第45話 仲間
「総力戦?」
「そうだ。このままでは勝てないと騎士団の奴らが提案したものだ。」
なんだ?その小学生でも思いつくような作戦は?
会議から戻ってきたカエデ隊長から聞いた作戦はとてつもなくアホなものだった。
まず、攪乱兵たちが敵に突っ込んで隙を作り、騎士団及び魔術師団が総力を上げて倒すという者らしい。
「なんだそのアホな作戦は?軍上層部はアホしかいないのか?」
「名目上は総力戦だが、おそらく騎士団の上が考えているのは生き残ることだろう。」
「どういうことだ?」
「私たち攪乱兵を生贄にするのが今回の作戦の段取りだ。」
カエデ隊長の話はこうだ。
聖剣以外にも魔獣を封印する方法が実はあったらしく、その方法とは聖剣の代わりを使う事である。
代わりにするものは何でもいいのだが、効率が良いのはやはり生命の命らしい。
そして、その生贄に選ばれたのが役立たずの攪乱兵という事だ。
総力戦の第一陣の攪乱兵の突撃を事実上の特攻に仕上げるつもりなのだろう。
その隙に封印、王都を放棄する。それが本当の作戦らしい。
「カエデ隊長はどこでその話を?」
「騎士団の団長と教皇が話しているのを聞いたんだ。」
なるほど、やはりこのことは知らされていないのか…。
「隊長はどうするつもりで?」
「私は、どうすることもできない…。攪乱兵はもとから金食い虫と言われ続けてたからな…。」
そうか…。なら、どうにかして牛鬼を倒さなければいけないな。
しかし
「それでも分からないことがある。封印するんだろう?何故王都を放棄する?」
「聖剣による封印と違って、命による封印は大規模な呪害を引き起こし新たな魔物の発生を促進する汚染地帯になってしまうのだ。」
なるほど納得。
「カツミはどうするのよ?」
「抵抗はしたいと思う。ただ、牛鬼をどうにかしなければならないからな…。」
「克己で牛鬼を倒せないの?」
「いや、無理だよ。そこまでの力はないから。」
こうなったら、まずは封印の魔術の停止が先決かな?
「カエデ隊長、封印の魔術に条件は?」
「いくつかあるが、必須条件は人の命を用いること。術者と同種又はそれに近い種族でないと発動できない。後は構築に時間がかかるというだけだ。」
「その魔術はいつ行われるか分かったりする?」
カエデ隊長は少し考える素振りを見せる。
「これは確実ではないが、今夜が一番有力だろう。」
「根拠は?」
「封印の魔術はいわゆる教会が扱う魔術、聖魔術だ。その魔術は、月が欠けるほど効果を失い、逆に月が満ちるほど効果を発揮するものだ。
そして今夜は周期的に見て満月の日だ。聖魔術を使うには今日ほど優れた日はない。」
「今夜か…。」
なら少しまずいな。もう日が沈みかけてる。
人手を集めるにしても多くは集まらないだろう。やはり、シルの言うように俺が頑張るか?
いや、それも面倒だな…。
攪乱兵の命を優先し、魔術の作動を停止させつつ牛鬼を倒す。
実質国を敵に回す行為。仲間もいない俺には何もできないや。
どうすればいいんだ?こんな状況。
俺が現実逃避を始めるとシルに声を掛けられる。
「克己。」
「どうしたシル?」
「八方塞がり?」
「まあ、そうだな。」
「なら頼ってよ…。」
「でもな、シルに頼ったところでこの状況が打破できるわけじゃない。いや、シルに限った話じゃない。ほぼこの状況は詰んでると言ってもいい。」
「頼ってよ!」
俺の言い訳にシルが声を荒げてくる。怒ってるようだ。
「なんで頼ってくれないの?状況が詰んでてもいいよ。苦しいとき、辛いときこそ頼ってよ…。私ばっかり施してもらって…。別にそれは悪くないよ。私のために尽くしてくれるんだから攻めれないよ。
でも…!」
シルは俺の胸に飛び込んで俺を見上げて目を合わせる。
「私はもっと克己に施したいし、甘やかしたい。頼ってくれないと寂しいよ!」
そう、泣きながら訴えるシルの言葉で俺は目が覚めた。
なんだ、俺にもいるじゃないか、仲間が。こんなにも思ってくれる大事な家族が。
仮面〇イダーには頼りになる助っ人が来るように。
スーパ〇戦隊には助け合える仲間がいるように。
ウル〇ラマンには戦いを援護してくれる仲間がいるように。
俺にもいるじゃんか、魔術が得意なやつ。なんでも再生できるやつ。剣が振れるやつ。少なくとも三人はいるんだ。
いつだって味方になってくれる仲間が。
「シル、ありがとう。」
「克己、大好きだから…。もっと頼って…。」
「ああ、俺もシルが大好きだ!早速頼らしてもらうよ!」
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