第43話 討伐

 牛鬼が復活してすぐに本討伐隊と攪乱兵たちが討伐しようと対象に向かって走っていくが、俺とシルは取っ組み合いの喧嘩をしていた。


 「あれは、BLAC〇 RXで登場したクライ〇要塞だ!」


 「違う!あれは、この〇ばで出てきたデスト〇イヤーだよ!」


 「「なんだと!」」


 俺たちは復活した牛鬼が何に似ているかで喧嘩しているのだ。


 「そもそも、デスト〇イヤーって、上空にゴーレムがいたはずだろ!」


 「そんなことを言ったら、クラ〇ス要塞って飛んでるじゃない!牛鬼は地に足をつけて走ってるよ!」


 「そんなことは問題じゃねえ!今は見た目の問題だ!あれはク〇イス要塞だ!」


 「絶対にデス〇ロイヤーだよ!」


 「「………」」


 「アニメオタク!」


 「うっさい!特撮オタ!」


 「「ぐぬぬ…。」」


 そんなことをしてるもんだから、周りからの注意が集まってしまう。


 しかし、そんな近づきがたい雰囲気に誰も近寄ってこない。


 俺とシルのボキャブラリーが尽きて、「アニオタ!」と「特撮オタ!」の応酬だけになった頃、ようやく二人を止める者が現れた。


 「ったく、喧嘩するにしても時と場所をわきまえられないのかしら。」


 「「うっさい!だまってろ!」」


 「ひっ、ごめんなさい…。」


 喧嘩の仲裁に入った少女は二人の剣幕に押されて、つい反射的に謝ってしまう。


 「って、あなたハルドをいじめてた!」


 「あ?そんなことしてねえよ。」


 そう言って、俺が仲裁に入った奴の顔を見る。


 すると、そこにいたのは先ほどハルドの一件で俺に怒鳴り散らした少女――――ルナだった。


 「あなた、ハルドに何をしたの!」


 「だから、何もしてねえって!」


 「え?なに?どういう状況?」


 また違うところで喧嘩が起こり、シルが置いていかれる。


 「この男がハルドに何かしたから、戦いの前にあんなに怯えたのよ!」


 「本当?克己、こんな大事な戦いの前に誰かをいじめてたの?」


 大事な戦いなら、その最中に喧嘩すんなよ…。


 俺はその言葉を呑み込む。実際、俺にも非があるからだ。


 「いや、本当に何もしてないし、過去にも思い当たる節が無いんだ。」


 「そんなわけ――――――」


 「討伐隊と牛鬼が戦いを始めたぞー!」


 偵察をしていた誰かが、そう言うと場の雰囲気が一気に変わる。


 「取り敢えず、この話は戦いの後でね。ほら、克己見に行くよ。」


 シルはそう言うと俺を連れてルナの下を離れる。


 俺の持ち場もとい、攪乱兵団の待機組のところに向かう。


 「あ、カツミさん。見ますか?」


 「あ、じゃあ頼むよ。」


 来てすぐに戦いの様子を見るか聞かれたので、取り敢えず見ることにする。


 それ以外にやることないし。


 今は、始まったばかりで目立ったけが人はいない。


 衛生兵の手伝いもすることが無いので、必然的に戦いを見るしかやることが無い。


 「結構順調そうに見えるね。」


 そう言ったのはシルだ。


 確かに、攪乱兵が上手く相手の注意を引いて、その隙に騎士団や魔術師団が攻撃するといった感じだ。


 今の段階なら安定かつ定石の戦い方だ。


 ただ、こちらとしても予想外の攻撃がある。


 ただただ、牛鬼から砲撃(しかもホーミングという超高性能な)が出てるのだ。


 これだといつ均衡が崩れてもおかしくない。


 単純に足を振り下ろすだけの攻撃と違って、ホーミング弾はその場その場で臨機応変に動きを変える。


 いつ、討伐隊の不意を打ってもおかしくはない。


 ただ、それを分かっていない程のバカの集まりではないようだから大丈夫だろう。


 それよりもマモンだ。


 「あいつなにしてるんだ?」


 マモンは聖剣を振り回して、討伐の邪魔になるようなことしかしていない。


 「克己、見て見て。エレナが魔術を打ってるよ。」


 「ホントだ。結構善戦してるな。」


 エレナは、ずっと炎系の魔術を牛鬼の頭に打ち込んでいる。


 「ねえねえ、ウェンディが戦ってるよ!」


 「なあ、どうやって見つけてるんだ?」


 ウェンディは騎士団と一緒に、牛鬼の攻撃で降りてきた足を斬りつけて攻撃している。


 この分なら倒せるだろう。誰もがそう思った時、一人の男がやらかした。


 「邪魔すんなよ!俺が…俺が倒すんだ!俺が英雄なんだよ!」


 そう言って、突貫する奴を誰も止めない。正確には気付けなかった。


 「マモン!何をしている。隊列を乱さずに冷静に攻撃するんだ!」


 「うるせえ!俺は英雄なんだ。敵は絶対に負けるんだよ!」


 何やってんだ、あいつ?


 「え?あの人何やってるの?」


 その様子を見ていたのであろうシルが声を上げて驚く。


 「マモンだよ、マモン。なんか、俺は英雄だから負けるわけない。とか言って突っ込んでる。」


 「え?克己、聞こえてるの?ていうか、そんなことしたら…。」


 「ああ、隊列が崩れる以前に作戦が成立しなくなる。」


 そんな俺達の考えとは裏腹にマモンは牛鬼に精一杯近づいて、聖剣を振りかぶった。


 バキッ


 しかし、聖剣は牛鬼を封印するどころかダメージも与えずに折れた。


 「は?」


 驚いてマモンは硬直してしまう。


 しかも、最悪なことに攪乱兵たちに向いていた注意が、硬直したマモンに向いた。


 「ひっ…。」


 牛鬼に睨まれたマモンは逃げようとするもその場から動けなり、その場に立ち竦んでしまう。


 そんなマモンに容赦なく牛鬼の砲撃が襲い掛かる。


 「危ないっ!」


 砲撃の集中砲火を浴びた一帯は砂煙やらで何も見えなくなった。


――――――――――――――


 「カエデ隊長は凄いな。あの状況でよく助けに行ったな。」


 「でも、次はないんじゃないかな?」


 「そうだな、見た感じ隊長が一番深手だ。」


 「どうするの?」


 シルはそう質問するが愚問である。


 「行ってくる。」


 「行ってらっしゃい。」


 俺は戦場に向かって駆けだした。


 同時刻 


 「痛っ!」


 牛鬼の砲撃は誰にも直撃せずに終わった。


 ターゲットだったマモンをカエデが身を挺して躱させたからだ。


 「一時撤退だ!動けるものは動けない物を担いで戻れ!」


 戦いの指揮をしていた男が言うと、戦っていた騎士たちが我先にと砦に向かっていく。


 「俺も逃げないと…。」


 聖剣を失い、戦うすべを失ったマモンはすぐに立ち去ろうとする。


 「た、助けてくれ。」


 「ん?」


 しかし、近くから声がしたので、声の主を探そうとする。


 すると、声のする方には一人の女性が仰向けに横たわっていた。


 見た感じ足を怪我して動けないようだ。


 「おい。」


 「む?あなたは、無事だったのか。無事なら突き飛ばして正解だった…。」


 「俺を突き飛ばしたのか?」


 「そうだが?しかし、あの場ではそうしなければ死んでいたのだぞ。」


 しかし、そんなことを考えられるほど冷静じゃないマモンはそんな言葉を受け入れない。


 「それよりも私を救護班まで連れて行ってくれないだろうか。どうにも足が動かなくて…。」


 「…………ざ……………な……。」


 「え?」


 「ふざっけんな!お前が突き飛ばしたから体痛めたじゃねえか!」


 「しかし、あの場ではそうしなければ…。」


 「俺は大丈夫なんだよっ!俺は英雄なんだ!こんなところで死ぬ運命じゃないんだよ!」


 「何を言って…。」


 「お前は英雄に怪我させたんだ!その罪を此処で償え!死んでおとりになって俺の役に立て!そうすれば許してやるよ!」


 「ま、待ってくれ…。」


 自分勝手なことを言って走り去って行くマモンの後ろ姿を、ただ見る事しかできないカエデは必死に手を伸ばすも誰も自分を助けてくれなかった。


 誰もいなくなった後、強い孤独感がカエデを襲う。


 「嫌だ。死にたくない…。」


 誰とも恋をせずに生きて、齢17にして死ぬと思うと、強い恐怖感が突き抜ける。


 しかし、そんなカエデにも牛鬼は容赦なく襲い掛かる。


 カエデを踏みつけようとする足。蜘蛛ならではの足で踏みつけられる。


 それを見ることしか出来ないはずだが、踏みつけられる直前


 世界がブレた。

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