第48話 異常者
「治ってるな…。」
俺が改めて牛鬼を見ると、先ほど付けた傷が完全に癒えていた。
弱攻撃じゃ奴を仕留めきれないか…。かといって一撃で決めるのも現実的じゃない。
どうしたらいい?
「ギャオオオオオオオ」
俺が考え込んでいると、それを隙と見た牛鬼は攻撃をしてくる。
砲撃だ。
現在、牛鬼のヘイトはさっきの攻撃で俺に向いている。
なら、攻撃対象は俺だ。
俺は目を使って砲撃から逃れようとする。
だが……
「クソッ、なんて速さだ。目を使った俺ですら動いて見える…。」
というより、普通に動いてないか?
さっきはこんなに早くなかったはずだ。
俺は走りながらずっと考えている。砲撃に追われながらだ。
とにかく壁走りを駆使して、急な方向転換で砲撃をかわしている。
砲撃は急旋回はできないのか、俺が無理やり走る方向を変えると建造物に当たって、もれなく爆発している。
「ていうか、爆発するって殺意高すぎだし、そもそもミサイルじゃねえか。」
なんでそんなもんがここに?それも古代に封印された魔獣が…。
「そんなこと考えてる場合じゃねえ!」
俺は瓦礫に身を隠して思考を張り巡らせる。
状況を整理しよう。
今俺は目を使っている。それにも関わらず牛鬼は俺に追い付いている。
さっきの攪乱兵たちに対しては本気じゃなかった?
それは考えずらい。油断した人間ならともかく奴は魔獣――――――獣だ。
己を殺すものに対して手加減もくそもないだろう。
「ギャオオオオオオオ」
「まずいっ!」
俺はいつの間にか頭上に振り上げられた足をかろうじて避ける。
なぜ?なぜ、速くなった?
いや、考え方を変えよう。
なぜ速度が変わった?逆になぜ速度以外変わってない?
この戦場において変わった条件は奴の戦う相手のみ。
つまり、この変化の原因は俺?
速度が他よりも俺が圧倒的に早いから、牛鬼もそれに対応したのか?
じゃあ、なんでその対応力をさっき使わなかった?
それに対応できるという事はそれだけの力を持っているという事。
もしかして……
「自分の意志で力の加減が出来ない?」
俺はすぐさまに目を使うのをやめる。
すると、牛鬼の動きが止まった。
これ幸いと俺はハルドのいるエレナ部隊に報告しに行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ハルド!い……る……か?」
エレナ部隊に到着した俺は絶句する。
エレナが妨害してるはずの教会の部隊がほぼ壊滅していた。
魔術によって。
「僕はここにいるけど、これをどうにかしてくれー!」
どこからかハルドの声が聞こえる…。
「って、そんなことをしてる場合じゃない!」
俺はすぐに三人の場所を把握、そこに向かった。
「あ、カツミだ。ねえねえ、凄いでしょ。人の命を軽視するからこうなるんだよ!」
エレナが教会の奴らを指さしながら俺に話しかけてくる。
「だから、エレナさん、これはやり過ぎよ。流石のカツミも怒るわよ。」
「そうだエレナさん、何があっても殺人は正当化しちゃいけない。」
なんか二人に説教されてるがガン無視している。
「克己くん、何か言ってあげてくれ…。僕たちの言葉を聞いちゃくれないよ。」
そう言われたので俺はエレナに近づく。
俺が近づくとエレナは目を瞑る。
うん、あれはキス待ちだ。
ただ、この場でキスをすると俺もエレナもスイッチが入ってしまう。
「エレナ!」
「カツミ……むぅ、キスしてよ…。」
俺はエレナに
「えっと…克己君…。エレナさんに言ってもらわないと…。」
「なにを?」
「へ?」
ゑ?
ハルドは何を言ってるんだ?
別にエレナは何も悪いことしてないだろ。
「だから、克己君。エレナさんは教会の人たちを魔術で吹き飛ばしたんだよ。」
「別に良いじゃんか。」
「え?」
「邪魔者は死ねばいいんだよ。人を傷つけるような奴、人の大事にしているものを奪う奴、人の命を軽視するような奴らは死ねばいいんだよ。」
「ひっ…。」
?
俺の言葉の何が違うんだ?
死ねばいいじゃん。邪魔なんだから。
「ねえ、カツミ。私って何か間違えてる?」
「いいや、エレナ。何も間違えてないよ。君は正しい、さすが俺の家族だ。愛してるよ。」
「それは違うわよ!」
ちっ、誰だ、俺とエレナの邪魔をするやつは?
ルナだ。俺とエレナが熱い視線を交わしているというのにこいつは…。
「カツミの言うように人の命は軽視して良いものじゃないけど、カツミのその考え方は人の命を軽視しているわ!」
「何言ってんだ?人の命を軽視するような奴なんてゴミ以下のクズなんだから人じゃないだろ?」
「その考え方は異常よ。直した方がいい。理解されないから。」
何言ってんだ?
まあいい。俺はそんな話をしに来たんじゃない。
「ハルド。」
「は、はい。」
「お前に狙撃を任せたい。」
「え?」
「お前に狙撃を任せる。狙うのは目だ。」
「ちょ、ちょっと待って。僕、さっきも狙ってたけど全く見えなかった。おそらく 速すぎるんだと思う。」
「多分それは俺についてきたからだ。」
「どういうこと?」
「奴の能力は注目している相手の能力に比例するんだ。対象が速ければ速くなるように。」
「カツミ、比例って何よ?」
「ルナ、それは後で説明するよ。だから、克己と話をさせてくれ。」
「……わかったわ。」
そういえば、この世界の勉強のレベルは低いんだっけ?
じゃあ、ハルドはなぜ理解できた?
まあいいか。
「というわけだから、俺はお前が狙撃を決めるまで加速しない。だから、出来るだけ早く決めてくれ。
タイムリミットは日没で頼む。それを超えたら俺も狙撃が決まらなくても加速する。」
「わかった。」
「じゃあ、エレナ、行ってくるよ。」
俺はそう言うと、エレナの頬にキスをする。
「ん、行ってらっしゃい。」
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