内側から全てを破壊する。


 「ギャアアアアアアアア!」


 周囲に牛鬼の絶叫が木霊し、より一層暴れ始める。


 しかし、急に動きが鈍くなり最終的に牛鬼は動かなくなった。





 ―――――――――牛鬼、討伐



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「なんだここは?」


 俺は牛鬼の中にいるはずだよな。


 なのになんでこんなに―――――――

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